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じゅびあの徒然日記

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2008年02月10日
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仕事柄、お酒の入っちゃっている患者さんをよく診る。
アルコール依存や離脱はもちろん、統合失調症や認知症の人が酩酊状態でさらに興奮しているケース。
人格障害の患者さんが酔っぱらって夜中に「診察しろーおら」と病院前で暴れたり。
へべれけのおっちゃんが「俺ぁ、今日は仕事に行きたくないから、診断書を書けやー」と言ってきたり。
後の2つはまず、「診察には、素面でいらしてくださいね」で済ませているが。

その日連れられてきたのは、毎日1升瓶を空けてはドアを叩き、夜中に妻を何度も叩き起こして少々マニアックな性生活を強要し、3食食べているのに「何日も食わせず餓死させる気か」と何度も食事を作らせるという男性。
妻はとうとう自宅から逃げ出してホテル住まい。
アルコール依存の治療は他で受けてきていたが(処方はされていたが本人、まったく断酒する気はなかった)、認知症がでてきたのではないか、ということで紹介されてきた。
診察室では当然「この小娘が」と私をにらみつけて興奮、指定医診察の上医療保護入院となった。
いくら入院したところで退院したら元の木阿弥になる可能性が高く、また退院後、入院前以上に妻への態度が悪化する可能性が高いことも説明したが、妻は入院を望んだ。

それだけの飲酒量があれば、入院して1日後あたりから激しい離脱症状が出てくるだろうと覚悟していた。
ところが、何も出ない。問題行動もない。
病院食は当然3回しか出ないが、それ以上を要求するわけでもなく、むしろ残し気味。
「先生、確かに先日は失礼なことを言いましたが、私は無理やり連れてこられたんだから当然でしょう」などと話し、さらに「私はなんの生きがいもなく、お酒を飲むくらいしか楽しみがないんです。どうせ長生きしようとは思っていないんだから。先生、あなたは他人で何も関係ないでしょう。余計なお世話ってことですよ。それくらい好きにさせてくださいよ」とおっしゃる。
心理検査もしてみたが、認知症もない。
妻のことは「自分の女房だから当然。あいつの方から見捨てられる?そんなことあるわけがない。あいつは離婚なんてつもりは毛頭ないです」と高をくくっている。

さて、困った。
医療保護入院させてしまった人に、精神症状が出てこないという事実。
一応入院時の検査所見が無茶苦茶だったので、とにかく断酒して1週間で、改善するかどうかだけは見せてくださいと本人に説明。
「先生、私が精神病だと今でも思っていますか?」と尋ねる彼に、私は首を横に振った。

一方で妻には、苦労されているのは分かっているから力になりたいが、精神病でも認知症でもないので、お帰しするしかないことを説明した。
妻は、取り乱したりすがったりすることもなく、静かに言った。
「つまり、病気ではないんですね。あの人は、全部分かって、私だけにやっているんですね。入院させてよかったです。入院させなければ分からなかった。私の気持ちは固まりました」
おっしゃっていることの意味はすぐにわかったが、何も言えなかった。
私は本来患者さんの利益を守る立場にあるが、同じ女性として心の奥底には奥さんに「逃げるしかありません」と勧めたい気持ちがあった。

数日後、彼の採血結果を見て退院を指示し、外来をやっていると病棟看護師が慌てふためいた様子で電話をよこした。
「先生、奥さんが迎えに来て、離婚届を書かせてます!よろしいんですか?先生。」
家で1対1になってからでは何があるか分からないから、確かに病院にいるうちに書かせるのが安全だ。
「そのまま、帰しちゃっていいんですか。先生。」
いいです、と答えて外来を続けながら、この先の彼の人生を思った。





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最終更新日  2008年02月10日 23時54分55秒
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