カテゴリ:~第3章~矢部教授、その恋
私は独逸に留学し、昼夜と無く勉学に勤しんだ。
遠きかの地の芳子さんに想いを馳せながら・・・・・・。 勉学が気道に乗り、独逸での暮らしにも大分馴染んできた頃、芳子さんと浩介の結婚を知った。 失意の中、私はライン川の辺に立ち、ローレライの招きにこの身を委ね様かと落胆の日々を送ったが、医学を志す身で逸れを潔しとせず、今一度、己を律し、ただただ医学への道を極めようとより一層勉学に打ち込んだ。 気が付けば、独逸に留学して10年の月日が経っていた。 ある日、ふらりと浩介が私の元を訪れた。 仕事で独逸に来たと本人は言っていた。 そして、「長年恵まれなかったが、漸く男の子が生まれたよ」と嬉しそうに報告した。 この頃、浩介の事業は思わしくなく、後のことだが人の噂に失敗と借金を重ねていたと聞く。 そのためだろうか。 ヤツの顔には年の割には深く刻まれた皺がその経営者としての苦悩を刻んでいた。 浩介は陽気に「今夜は飲もう!」と私を連れて飲み歩いた。 以前とは違い、浩介からは高慢な態度は消えており、私達はただただ昔話に花を咲かせた。 しかし、唯一、芳子さんの話だけは、とうとう、することがなかったように思う。 「日本に、帰って来いよ!もっとお前とは語りたいよ」 浩介は、豪快に笑い、私達は漸く親友としての親交を温めあったのであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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