小説「メビウスの輪」2
出来たら、「メビウスの輪」1から読んでくださると嬉しいです。 彼女が俺に振り向いてくれるにはどうしたらいいだろう。サークルの後輩なんて、恋愛の対象じゃないかな。それでも、ただ見てるだけでは嫌だ。アプローチして駄目だったら諦めもつくけど。ただ警戒心が強そうだから、あんまり強引に近づいてもなあ。家庭環境に恵まれてないみたいなことを先輩の女性と話していたのを聞いてしまった。「だから、ささやかでも幸せな家庭が欲しい」とか。いいとこのお嬢さんという感じだけど、影が薄いというか、控えめだよな。俺には身分不相応かもしれないけど、学生のうちの恋愛なら、いいじゃないか。結婚まで考えると確かに家の釣り合いも考えないといけないかもしれないが。彼女となら結婚してもいいかな。なに、付き合ってもいないうちから、そんなこと考えてるんだよ。とにかくまずは友達にならないと。先輩、後輩では友達とは言わないか。それでも、最初から付き合ってくださいと言っても、ますます距離を置かれてしまいそうだし、どうしたらいいんだろう。新歓コンパじゃ、みっともないとこ見せてるから、もう飲みになんて誘えないし。まあ、お茶とか食事に誘えばいいんだよな。それとも映画とか、遊園地とか。なんか、こんなに戸惑ったことはないなあ。高校時代は申し込まれて付き合ったこともあるけど、両親の不仲を見てるから、結婚や恋愛なんてと思っていたんだ。相手によるのかもしれないな。彼女ならもしかして、とか思ってしまう。思い切って声をかけてみようか。美術展なら安いし、気楽に行ってくれるかな。大好きな東山魁夷展が近くの美術館で催されてたから、行ってみたいと思ってた。高校の国語の教科書の表紙になってた絵を見てから好きになったのだ。彼女も気に入ってくれるだろうか。券を二枚買って、サークルの帰りに誘ってみた。「良かったら、東山魁夷展に一緒に行きませんか?」我ながら、ぎこちない誘い方だったが、彼女はハッと目を上げて、俺を見つめた。「私で良ければ・・・」と、か細い声で言いながら、目を伏せた顔が震えたように見えた。彼女との初めてのデート。楽しみだけど、不安だなあ。