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• ニューヨークの交通事情

  今朝、ローカルニュースでニューヨークの地下鉄と東京の地下鉄の違いを東京からレポートしていたのが目に入った。一番の違いはなんと言っても料金だろう。去年１ドル５０セントから値上がりして２ドル。マンハッタンの北端から、ブルックリンの最先端まで行っても、また４ブロック先まででも２ドル。一定時間内であれば、バスに乗り換えも出来る。その反対に、東京の地下鉄は区間ごとにの支払い。ニューヨークの地下鉄の方が絶対お得だ。そして２４時間運行。東京のように終電目掛けて駆け込む事もない。大学の寮に入った時、私が日本から来たと言ったらルームメイトが、｢東京の電車って白い手袋をした人がいて、人を押し込むんでしょ？｣そう聞いてきた。私はすっかり忘れていたが、それが一般に知られていた東京のイメージだったようだ。その他数人に同じ事を聞かれた。きっとアメリカ人にとっては｢白い手袋をはめた人｣というのが不思議に思えたのだろう。そしてレポーターは、東京では乗客が電車の来るまで、きちんと列を作って待つ事に非常に驚いていた。定期的に来る電車、それも時刻表通りに来るなどは、ニューヨークの地下鉄では考えられない事なのだ。たまに電車が来ても、後ろに電車がつかえていて駅を通過してしまう事もあるのだ。そして雨が降るとアウト。電車が来ない。すぐにマヒする。適切な情報がアナウンスされない。されたとしても、何を言っているのか解らない状態に陥る。日本にいた時大雨で地下鉄が来ないという事はあるのだろうか。電車が止まるのは、それだけではない。気分の悪くなった人や病人が出ると止まってしまう。日本の感覚なら、病気の人を電車から連れ出すのに、ニューヨークではその場で介護をするからなのか、とにかく止まってしまうのだ。実際に病人が私の近くにいた事はないが、病人のいた電車に乗り合わせた事は何度もある。その代わりとは言わないが、昔に比べたら安全。８０年代頃のグラフィティーで覆われた電車はもうない。日本の川崎が作ったキレイな車両だ。最近は時間や次の駅名を示す電光掲示板も車内に設置されたのも多い。ニューヨークの地下鉄は、日本だけではく他の大都会の地下鉄システムを学び、良いものを取り入れているように思う。またテレビに目を映すとレポーターが車椅子の身体障害者用の階段を映していた。でも考えると住んでいないからかもしれないが、日本で車椅子の人が電車に乗るのを見た事が無い。遊びに来ていた母の言葉を思い出した。｢アメリカって身体障害者に対しての福利がちゃんとしているわね。｣母が遊びに来ると、バスをよく利用する。マンハッタンは碁盤の目のようになっているので、複雑な地下鉄路線を利用するより母にとっては便利なんだそうだ。またその地区によって違う景色も見る事が出来るからだと言っていた。ある時、車椅子の人が乗ってきたそうだ。他に乗る人がいても、まず車椅子の人を優先に乗せる。バスには必ず２つは座席が折りたためるシートがあり、そこに車椅子を固定するのだ。その間、前と後ろのドアは閉まったまま。車掌さんが手伝って、車椅子の人が座席についてから人を乗せる。そして出入り口には、リフトが付いているので、簡単に車椅子でも簡単に出入りが出来るのだ。それを見た母が感心したと言う訳だ。私もよく車椅子の人達をバスの中で見かける。地下鉄はあまり覚えが無いが、グランド・セントラルのような大きな駅にはエレベーターがある。これは赤ちゃんを抱え、ベビーカーも同時に持っている人にも使われているようだ。また、レストランでは規定で車椅子の人が入れるような入り口で、またトイレもそうでないといけないらしい。配慮が行き届いていると言って良いだろう。ニューヨークの地下鉄・バスの運賃値上げが来年あるかもしれない。前回値上げした時はストがあるかもしれないと、大騒ぎだった。ストがあれば、近郊から通勤してくる人がマンハッタンに来れなくなり、世界の金を動かすニューヨークが麻痺してしまう。より清潔に安全で安く利用出来るといい。追記：今年はニューヨークの地下鉄１００周年記念の年だそうです。日本の地下鉄は戦後に作られているから、それより約４０年も古い事になります。

  Oct 18, 2004

• 病めるアメリカ人

  たまに会う友達がいつも私にある事を訊ねる。「アスピリンある？」この彼女、偏頭痛持ち。会えば必ずと言っていいほど「頭が痛い」のである。元気だけが勝負の病気をしない私のキャビネットには薬らしい薬は何もない。奥の方に日本系スーパーで買った正露丸があるが、もう期限切れになっているかもしれない。アスピリンも無くなってから買い足す事はなく、マラソンを走る時に貰うサンプルが幾つかあるだけ。それを彼女が来る度に彼女が飲んでいる。この偏頭痛持ちの友達は彼女だけではない。大学時代、寮のルームメイトがそうだった。量の一番多く入っているボトルがいつも机の上に置いてあった。飲み続けて規定の量より増えていた。そういうアメリカ人が実に多い。そして～～～ Disorder という病名を持つ人が多い。Sleeping Disorder、Eating Disorder、医者に処方箋を貰い、薬（Drug）を飲んでいる。知り合いの持っている病名の殆どは、日本語でも英語でもよく解からない。親友は「自分が病気ではないかと心配になる病」だ。たまたまお兄さんがお医者さんとあり、即座に電話をする。と同時にインターネットでとことん調べ、保険の利くお医者さんへと向かう。実際は何でもない事ばかりだ。なんでこんなにアメリカ人て病んでるの？社会人になって更により多くの人達に出会って、そう思わざるを得なかった。学生時代のルームメイトは避妊ピル常用者だった。10代の頃から数年飲み続けていたという。卒業と同時に旦那さんになった彼と付き合い始め、ピルを飲むのを止めた。すると彼女の偏頭痛が無くなったらしい。私も約５年程、避妊ピルを飲んでいた。日本では解禁になる、ならないで論争があった頃で、母からの大反対があった。私の場合、生理痛という程の強いものではないが、お腹が重く、また周期も不順であった。だからピルを飲みだしてから、周期ごとに生理が来てそれも軽く、副作用と考えられる事な何一つなかった。そして去年まで飲んでいた。周期はまた乱れ出しているが仕方がないと思ってる。避妊ピルを飲んでいる友達は多い。飲み始めたり、止めたりして、私は太ったり痩せたりする事はなかったが、太ってしまう友達もいる。それは飲み始めたり、止めたりとそれを短い周期で繰り返すからではないかと私は思う。今年の大統領選挙でカナダからの薬品輸入が討論の一つになっている。ブッシュ大統領の姿勢はアメリカの安全を守る為に輸入禁止を唱えている。しかし、その裏にはアメリカの製薬会社が動いている事には間違いない。病気は未然に押さえたいものだ。本来なら医者がその役割をすべきなのだが、実際のところそうはいかない。結局、薬に頼ってしまう。だから製薬会社の競争となる訳だ。そう考えると、アメリカ人の病気は、どこかで操られている様にしか思えない。病むアメリカ。この先も症状はますます悪化していく気がする。

  Oct 16, 2004

• 新世界（Ｎｅｗ Ｗｏｒｌｄ）を求めて

  1492年10月12日、マルコ・ポーロの「東方見聞録」に影響を受けたクリストファー・コロンブスがアジア（インド）を求めて西へと出航、10週間後カリブに辿り着いた。彼は発見した新世界はインドだと一生涯信じていたらしい。また実際にアメリカ本土へ足を踏み入れたか否かは、今だ議論されている。コロンブスがヨーロッパに持ち帰ったものの一つにチョコレートがある。マヤ文明で薬として飲まれたカカオだが、ヨーロッパでは高級飲料となった。チョコレート。何故か可笑しく思える。それにしても、世界は未だ地球が球体とは証明されていない時代だ。彼の冒険心は相当なものだったのか。それともその時代はそういう男達が多かったのか。どちらにしても、冒険心だけでなく、勇敢さ、知恵、判断力なども備わった人物でなければ出来なかった事だろう。そのクリストファー・コロンブスを称えて10月の第２月曜日は正式公休となっている。西洋でヒーロー的存在のクリストファー・コロンブスの発見は、先住民にとっては悲しい歴史の始まりという事を忘れてはいけない。彼等は虐殺され、奴隷としてヨーロッパに送られている。コロンブスはイタリアジェノバの商人の息子として生れた。だからイタリア人としてニューヨーク市で毎年行われるパレードもイタリア系が主体なのだが、実はユダヤ人説があるそうだ。その頃ヨーロッパで迫害を受けていたユダヤ人の中、スペインに住んでいたユダヤ人達は南米発見によって多く移住していったという。この様に様々な角度から見た歴史は面白い。コロンバス・デーである今日はスーパーマンを演じた俳優のクリストファー・リーブが亡くなった事が大きなニュースだった。1995年に落馬仕手して以来、パラライズとなった彼はＳｔｅｍＣｅｌｌ（幹細胞）リサーチの積極的なアクティビストでもあった。Ｓｔｅｍ Ｃｅｌｌリサーチは人の細胞や受精卵や中絶された胎児の細胞から医薬品開発の研究をすることで賛否両論が唱えられている。。ＳｔｅｍＣｅｌｌリサーチにより、アルツハイマー、パーキンソン病や糖尿病の改善が求められるが、倫理的な問題もあり、今回の大統領選挙大討論会でも持ち上がった議題の一つである。クリストファー・リーブの活動が社会に大きく影響を与え、議会までも動かしている事実がある。彼の夢はまた歩けるようになることだった。しかしその日を見ることなく52歳で亡くなった。偶然にも二人のクリストファーの追い求めた新世界への旅。そこに至るまでの道は厳しい。

  Oct 11, 2004

• 東京ローズ

  ｢カリスマ主婦｣の名を持つマーサ・スチュワートが今日から五ヶ月服役する。彼女の出現に依って、アメリカのライフ・スタイルが変ったと言っても過言ではないだろう。彼女の提供する衣・食・住は特に中流階級に受け入れられた。マーサ・スチュワートはメディアを上手に活用した。テレビでは料理番組を持ち、彼女の名前の方が大きく入った雑誌が出版される。メディアを通して有名になった彼女の名前の入った｢ブランド｣ものが、簡単にKマートで手に入る。そして主婦達は夢心地でリッチな気分になったのではないだろうか。そして2001年12月、インサイダー取引疑惑によって起訴され、今年7月に判決が下され、先月5ヶ月の禁固刑に服役する事を発表した。判決は服役5ヶ月、罰金3万ドル、自宅謹慎5ヶ月。服役先は自宅のあるコネチカットかウェスト・バージニアか、と噂されていたが結局ウェスト・バージニアになった。先週末は結婚式出席でバハマへ行っている。服役前に優雅なものだ。朝からレポーターが刑に服す彼女を追たニュースが絶えなかった。そのバージニアの刑務所は昔ビリー・ホリデーとトウキョウ・ローズが服役した場所だ、とレポーターが伝えた。トウキョウ・ローズ私には聞きなれない言葉だった。早速ネットで調べてみる。戦時中、日系人アイヴァ・戸栗さんが親戚の看病で日本を訪れ、パスポートを持たずに出国した為、アメリカに帰国出来ずにいた。生活の為、ラジオ・トウキョウ（ＮＨＫ国際放送の前身）でディスクジョッキー番組のアナウンサーとなった。｢ゼロ・アワー｣という番組は、アメリカの流行音楽を流し、太平洋の戦場にいる米兵に呼びかけるプロパガンダの番組であった。その内容は、戦場の兵士達が愛郷によって、闘志を消沈させる目的があったという。"Hello, boneheads. This is your favorite enemy, Ann. How are all you orphans of the Pacific? Are you enjoying yourselves while your wives and sweethearts are running around with the 4F's in the States? How do you feel now when all your ships have been sunk by the Japanese Navy? How will you get home? Here's another record to remind you of home."彼女の声に魅了された兵士達から「東京ローズ」という名前が呼ばれるようになったという。正確には５－６人のアナウンサーがいたとも言われたが、米国籍はアイヴァ・戸栗さんだけだった。そして戦後、「東京ローズ」と名乗り出たのもアイヴァ・戸栗さんだけ。結局、祖国アメリカで反逆罪で起訴され、サンフランシスコの裁判で、有罪になりアメリカ市民権も剥奪された。そして服役した先がウェスト・バージニアだったのだ。刑は１０年だったが、６年２ヶ月の服役だった。１９７7年、フォード大統領の特赦により彼女は市民権を回復したが、今も無国籍らしい。ラジオ・トウキョウのもう一つの顔は、軍による発表前に重要なニュースを海外に発信していた事だ。ポツダム宣言受諾も玉音放送の前日に、そのニュースを流していたというから驚きだ。当時の傍受記録がワシントン郊外のナショナル・アーカイブス分館に、今でも多数残されているという。戦争末期に日本とアメリカが放送を通じて、和平条件を交渉としたらしい記録があり、その中に「ピース・トーク」があった。プロパガンダを流すツールとして利用されたが、電波による外のが持つ意味は大きかった、と。その時代の最前線のメディアを屈指し、人気となった二人の女性が時代を越えて同じ場所で交差する。だがその先が喜劇と悲劇の分かれ道だ。「悲劇のヒロイン」東京ローズことアヴァ・戸栗さんは今でもシカゴに住んでいるらしい。もう８０歳を越えている。世から身を消してしまった。その反対に「カリスマ主婦」マーサは出所後、流行のリアリティー番組プロデューサー、マーク・バーネットと組んでテレビ番組が制作されるとついこの前発表があった。下降していたマーサ・スチュワート・オムニメディアの株も、服役するニュースとテレビ番組発表の後伸びている。戦争という混沌とした時代に生き、その存在を利用され、無視され、忘れられた東京ローズ。その名を聞いて懐かしく思う元米兵達も今はもう数少ないだろう。東京ローズその言葉のもつ響きが美しくも悲しく聞こえる。＊参考文献： 対談：北山節郎VS徳山喜雄「戦争とメディア――歴史から何を学ぶべきか」http://www.iface.ne.jp/tokuyama/taidan/kitayama.html

  Oct 8, 2004

• Haunted House

  昨日“アメリカで最も幽霊の出る家ベスト１０”というネットの見出しがあった。ちょっと怖いのだが、興味津々で読み進むと、故ジョン・レノンの住んでいたダコタ・ハウスの名前が上がっていた。 「ジョンは今もヨーコさんを訪ねているのかしら？」 そんな馬鹿な事を考えてしまったが。ニューヨークの歴史は以外にも古い。建国は１７７６年だが、ニューヨークは１６２５年には既にオランダ人達の居住が定着していた。その頃はウォール街辺りが中心で、西７２丁目辺りはまだ田舎だった。奴隷や原住民は北へ、北へと追いやられていたらしい。また、独立戦争時は初代大統領ジョージ・ワシントンがニューヨークを守る為、戦場であった事もある。そう考えると、可能性はあるような気がする。そんな事を思いながらリストに目をやるが、探している名前が見つからなかった。 ウィンチェスター・ミステリー・ハウス カリフォルニアのサン・ノゼにあるこのマンションは１０年以上前に一度訪れた事がある。怖い事嫌いなのに、興味をそそられると見たくなるのが私の性分だ。このミステリー・ハウスの事は今でもうろ覚えで、記憶にある。 このミステリーハウスは1884年にサラ・Ｌ・ウィンチェスターというある未亡人によって建設が始まった。そして彼女が亡くなるまで38年の間、24時間休みなく作業が続けられた。部屋数１６０、総額$5,500,000、窓の数約１０，０００、暖炉４７つ、ベッドルーム約４０部屋、台所５～６、階段４０、階段数３６７段・・・リストをあげればまだまだ続く。ウィンチェスターと聞いて、｢あれ、どこかで聞いたような名前｣と思う人も多いと思う。サラ未亡人の夫はウィンチェスター・ライフルを事業にした人なのだ。このライフルは敏速に弾の補充が出来る新しい型で、南北戦争に使われた。そして政府と手を組んだウィンチェスターに巨額の富が入った。しかし、二人の子供は生後間もなく死去、そして夫のウィリアムもその後死去してしまう。悲しみに打ちひしがれたサラは占い師の元へ行く。そこで告げられたのは、ウィンチェスターのライフルで命を落とした何千という命、ネイティブ・アメリカンや兵士、西部を求めた開拓者達の呪いがウィンチェスター家にかかっているという事だった。その為、子供と夫の命が奪われた、と。コネチカットのニュー・ヘブンにいたサラに家を売り、西へ向かう事を薦めた。夫のスピリットに導かれた先がサン・ノゼだった。そしてそこに自分と銃弾で命を失ったスピリット達の家を建てる事。建築は止めてはいけない。止めれば命を落とす。そう占い師に言われ、サラはそれに従った。今でもはっきり覚えているのが、天井へ続く階段だ。ドアを開けるとそこには階段がある。その階段は天井へと続いて行くだけ。またドアを開けるとそこはブリックの壁だったり、２階に窓の代わりにドアがついていたりと、とても奇妙なことだらけのビクトリアン調のマンションだった。彼女は｢１３｣という数字にこだわりがあり、ある屋根を支える手摺の長辺を支えている柱の数が１３本だったり、１３番目の浴室には１３の窓があったり、戸棚の中についているフックが１３個だったりする。これが何を意味するのかは解からない。身長が１４７センチしかなかったというサラ未亡人が黒いドレスに身を包み、馬車で出かける前に撮られた写真が一番印象に残っている。日本の肝試しは夏だが、アメリカはハロウィーン前に恐い話が出てくる。その反面、子供達がスパイダーマンやディズニーのプリンセスに扮し、“Trick or Treat?”とキャンディーを貰いに回るのは可愛いものだ。恐いなどとは微塵にも感じない。そしてアメリカのお化けの映画もマシュマロマンとお菓子がお化け。可愛い子供のお化け、キャスパーもいる。ウィンチェスター・ミステリー・ハウスとは大違い。もうすぐハロウィーン。恐いの嫌いな私はもちろんTREATがいい。

  Oct 7, 2004

• 言葉の壁

  プレイオフ第二試合目、ヤンキースが12回裏、松井秀喜選手の犠飛で７－６でサヨナラ勝ちした。試合は友達と近くのスポーツ・バーで見ていた。多くのヤンキースファンが集まり、幾つもある大スクリーンに映し出され、まるで球場にいるような気分になれる。そこに集まる多くの若い男性ファンは、ヤンキースのTシャツやジャージに身を包み、帽子は女の子達もかぶっていた。試合が延長となり、友人の朝が早い事もあって途中で帰って来た。家に戻って即座にテレビをつけると、まだ接戦が続いていた。ピッチャーが投げる一球、一球に息を呑む。松井の番が回って来た。昨日打順７番だったが、最近定着している4番バッターに今日また戻っていた。同点。１アウト満塁。一発ヒットが出れば勝ち越し。松井が打った。ライトへの犠牲フライ。ジターが俊足を使ってホームへホームへ走り込む。セーフ！ヤンキース、サヨナラ勝ち！その後テレビでダイジェストを見る。視聴者からの電話やEメールもある番組で、ある視聴者がこう言った。｢この試合で、アレックス・ロドリケスやシェフィールドがホームランを打ったけれど、この試合だけでなく、シーズンを通して松井選手の貢献は大きい。｣今、ヤンキース・スタジアムで観戦していてもMATSUI 55と背中に入ったTシャツやジャージを着ている人が多いのに驚く。去年は日本人観客に目立ったが、今年はオバサンまで着ているのを見た。そして特に子供達に人気のようだ。そしてテレビの解説者がこう付け加えた。｢松井選手は最も過小評価されている選手である。もし松井選手が他のチームでプレイしていたら、間違いなくA・ロッドやシェーフィールドに並ぶスター選手である事間違いない。それから、言葉の壁があるのも（過小評価の）一因だろう。｣言葉の壁、か。それ故に松井選手は成すべき仕事をし、チーム・メートからの信頼を確立したのであるが、やはり試合後のインタビューも含め、直接受け答えが出来るなら、米メディアの対応も違ったものであったかもしれない。私もこの｢言葉の壁｣に何度悔しいと思ったことか。渡米して最初の頃は特にそうだった。ネイティブのようには喋れない。どうしても言葉を頭で追いながら話すと、途中で途切れてしまう事も多かった。大抵のアメリカ人は眉間にしわを寄せ、そのうち辛抱出来なくなり会話を終わらせられた事がよくあった。日本人や外国人と接触の多い人は、忍耐強く聞いてくれている努力をしている。その｢努力をする行為｣を目の当たりにすると、自分の情けなさを感じた。また言葉で勝負のスタンドアップ・コメディーのパフォーマンス中にも、発音が上手く伝わらないといくら面白いジョークでも笑って貰えない。コメディー・クラブ中の１００ある顔がこちらを向き、｢？？？？？｣という表情を見せる。たとえ語源が日本語でも、アメリカ人的発音をしないと解って貰えない。一度、泣きたくなる様な事があった。ジョークの中に｢相撲レスラー｣という単語を使った。相撲は“SUMOW（スモウ）”と英語の発音になり、日本語の“SUMO（スモー）”ではないのだ。この“OW（オウ）”をはっきり言わないと解って貰えない。笑いが取れなくて、シケテ舞台から降りた私にそう友人が教えてくれた。次のパフォーマンスで、ゆっくり、はっきりと　“SUMOW”と言った。すると、コメディー・クラブ中が大爆笑!　｢やった！｣嬉しかったが、｢言葉の壁｣というハンディを身を持って体験した。松井選手には通訳がいるが、彼がもしアメリカ的ジョークを交えながらインタビューに対応したら、きっと｢過小評価｣という言葉は使われずに、清々堂々とA・ロッドやシェフィールドと肩を並べていただろう。言葉の壁を破るにはこの１０月に打撃・守備で活躍するだけ。松井選手が試合翌日のNYポスト誌の表紙を飾る事を楽しみにしたい。

  Oct 6, 2004

• 文化の秋

  ニューヨーク・シティには文化がある。文化があるという事は、美術館、博物館、球場等があることを意味する。その中で観光客の一番人気は、やはりメトロポリタン美術館だろう。アップタウンに位置するが、ミッドタウンから散歩がてらに歩いていくのに、丁度よい場所にある。セントラル・パークの中を通って行くのも良し、フィフス・アベニュー沿いを歩いて行くのも良し、どちらで行ってもニューヨークらしさを味わう事が出来る。セントラル・パークは約１５０年前にアメリカで始めての人工公園として作られた。もともとマンハッタンは岩こう石が地盤となっていて、その岩盤が剥き出しになっているところがセントラル・パーク内で多く見られる。そしてこの硬い地盤に依り、高層ビルを建てるのが可能になるのだ。メトロポリタン美術館がセントラル・パークの東側に位置するなら、その反対側の西側にはアメリカ自然博物館がある。恐竜の化石や洞穴時代からの人類の歩みが展示され、また隣接してプラネタリアムがある。私はこの自然博物館が好きだ。子供の頃に訪ねた上野博物館で見た恐竜の化石が強烈な印象としてまだ記憶に残っている。それと似た展示がされているからなのかもしれない。まるで５歳の少年のように、私はその恐竜に惹かれるのだ。その姿・形を証明するものは何もなく、全ては発掘された骨などからの想像に過ぎないのに。そしてもう一つ私が気に入っている展示物がある。ネイティブ・アメリカンの展示物だ。シアトルに住んでいた事もあり、アメリカ北西部からアラスカのインディアン達の象徴であるトーテン・ポールや、サーモンを模ったデザインが懐かしく思える。先日、ニューヨーク・タイムズに自然博物館の面白い記事が載っていた。５時半になると一般公開を終え、博物館は閉館となる。観光客のいなくなった博物館が静まり返るのだが、そこにある動物の剥製が不気味な雰囲気を醸し出しているとある掃除夫が言う。｢時々、動物達がこっちを見ているような気がするんだ。｣また時折アメリカ・インディアンの儀式のチャンティングが聞こえるような気がするというのだ。電源が入っているとコントロール室に連絡すると、切れていると言われる事もあるという。まるでお化け屋敷のようだ。ふと思い出すことがある。去年行ったあるセミナーで、トーテンポールはネイティブ・アメリカンにとっての卒塔婆である、と。トーテンポールは動物を象徴する他に、魔除けの意味があるのは一般に知られている。それが卒塔婆となると、亡くなった人の霊を祭るもの。それをいくら博物館に納めるからといって、無理矢理持って来られてしまったのだから、そういう現象も起こるのではないかと納得してしまう。そしてプラネタリウム。昔から月や星を眺めるのが好きだった私は、ここに模擬宇宙を見る。満天の星がスクリーンに映し出されると、あたかも自分が宇宙へ飛び出したかの様な錯覚に陥る。ナレーションが始まるとハリソン・フォードの声が聞こえる。アメリカらしい。スター・ウォーズの映画のシーンと目の前の模擬宇宙がダブって見えてくる。私たちは過去を見ることが出来る。その唯一の方法が星を見ること。星の光は何億年前に放たれた光。それを“現在（いま）”の私達が見る。つまり、過去を見ている事になるのだ。私たち人間の存在は小さくて、小さくて、小さい。サダム・ホセインもブッシュも石油も宇宙からしてみれば、糟にもならない。去年の大停電の時、私は空を見上げていた。木星がよく見れる時期と言われていたからだ。二度とは有り得ない、光のないニューヨークの街。初めて星がよく見えた。するとすーっと流れ星が!まさかニューヨーク・マンハッタンで流れ星が見れるとは思ってもいなかった。夜空の星は北極星を中心に動く。｢すべての星が移動しても、僕が君のポラリス（北極星）になってあげるから、もう道に迷うことはないよ。｣｢冬ソナ｣の中でヨン様扮するイ・ミニョン氏がそう語る。そんなポラリスが地球人にあったらどんなに良い事か。人類は勿論の事、動物や自然と共存し合う。そんな中で芸術が洗練され、伝統が守られてゆく。文化とは私たち人間の産み出した知的エネルギーの集結。時代と共に変化がありながらも続いて行く、そんな平和な世であって欲しい。

  Oct 4, 2004

• 日曜の夜更けて

  I want to wake up in a city, that never sleepsフランク・シナトラが歌う｢ニューヨーク・ニューヨーク｣の歌詞の一部だが、実はニューヨークも眠る。特に私の住むアップタウンの住宅街では夜、それも日曜の夜になるとひっそりと静まり返る。それはまるで明日から始まる忙しい一週間の為の生活との休戦と言ったところか。向かいのビルの灯りも全て消えている。皆寝静まったこの時間が私は好きだ。自分と自分を取り巻く世界が隔離されているような、でも何処かで繋がっているようなそんな感覚に陥るのだ。今朝は日曜にしては早く起きた。それはハーフ・マラソンのレースがあったからだ。眠い目を擦りながら着替え、ゼッケンをつける。完走出来るか心配だった。走り込みが出来ていない。恐いのだ。６月に肉離れを経験してから約１ヶ月半走れなかった。それから走る度、不安が過ぎるのだ。レースは９時からのスタートだった。セントラル・パーク内を二周する。パークに着いた時には既に沢山の人が並んでいた。荷物をチェック・インして私は列の後方に並んだ。｢自分のペースで走ればいい｣そう言い聞かせていた。普段一緒に走る友達は参加しなかったので、久しぶりに一人で走った。一周目はなんとかペースを保って走る事が出来た。抜いたり、抜かされたりしながら様々な人達を見た。グループで参加し、お揃いの黄色いTシャツを着たインド人達。一人は頭にターバンを巻き、“I’m proud to be a Shik” （シーク派であることを誇り！）と背中にメッセージを書いている。皆、同僚なのだろうか彼等の応援隊が一定の場所で声援を送っていた。セントラル・パークを散歩している人達も声を掛けてくる。するとランナー達の足音が力強くなったように聞こえて来る。応援されるのは嬉しい。たとえそれがホームレスの怪しいオジサンの声であっても。走りに余裕があるとセントラル・パークの景色が目の中に飛び込んでくる。少しずつ色づいて来ている。青々した緑一色の夏と違って、黄色や黄緑が緑に混じっている。キャンバスに描かれた油絵の中に自分が一瞬飛び込んだような気分になる。“Beautiful”という形容詞がピッタリの状況に、思わず｢神様、ありがとう｣そう感謝せずにいられなくなる。この混沌とした世界、ニューヨークという大都会の中、セントラル・パークというオアシスがある。人も街自体も癒されているのだ。聞こえてくるのは、子供達の歓喜、風に揺られる木々の音、そしてランナーの足音。たっ、たっ、たっ、・・・レースに参加していないランナー達も増え始めている。レース用自転車に乗っている人、レンタル自転車に乗る観光客、ローラーブレードをしている人、散歩をしているカップル、犬の散歩をしている人、馬に乗っている人。本当に沢山の人がそれぞれの日曜の朝を過ごしている。そして私はその人達を横目に、ひたすら走っていた。結局、レースは２時間半で完走した。膝の痛みを感じて歩いてしまったが、来月が本番、無理をしたくなかった。フル・マラソンは今回で最後にしようと思っている。だから今までで一番のタイムを出したいという気持ちから、頑張ってトレーニングしていた矢先の怪我。それから何かが狂ってしまった。体力も気力も。でも来年に延ばしたくはない。歩いてでもゴールする。そう思えばいいのだ。そう自分に言い聞かせる。神様が安息日として第７日目を下さった。それはきっと自分と見つめあう為にあるのかもしれない。一日の終わり、深い眠りにある街を感じながら、日曜の夜は更けてゆく。

  Oct 3, 2004

• タイムス・スクエア ～時を越えて～

  タイムス・スクエア近くのミッドタウンを歩いていた。 ここは劇場が多いことから別名シアター・ディストリクトとも呼ばれる。観光客が集まるニューヨークで最も活気のある場所だ。私の好きな場所だ。行けば必ずその活気に魅了される。元気な時は更にパワーアップを感じ、落ち込み気味の時は元気にしてくれる。そんな私をニューヨークに長く住む友達は笑って言う。 ｢ミッドタウンが好きだなんて、本当に変ってるね。｣ 観光客が多く、数ブロック先に行くのに何度も人にぶつかって進む事もよくある。だから彼女の言う事も理解出来るのだが、そんな時は私は｢プロの観光客｣と自負するのである。そして私は堂々と他の観光客に混じるのだ。本当に間違われる事も多い。ある時、南部からの中年女性数人グループに呼び止められた。 ｢今朝私たちと同じツアーにいたわよね？｣ 私の好きなものの一つがビルボード。広告であると解かっていても、そのひとつひとつに、ニューヨークの個性が現れていると思うのだ。立ち止まって眺めるのが好きなのだが、人の波に押し出されてしまうのが常。 そしてもうひとつはブロードウェイ劇。劇もミュージカルも大好きで年に数回は観劇に行く。私の劇鑑賞は小さい頃の宝塚から始まっている。ブロードウェイの魅力は、演劇を目指す俳優達の頂点でもあるように、その演技力と舞台にあると思う。約二時間以上ライブで演じられる舞台と、シーンでカット撮影され創られる映画では、俳優達の意識が違う。だからハリウッドの俳優達はニューヨークの俳優達を尊敬しているのだ。そして舞台俳優は知名度とギャラアップの為に映画俳優に転向していく。 ふと足を止め見上げた。４５丁目に入ったところからすぐにあるブース・シアター（劇場）の前だった。何年か前にある一人芝居を見て大感激したのを思い出した。ジェーン・ワーグナーが脚本、リリー・トムリン主演の“The Search for Signs Of Intelligent Life in the Universe”直訳すると｢宇宙の知性生命の手掛かりを探して｣。1980年代に初演され、時代に合わせて手直しされてのリバイバルだった。 “How do you get to Carnegie Hall?” （カーネギー・ホールに行くには？） “Practice, practic, practice!” （練習、練習、練習！） 有名となったこのジョークが出てくる。その劇の主人公のホームレス、バッグ・レディー（沢山の袋を持ち歩くおばさん）のルーディーがこのタイムス・スクエア近辺をうろうろしている時に、観光客から聞かれて答えたのだった。 一人で１３役をこなし、私達観客が第13役目と彼女は言う。シンプルなステージ、役から役への移り変りは音と光りで演出する。莫大なお金と舞台装置の典型的ブロードウェイ劇とは違い、私たち観客の想像力で一人一人の役が見えてくるのだ。そこまでの演技力を持つ俳優・女優は数少ないだろう。そしてストーリーが良い。出てくるキャラクター達は皆どこかで繋がっているのだ。たとえそれがタクシーの中から見かけたホームレスであっても。 その感銘を思い出しながら、もう一つの事を思っていた。 ブース・シアターは演劇史上最も有名なシェークスピア俳優、エドウィン・ブースにちなんで名付けられ、1913年に建てられた。そしてこのエドウィン・ブースはリンカーン大統領暗殺したジョン・ウィルクス・ブースのお兄さんでもあるのだ。ブースの父親、ジュニアス・ブルータス・ブースも俳優、エドウィン、ジョンの長兄、ジュニアスも俳優、兄弟揃ってシェークスピア劇に出演していたという俳優一家である。 リンカーン大統領は1865年4月14日にワシントンDCのフォード・シアターでコメディーを観劇中に、ジョン・ウィルクス・ブースによって暗殺された。それ以降、ショックを受けたエドウィン・ブースは1866年１月まで舞台に立つことが出来なかった。しかし、応援を受けて悲劇の名優としてカムバックし、名声を確立したのだった。 時間を超え、次元を超えての人間模様にロマンを感じた。そしてここタイムス・スクエアに行き交う人々、それぞれにドラマがあり、あった。そしてこれからもあるのだ。過去・現在・未来が共時する。時を忘れ、しばし立ち止まっている我にふと返った。 ブース・シアターと書かれた劇場の看板を見上げ、ひとつ大きく深呼吸。ブロードウェイ劇鑑賞の後の高揚にも似た気分で、私はまた雑踏の中へ向かって歩いて行った。

  Oct 1, 2004

• 男　X　女　－　結婚　＝　妊娠

  　　一本の電話があった。　　｢どう、元気にしてる？｣　　今年の6月に結婚する事になっていたにも拘らず、その2ヶ月前に婚約破棄した友達からの電話だった。4月1日のエープリル・フールの日に彼女の父親からのメッセージが自宅に入っていた。　　｢言い辛いけど、婚約破棄になったから明後日のブライダル・シャワーは中止。本当に悪いね。じゃ、また。｣　　その夜はブライダル・シャワーの為に、ブライダル・レジストリーでお祝いの物を買ったばかりだった。いくらエイプリル・フールだからといって、典型的イタリア系男の彼女の父親がそんな冗談を作り上げるとは思えなかった。すぐに電話を入れた。　　｢メッセージ聞いたけど、どういう事？まだ彼女には電話してないんだけど。。。｣　　話を聞くと、数日前に彼女と婚約者で大喧嘩をしたのだという。一緒に住んで2年程。喧嘩は日常茶飯事だった。ただ、婚約一年たった去年のクリスマスに彼女が一人で遊びに来た時に、彼女がこう言っていた事を思い出した。　　｢私の決断、間違ってないよね？｣　　ハネムーン・ピリオドと呼ばれるアツアツの時期はとっくに過ぎていた。その上、婚約してからの彼の両親の反対や彼の妹さんの嫌がらせなどでストレスは溜まっていたと思う。それを乗り越えてお互いの愛を確認し、着々と結婚式の準備をしていたのだった。彼女のことが心配になり、彼女の父親と話終わってすぐに彼女に電話をかけた。　　｢どうしたの？お父さんから電話で聞いたんだけど。。。｣　　泣いて自棄になっているかもしれないと、言葉を慎重に選んで話し掛けた。すると、返ってきた言葉に私は驚いてしまった。　　｢喧嘩してるうちにもう争う材料が全部なくなっちゃったの。そうお互いが感じて別れることにしたわ。私は大丈夫よ。新しく住むところ見つけなくっちゃ。でもブライズメイドになってもらう様に頼んでいたのに悪かったわね。ブライダル・シャワーで頂いたもの全部返さなきゃいけないから、これから出費がすごいわ。でもひとりにもなるし、ニューヨークに遊びにいけるかもしれないわ。｣　　彼女の声は元気だったのだ。予想もしていなかった。彼女はどちらかというと、ドラマ・クイーン、喜怒哀楽の激しい方なのに、そのカラッとした態度には既に彼への愛が無くなっていることを感じた。 ｢とにかく、元気で良かったわ。また落ち着いたら連絡頂戴ね。｣　　そう言って電話を切った。こうして彼女の2度目の婚約破棄となった。一度目は元彼とロンドンへ旅行へ行き、そこでプロポーズを受けた彼女。即座にYESと答えたものの、なぜか具合が悪くなり婚約は延期という形でその彼とその後一年ほど付き合って別れた。見ることはなかったのだが、素敵な婚約指輪を貰ったらしい。そして今回の彼から貰ったダイヤの婚約指輪は、女性なら何度も｢見せて｣とお願いしたくなるようなものだった。ダイアモンドを見てから“YES”と答えてしまったんだと私は心の中で密かに思っている。　　彼女が結婚に対して不安に思っていたのには、実は訳があった。二人きりの部署で働く上司を気に入っていたからだ。上司の方もまんざらではなかったようで、それが彼女の迷いだったのだ。彼女の婚約破棄と同時に二人は付き合い始めた。　　一度ブランチを一緒にした。たまたまニューヨークへ来ていた週末があり、彼女が私達を会わせたかったのだ。30代半ばの中西部出身とあり、既に落ち着いた彼だった。　　｢彼の事どう思う?｣　　彼が席を外した隙に私に聞いてきた彼女の目は耀いているのと同時に、私がどう思ったかを聞くのが不安にも思っていたようだ。　　｢今は自分を売ってるセールスの時期だから、同じ質問を3ヶ月後にして。もっとホンネが出てるから、その時に答えるわ。｣　　そう私が言った。恋愛に至るまで、男も女も相手をモノにするまでは完全なセールスマンに徹すると私は思うのだ。だから最初の3ヶ月は悪いところも見えずに相手がパーフェクトに見える。それからだんだ本当の姿が見えていく、というのが私の持論だ。　　その3ヶ月後に二人がまた遊びに来たのだが、この時に私の彼への感想が決定した。好きではない、と。私のアパートに泊まった二日間、共に行動しても話し掛けるのはいつも彼女にだけ、私は殆どいてもいなくても良い存在だったのだ。これにはさすがの私もカチンと来てしまった。　　その他にも些細な事かもしれないが幾つか不快な思いをする事があった。ただ、友達の彼女が付き合う相手として私は暖かく迎え、話し掛けもしたのだが、返事はするものの彼からの努力が見えなかった。中西部出身とあって、日本人にどう対処していいか判らなかったのかもしれないが、30代半ば、弁護士、ニューヨークと同様いろんな人種のいるフィラデルフィアに住んでいる事を考えれば、イイ男とは言えないんじゃないかと思うのだ。でもそこはぐっと呑み込んだ。　　その思いが強く、遊びに行くねとは言ったものの実現する事なく3ヶ月が過ぎた。そして今日の電話。電話口からこう彼女が言った。　　｢結婚するわ!｣　　昼の忙しい街中を歩いていた私は思わず大声を上げてしまった。　　“Oh my god!!”　　｢式は11月27日。小さめの結婚式にするから、メイド・オブ・オーナーしかいなくてブライズメイドになれないけどいい？｣　　｢勿論よ。でも式の日、早いわね。もしかして妊娠してるの？｣　　“Ｙｅｓ.”　　あぁ、やっぱり。結婚したくてたまらない彼女の道はこれで落ち着くだろう。普段と変わらぬ調子の彼女。彼女さえ幸せになってくれれば、これからカップルとして付き合っていく彼の事を受けいれようと思った。　　｢本当におめでとう！　ダブルおめでとうね。｣　　どんなカルマがあって繋がった二人か解らない。赤い糸で結ばれた二人であるかもしれないし、結婚適齢期にいる二人がたまたま側にいた人と結ばれただけなのかもしれない。私はただ二人の幸せを祈るだけである。　　　男 X　女　＋　妊娠　＝　結婚　――＞　幸せ　　ブライズメイドになりそびれた事だけが、ちょっぴり残念に思う。

  Sep 30, 2004

• 雄弁の美

  　　明日9月30日（木）にブッシュ大統領とケリー大統領候補の討論会第一回目が開催される。両者の地方演説講演やテレビのコマーシャルでの激しい戦いが過熱している中のこの討論会は、歴史的にも選挙戦に大きな影響を及ぼす力を持っている。初めてテレビ中継されたのは、1968年9月26日の当時副大統領だったニクソンとジョン・Ｆ・ケネディーの大討論会だった。　　この大討論会の前月、ニクソン副大統領は膝を痛め2週間程入院した。その為体重が落ち、顔色も悪かった。その反対にカリフォルニアで日焼けして、休養も取れたケネディーは溌剌としていた。膝の痛みで苦痛を露にしたニクソン副大統領の姿と強烈なカリスマ性が印象的だったケネディー。それがテレビ中継というメディアによって二人に大きく差をつけたのである。　　メディアを征する者が勝利する。　　ケネディーはそうやってメディアを利用し、国民の指示を得たのだった。ビジュアルでアピールした事では、リンカーン大統領がいる。大統領候補として演説中に一人の少女からの手紙によって、髭を生やした話は有名だ。そしてそれ以来、リンカーンは生涯髭を剃る事が一度もなかったという。　　さて、ブッシュ大統領とケリー氏の場合はどうだろうか。ブッシュ大統領の薄笑いからは、知的センスなど感じられない。そう思うのは私だけでは無い筈だ。ではケリー氏はどうか。民主党大会でクリントン前大統領に場を取られてしまったように、ややカリスマ性に欠ける気がする。となると、やはり討論そのものが鍵となるのだろうか。　　アメリカは、雄弁である事が美とされる。スピーチ・ライターなる人たちが、演説文を書いているのだが、やはり雄弁であると大きく見えるのだ。そしてそれを映すメディアの効力がまたここに出てくるのだ。　　前ブッシュ父大統領はクリントンとの討論会で、ちらっと時計を見る瞬間があった。そこへカメラは間を入れずにそれを映す。そして時差攻撃のように新聞等の活字媒介が騒ぎ立てる。ひとつひとつのリアクションが命取りになる可能性も多い。今回の討論会では、それぞれのテレビ局が各自のカメラを設置するが、固定カメラでなければいけないという規定があるらしい。しかし、ＦＯＸチャンネルはそれに従わないと公表している。相手側のリアクション・ショットも撮影する予定なのだろうか。　　イラク戦争勃発前、サダム・ホセインがブッシュ大統領に一対一の討論会を挑戦したが、結局は実現せずに戦争となった。これを逃さずに風刺したコメディアンが言う。　　｢サダム・ホセインは我々の大統領の一番弱いところを突いている。英語を話す事だ。｣　　英語を話さなければならないブッシュ大統領は、討論会のシミュレーションを行っているという。パフォーマー性も要求される。果たして練習の結果はどうであろうか。そして、そのブッシュにケチャップのヘインズ社の未亡人を妻に持つケリー氏はどう対応していくのであろうか。　　明日の第１回のテーマは、外交と米本土防衛だ。興味深く見ることが出来るだろう。そしてブッシュ大統領、ケリー氏、この二人に勝つものは本来はツールであるメディアそのものかもしれない。（参考：今日のＮＹタイムス誌にアル・ゴア前副大統領が“How to debate George Bush”という記事を書いているので興味のある方はこちらへ：http://www.nytimes.com/2004/09/29/opinion/29gore.html）

  Sep 29, 2004

• ビッグ・アップル

  　　中秋の名月をアメリカで見ようと思ったが、ハリケーン・ジーンの影響で今日のニューヨークは雨。月に団子が日本のなら、月にりんごで鑑賞しようと思っていた。　　ニューヨーク州はニックネームにもあるように、りんごの産地である。ニューヨークと聞くとニューヨーク・シティの大都会のイメージがあるのだが、ニューヨーク州は農牧がメイン産業の州である。そして、またりんごも州の産業の一つだ。　　さて、ビック･アップルという名前の由来なのだが、いくつかの逸話がある。一般によく聞くのは、1929年の大恐慌の後、街頭でリンゴを売りはじめた人々が大儲けをしニューヨーク経済に深く影響したという話。私もそう聞いていた。　　もう一つは、１９２０年代にモーニング・テレグラフ誌のレポーターをしていたジョン・Ｊ．フィッツ・ジェラルドがニューヨーク周辺にあった競馬場を「ビック・アップル」と呼んでいた事に始まる。彼はニュー・オリンズの馬舎で働く黒人達が使用していたのをのを聞いたからだった。そして1930年代にジャズ・ミュージシャン達が当時ジャズの首都と呼ばれたハーレムの｢ビック･アップル｣というジャズ・クラブで演奏する事を指し、そして1970年代に政治運動の一括にまたその名が使用され定着した。　　そして名前由来説に一番興味をそそられた話は｢禁断の果実｣説。　　19世紀の始め頃、ヨーロッパの戦争から逃れて移民してきた中にエバリン・クラウディン・デ・セイント・エヴレモン（Evelyn Claudine de Saint-Evremond)という女性がいた。マリー・アントワネットのお気に入りでもあったという彼女は教育もあり、魅力的ですぐに社交界の人気者になった。アメリカ創立者の一人である、アレキサンダー・ハミルトン氏の息子、ジョン・ハミルトン氏との結婚が決まっていたのだが、直前になって破棄されてしまった。エバリンは直ぐに数人からの援助を受けて、サロン（高級売春婦宿）の経営を始めた。そこではエレガントなディナーやギャンブルと共に｢ラブ・メーキング｣の場所として、皆に｢愛の城｣と呼ばれて親しまれるようになった。　　エバリンという名前にはアダムとイブのイブ（Ｅｖｅ）の名が入っている事から、彼女はイブ、通ってくる男性達をアダム、そしてそこで働く売春婦達をアップル（りんご）と呼んだ。そして、彼女のサロンに通う事を｢イブのりんごの味をみる｣（having a taste of Eve’s Apples)　と言ったのだった。　　その他にもいろいろな名前の由来の逸話がある。だが、私は禁断の果実説が一番似合う気がするのである。というのも、ビジネスが栄える街には必ず商談が出来て、綺麗なお姉さんがいて、お酒が飲めるところがある。政治や経済の中心となる人物がそこへ集まってくる。その人達が社会を動かし、文化をも生んで行く。それは今でも言える事ではないだろうか。アメリカでも日本でも、世界のどこにあっても変わらないと思うのだ。それにその方が人間くさい。人間そんなに偉くないとも思うのだ。りんごは愛の象徴でもあり、禁断の果実でもある。これは｢紙一重｣ということなのだろうか。　　りんごの美味しいこの季節、りんごをかじりながら想いを馳せよう。

  Sep 28, 2004

• 女同士のキス

  “Same Sex & the City” これは先週金曜日（Sept. 24, 2004)のNYポスト誌の見出しだ。今年のエミー賞でベスト助演賞を受賞した女優、シンシア・ニクソンが今、女性と交際中というゴシップの記事だ。去年、15年一緒に住んでいた夫と別れ（法律的には籍は入っていなかった）、今年一月からある女性と付き合っていることに彼女は否定していない。逆に｢今、とっても幸せ｣と語っている。渦中の人、シンシア･ニクソンは夫との間に二人の子供がいる。これはレズビアンであるとカミング・アウト宣言したコメディアンのエレン・デジェネラスとは違う。果たしてこのスッパ抜き記事に読者は驚いただろうか？ニューヨーカーに限って言えば、日常茶飯事だろうと私は思うのだ。大学時代に女の子同士で体験してみる、という事は実は非常に多い。ただそれが表に出ないだけであると私は思う。また実際に体験までには至らなくても、酔っておふざけでキスぐらいはした事のある人は殆どなのではないだろうか。私の知り合いや友達にもキスくらいならした事ある人は多くいる。また私もそういう経験がある。だからと言ってそれが直にレズビアンに繋がるとは限らないと思うのだ。特にエンターテイメントの世界はエキセントリックな人間の集まり。クリエイティブな人達が集う場所での、ゲイの人口率は高い。人気男優が実はゲイだったという話はよく。ロック・ハドソンやクラーク・ゲーブルのような昔の男優達のイメージはそれで一変に崩れてしまう。私にはバイ・セクシャルの女友達にがいる。基本的にはオトコの方を好む彼女だが、オトコ日照りが続くとオンナに目が向くようだ。気の弱い私は突っ込んで話を聞く事が出来ない。彼女の話を受身的に聞くのが精一杯だ。そこに私の日本で生まれ育ったナイーブさを自分に感じる。その彼女もシンシア・ニクソンと同じ様に女優を目指す傍らマッサージ・セラピストとして生計を立てている。一度、肩こりがひどくてどうしてもマッサージが必要だった時、彼女の元へ行った。なんと表現してよいか判らない気分だった。というのも彼女は私たち共通の女友達に、どうも興味があったようなのだ。共通の友達はストレートだと私は思っているのだが、彼女の受け方がまた微妙にそそっているように思えたのだ。そんな事を思い出しながら、果たして自分はどう思われるのだろうかと異常に気になった。断っておくが、私はストレートでオトコが好きだ。けれど、素っ裸で受けるマッサージ中にオンナにも魅力的でありたいと心の奥底で思っているのかもしれない。約一時間半のマッサージを受けた。彼女は私の心中など知る由もなく、マッサージを終えた。私はよくオトコに肌が綺麗と言われるのだが、何も言われなかった。職業柄毎日何人もの肌を見ている彼女にとっては、どうってことではなかったのだろう。｢つまらないオトコと付き合うなら、気心知れたオンナと付き合うのがいいという気持、よくわかるわ｣シンシア・ニクソンの記事と一緒に記載されていた読者の声だ。きっとこれが仕事だけでなく、性に対してもアグレッシブな女ニューヨーカーの意見なのだ。でもやはり私はオトコの方が良い。気心知れた女友達でも、オトコに求める物は根本的に違うように思う。例え良いオトコと出会う機会がなくても、つまらないオトコを良いオトコにする位の心得を持っていたいものだ。

  Sep 27, 2004

• 旧友からの一報

  大学編入一日目に出会った友達から２年ぶりに電話があった。私達が出会ったのはもう１０年以上も前になる。冬でも針葉樹で緑のあるシアトルから、裸木だけのニュージャージの学校へ来たのが９３年１月。レッドアイで着いたニュージャージーはどんより曇り、どこか空虚さを感じた。初めての寮生活となり、心弾むべき所なのだが何故かそんな気持ちにはなれなかった。留学生だけが他の生徒達より一日早く寮へ入った。だからまだ学校内も静かだった。空港まで迎えに来てくれたアメリカ人学生が気を利かせて、その日ついた留学生を集めてディナーに招待してくれた。そこで最初に出会ったのが彼女だった。プエルトリコからの１セメスターだけの交換留学生。強いアクセントはあるものの、彼女の英語は上手だった。私は既にアメリカ３年だったにも関わらず、日本人の多いシアトルにいた事で、英語の会話はそこそこ。凄いなと圧倒されていた時、カリブ海の島出身独特の明るさを持つ彼女が話しかけてきた。｢どこから来たの？｣｢シアトルだけど、私は日本で生まれて育ったの｣すると彼女は日本語でこう言った。｢はじめまして。私はＳです。よろしくお願いします。｣それからは彼女の質問攻めにあった。プエルトリコで日本語を勉強していたという。紙にカタカナで自分の名前を上手に書いて見せてくれた。ディナーに招かれた他の留学生二人はスウェーデンからだった。プエルトリコの彼女に比べ、彼等は殆ど会話をしないように見えた。Ｓの朗明さに皆惹かれていた。意気投合したＳと私は、その後行動を共にした。キッチン付きの寮だったので、お互いを訪ね合い、私は日本食や中華を、彼女はプエルトリコ料理を披露してくれた。南国の彼女には冬の寒さがきつく、いつもジャケットを重ねるように着ていた。雪が降った時は初めて見る雪に歓喜をあげていた。セメスターが終わり、彼女はプエルトリコの大学を卒業する為帰っていった。別れはとても辛かった。日本では卒業毎にしか来なかった別れが、アメリカでは頻繁にあった。ＥＳＬで、短大で、出会いがあってもすぐ別れがあった。別れる度、涙を流し再会を誓う。国へ帰って行った人。他の州へ転校していく人。結局、再会出来た人はあまりいない。そんな経験をし続けた後だったから、余計辛かった。その頃はまだＥメールが普及していなかったので、私達は電話と手紙で連絡を取合っていた。私は卒業してもニュージャージーにいて就職し、彼女はプエルトリコでフライト・アテンダントとなった。仕事柄、安くチケットが手に入ったり、タダでニューヨークへ来れる時は遊びに来ていた。大手の航空会社に転職した彼女はやがてサンフランシスコへと移って行った。国際便に当たるとヨーロッパやアジアへも行く事が出来、言葉の好きな彼女は喜んでいた。そんな彼女とも一時期音信不通になった。今となっては何が原因だか思い出せない。些細な事だったのだろう。何故か私の元彼達は、私が女友達と行動を共にするのを嫌がった。若い女同士で出かける事が出会いを求める事だと決め付けていた。そんなオトコ達と付き合う私に彼女は呆れていた。そういう事が原因だったのかもしれない。自分の親友に男らしくない態度を取る彼たちに愛想をつかし、彼女が遊びに来たあと別れたことが２度程あった。彼女も恋に落ち、結婚した。私はプエルトリコでの結婚式に出席した。全部手作りの素敵なレセプションだった。ダンスもサルサやメレンゲと、とても楽しいものだった。が、彼女の結婚は長続きしなかった。マッチョである事が男とされる文化で育った彼女の旦那は、英語があまり出来ずに就職に苦労していたのだ。彼女の稼ぎだけで生活していくのが嫌になり、結婚生活は１０ヶ月程で終止符を打った。自棄になった彼女はヨーロッパに移住、寒いドイツに６ヶ月住んでいた。傷心が癒された頃、やっと実家に近いマイアミに戻って来た。そこで現在の夫と出会い今ではもうすぐ３歳になる男の子のお母さんになっている。大学時代彼女はよく私に言っていた。｢なんで結婚なんかしたいの？ 好きな事沢山して、沢山恋をしなくちゃダメよ。｣そんな彼女が家を買い、息子がいる。その息子が電話の向こうでスペイン語で何か言っている。それに応える彼女。すっかりお母さんだ。アメリカ人の友達はそのサイクルが早い。セメスター毎に友達が入れ替わる。私の回りを見ても、アメリカ人の本当に仲の良い友達は高校時代の友達。大学や仕事場で友達になっても、卒業したり仕事場が変ると縁遠くなる。だから親友もセメスター毎に変って行く。日本やアメリカ人以外の友情は一度芽生えたら、一生もの。例え音信不通になっても、まるで昨日会っていたかのように会話が始まる。２年というブランクがあっという間に消えていった。昔彼女が言っていた言葉を思い出す。｢私とあなたはソウル・メイト。会った瞬間にお互い惹かれ合う事は恋愛だけじゃなくて、友達にも言える事よ。｣電話を切って久々に暖かい気持ちに包まれた。｢友を得る唯一の方法は、自分が良き友たるにある。｣ エマーソン

  Sep 25, 2004

• フット・ワーク

  今日会社で非難訓練があった。今回は一年に一度行われる、実際に階段を降り、指定された集合場所へ集まるという訓練だった。私はまだ働いていなかったが、昨年の停電の時、実際に階段を降りてビルから出たと聞いた。やはりエレベーターは使えなかったらしい。 私がいる部署は３４階にある。健康で体力のある人ならいいが、そうでないと３４階を降りるのは大変だ。今日は訓練だった為、階段組とエレベーター組に分かれた。勿論私は階段組み。毎朝歩いて出勤している為、スニーカーで通勤している。サンダルからスニーカーに履き替えた。訓練ではあるが、はめったにないチャンスだ。 私は女ひとり、若い男子社員数人に混じって３４階から降りていった。私は携帯電話を片手に、普段ジムで運動しているという男子社員を急かすように駆り立てた。私は携帯電話の機能の一つ、ストップ・ウォッチで時間を計ってみたのだ。 ｢３分経過｣ やっと半分を過ぎた頃だった。一分毎に皆に時間を告げた。 “Come on! Come on! You can go faster!” まるでジムでトレーニングしているようだった。足の筋トレ等の話で弾み、結構楽しかった。結局所要時間は６分１０秒。思ったより早く降りれたと思った。今回は３４階だけの訓練だった為、途中の階から合流してくる人達がいなかったからだ。だが実際に非常時が起きた場合、パニック状態に陥るであろうと予想される。そして途中で合流する人達がいれば、６分程で降りる事は不可能だろう。 数ブロック離れた教会前が集合場所になっていた。そこで簡単な説明を受け、訓練は終わった。私は持っていなかったのだが、会社が非常用パックを供給してくれる事を知った。その中には懐中電灯、水、パワーバー等、緊急時に必要な物が入っている。今までの会社でこのような訓練をした事がなく、またそのような緊急パックを提供してくれる会社はなかった。やはり｢あの日｣から会社の対策も変って来ている。 また仕事場に戻ったのだが、残念な事に階段ではなくエレベーターで戻った。こういうことになると私はすぐにチャレンジしたくなる。実はそういうレースがある。あのエンパイアー・ステート・ビルの階段を駆け上がっていくレースが毎年一度行われる。８６階、１，５７６段を上るレース。今年二月にあったレースでは、２３歳のオーストラリア人が１０分を切る９分５３秒で優勝した。来年チャレンジしてみたいという気持ちが湧きあがった。 退社後、セントラル・パークで４．７５マイル（７．５キロ）を走った。夕方の空が染まっていく中、ハイライズと呼ばれる高層マンションが浮かび上がるように見えた。まるで影絵のよう。そして半分満ちた明るい月がミッド・タウンのビルの上で輝いていた。そんな景色を見ながら走ると気が紛れて、走る苦しさが和らぐ。そしてこう思った。 ｢この風景を日本の皆に見せてあげたい!｣ ３４階からの階段下り、４．７５マイルの走った今日。さあ、明日の朝、私の筋肉どうなっているだろう？

  Sep 22, 2004

• 動と静

  ひんやり冷たい風と、それ程強くなくなった朝の光。めまぐるしい一日の始まり。国連の第５９回総会が開催されている。この数日、イーストサイド側の交通規制でまた街が警戒ムードになった。今回は私の活動圏内という事もあり、影響を受けている。昨日はバスに乗って通勤したが、途中で降りて少し歩いた。国連に近い通りは通行止め。街角の警官はいつもより多くいる。だから今朝は歩いて通勤した。ブッシュ大統領がウォルドフ＝アストリア・ホテルに滞在してると同僚から聞いたが頷けた。その回り一切の通行禁止。そして、ホテルの入り口には大きな白いブロックが幾つも配置されていた。それはきっと万が一、車が突っ込んできても大丈夫な対策なのだろう。共和党大会中には見なかったものだ。このアストリア・ホテルはFDRと呼ばれたフランクリン・D・ルーズベルト大統領が住んでいた。彼は車椅子に乗っていたが、当時はまだテレビの時代ではなかったので、その事を知っていた人は少なかったという。そのルーズベルト大統領の為に特別に使われたのが、４９丁目にあるアストリア・ホテルと４２丁目にあるグランド・セントラル・ステーションとを繋ぐ地下鉄の路線。車椅子のルーズベルト大統領にお付きの者にとっては便利であっただろう。またこのホテルにはダグラス・マッカーサーも住んでいた事があるようだ。今はパリス・ヒルトンのヒルトン家が持っている。元ボーイフレンドとエッチビデオがネットで流れたパリス・ヒルトンが後継者というのが、やはり不思議だ。中世ヨーロッパの王族・貴族もきっと乱れていただろうが、彼女はその現代版を生きているのだろうか。そんな下らない事しか頭に浮かんでこない。それにしても大統領選挙、今までにないレースのような気がする。クリントンを始め、普通キャンペーン中に浮上してくるのが女性問題。それがないのだ。両者とも色恋沙汰がないというのは、家庭円満な証拠なのだろうが、裏を返せば色気がないという事なのだろうか。クリントン前大統領はチャーミングだ。実際にあった人は彼のカリスマ性に圧倒されると聞く。私も会ってこの目で確かめてみたい。色恋沙汰の代わりに浮上したのが両者の兵役時代。昨日、CBSがブッシュ大統領の軍歴疑惑報道で誤報があったと謝罪した。最近の大統領選挙を始めイラク戦争も情報戦争だ。今、情報飽食時代だ。どんな小さい事もインターネットで簡単に調べる事が出来るが、さて信憑性となると難しい。また、今回のCBSであったように擬証言もある事だろう。受け身でニュースを徴集する私達はどう判断したら良いのだろう。ヤンキース対ボストン戦で歓喜を上げている小泉首相はどう考えているのだろうか。大リーグで日本人選手が活躍して嬉しい、と大喜びだが、アメリカにはメジャーリーガー、駐在員以外の日本国籍の人間がいる事を理解しているのだろうか。私は在外届けを出しているが、９・１１の時、日本領事館からの安否の連絡は一切なかった。これが一部の日系社会で｢私たちは見捨てられた存在か｣と波紋を呼んだ。ブラジルで涙を流した小泉首相。今回の外遊でもっと世界を把握する事が出来たのだろうか。今、日本が危ないと私は思う。あるメルマガでこんな事を知った。小学校４年から６年の子供の４割が｢太陽が動いている｣と信じているという。先進国の中でも先を行っていた日本の教育、どうなっているのだろう。そして更に、ある小学校の先生がした小学校６年生のアンケート３３人中２８人が、｢人は死んでも生き返る｣と答えたそうだ。テレビや映画の影響だ。死んだ人が違う番組で生きている。映画の中で死んだ人間が生き返る。生と死の区別がない。人を殺してしまった少女が｢会ってあやまりたい｣と言う。おかしい。小学校６年生といえば１２歳。それまでに、人でなくても昆虫や小さな動物から死を学んだ事はなかったのだろうか。情報という竜巻に巻き込まれたように、世界が回っている。矛盾と解からない事だらけ。心に静寂を求めて、ただ前を見つめ立ちすくむ私がここにいる。

  Sep 21, 2004

• 

  地球交響曲（ガイアシンフォニー）

  先週、日系新聞に載っていたひとつの案内に目が止まった。地球交響曲 ガイアシンフォニーとある。どこかで聞いたことのある名前だった。精神世界の何かの記事で読んだ記憶がしたが、思い出せなかった。映画の補足としてこう書いてあった。｢自主上映のみで３０００回、150万人もの観客動員となったドキュメンタリー映画の、初のNY上映。｢日米友好150周年記念｣の一環イベントであり、同時にロサンゼルス、サンフランシスコでも上映される。龍村仁監督の妹、和子氏による挨拶つき。95年制作、長さ2時間10分。｣どうしても何か気になるので、行ってみることにした。チケットは完売していた。しかし空席が少しあるという事で、運良く観ることができた。まずは和子氏の挨拶から始まった。動員数は１５０万人ではなく、シリーズを観た人は3億人にも上るという。それは凄い事だ。それも自主上映でなのだ。私が観たのは第二番。出演は以下の人達だ。佐藤初女： 森のイスキア主宰 鬱病や心の病んだ人を30年に渡り受け入れた。その数１０００以上。ジャック・マイオール：映画｢グラン・ブルー｣のモデルとなった海洋冒険家。フランク・ドレイク：天文学者 NASAで世界で初めてE.T.を捜し求める計画、VoyagerIとIIは有名。地球から宇宙へメッセージを発信している。ダライラマ１４世： ノーベル平和賞受賞 チベット仏教最高指導者彼等の魂は宇宙と調和をとり、高次元の意識を持った人達だ。音楽と映像で不思議の世界へと導かれて行った。私が一番印象を受けたのはやはり、海洋冒険家のジャック・マイオールさん。素もぐり105メートル記録保持者であり、この記録を残した時彼は既に５０歳を過ぎていた。ヨガの呼吸法を取り入れ、また人間の体もイルカと同じ機構を果たす事を自分の体を持って証明した。彼の言った言葉が忘れられない。｢音楽は宇宙の言葉｣｢呼吸は宇宙の母｣｢深海での音のない世界で聞こえる宇宙の音はAum Aum Aum（オーム オーム オーム）｣彼はイルカとなった人だ。映画からはいつまでも子供のような瞳を持っているのが可愛らしかった。残念な事に彼は２００１年に死去されたと書かれてあった。きっと彼の魂は深海の奥深くで宇宙の音となって自由に泳ぎ回っている事だろう。イルカは人間と同じくらいの大きさの肺しか持っていないという。それを利用したのがこのジャックさんなのだが、たしかシャーリー・マクレーンの本でイルカと人間の事について読んだ事がある。昔、人間とイルカの輪廻転生は同じだったらしい。人間になったり、イルカになったりしたそうだ。しかし、ある時、確かアトランティスが沈没した頃に人間は人間、イルカはイルカへとしか生まれ変わらなくなったと読んだ。それをジャックさんを見ていて思い出した。きっとジャックさんはイルカ転生の多い魂だったのかもしれない。出演者の４人に共通していえる事は皆それぞれに夢を持って生きているという事。４人とも決して若くはないのだが、生きている姿勢が若々しい。夢が機動力になって毎日精一杯楽しく感謝して生きている。私はそこに大きなものを学んだ。映画が終わって出演者たちのクレジットが流れる。そしてひとつの名前に目を見張った。ヒリヤ和子これは私の精神世界の旅がシャーリー・マクレーンの｢アウト・オン・ア・リム｣から始まり、音楽評論家、作詞家の湯川れい子さんとその元夫、エイトスター・ダイアモンドの田村熾鴻氏と出会いその二人の本に出ていた人だと気が付いた。和子さんがヒリヤさんだったのだ!ロビーに和子さんがいらっしゃったので、田村さんと湯川さんの本でお名前を拝見した事を告げると、こう応えられた。｢そうよ、田村っちと湯川さんをダライ・ラマ様にお引き合わせをしたのが私ですよ。｣映画に感動した事を告げその場を去ったのだが、また繋がった、と思った。不思議の世界に驚くスピードで引き込まれて行った時期があったのだが、また始まったのかもしれないと直感的に感じた。何かが気になって行った映画の上映会。予感があったのだ。さあ、私はどんな事を地球（ガイア）に返す事が出来るだろうか。私に何かが起こっていく。これからが楽しみだ。 地球交響曲（ガイアシンフォニー） 第二番：http://www.gaiasymphony.com/co_guide2.html

  Sep 19, 2004

• 風邪に効く薬

  ひさびさに柄にもなく風邪を引いてしまった。 先週末、目覚めると喉が痛かった。「あ、まずい」と思った。私の風邪は必ず喉から来るからだった。幸いなことに熱はないのだが、咳き込むと辛い。咳で肋骨を折る人もいるのを思い出した。一瞬身震いしたが、「大丈夫、私は骨太だ」と自分に言い聞かせた。 風邪を引くとどうも頭の中の独り言が増えるようだ。ひとり暮らしだから話す相手がいないからかもしれない。「何か食べなくちゃ」とか「トイレいかなくちゃ」と普段の無造作な行動でさえ一つずつ言っているのだ。そしてどうしても恋しくなるのが母と母の作ってくれたおかゆだ。 アメリカで風邪を引いた子供たちにお母さんが作るのはチキン・スープ。アメリカ版おかゆといったところか。でも私はこのチキン・スープが嫌いだ。味が薄い上に中にラーメンを細かく切ったようなヌードルが入っている。チキンも美味しくない。インスタントの味がして治る風邪も治らない気がするのだ。だから友達がチキン・スープを持って来てくれると言ってもいつも断ってしてしまう。 おかゆはいい。じっくりと煮あげて梅干をひとつ乗せて食べる。体が温まり、お米がおなかの中にしっかり入って風邪と戦ってくれる気がする。この感覚はチキン・スープにはない。 「日本人でよかった。」 そう思う瞬間である。「お米の国の人だもの・・・」というCMを何年か前に耳にしたが、そのとおりだと思う。 メジャーリーガーの松井秀喜選手や松井稼頭央選手も大事な試合前にはおにぎりを食べるという。ホット・ドック、ハンバーガーじゃきっと力が出ないのだろう。卓球の愛ちゃんもアテネ五輪でおにぎりが食べられるようにと、ご両親が炊飯器を持って行った。お米は日本人のパワーの源なのだ。 もうひとつ咳が止まらない時、私は水色を胸にあてる。これはネイティブ・アメリカンの知恵から真似た。特にサウス・ウェスト、アリゾナ州やユタ州辺りのネイティブ・アメリカン・ジュエリーはトルコ石を使ったものが多い。このトルコ石を使ったジュエリー、実はヒーリングの役割もしているのだ。砂漠の中、風にのっていろいろな花粉が舞う時期があるそうだ。そして人びとは気管支をやられる。気管支が赤く腫れ上がる。それを胸に飾られている大きなトルコ石のジュエリーが中和させるのだ。つまり、こういうことだ。胸の第４チャクラは緑色。そこが赤く染まる。それをトルコ石の青によって中和させる。水彩絵の具を思い出して貰いたい。赤色と青色を混ぜると緑色になる。これと同じ原理なのだ。私の場合胸が隠れる程の大きなトルコ石のジュエリーは持っていないので、水色をあてる。カラー・ヒーリングだ。不思議なことにこれで癒されている気分になるのだ。そして母に電話する。｢ママ、私。風邪引いちゃった。｣国際電話で甘えてみる。いくつになっても子供でいたいのだ。母はビタミンCを多く採れとか、無理しちゃ駄目、とありきたりの事を言うのだが、私はそれでいい。母の声が聞きたいだけなのだから。これが今でも一番の薬だと思っている。今回の風邪で、既にもう数回電話してしまった。そのお陰だろうか、だいぶ良くなってきているようだ。明日には咳も止まりそうだ。家族と離れてひとり暮らしの風邪はちょっぴり人恋しくさせる。日曜の朝の母から電話が来るまでに、治っているといい。｢ママ、元気になったよ。｣そう言って安心させてあげたい。

  Sep 17, 2004

• だから私はアメリカが好き！

  1989年9月15日、シアトル国際空港。ここから私のアメリカ生活第一歩が始まった。期待と不安を混ぜながら希望に胸を膨らませていた。私の出身は横浜。昔の横浜は米軍基地後やその面影を残す場所が多かった。小さい頃から｢外人さん｣を街で見かけ、街は洋風のビルで一杯だったからだろうか、物心ついた時に既に目が外国に向いていた。外国イコールアメリカだった。横浜の山下公園に｢赤い靴をはいた女の子｣の像がある。これは私が小学校の時に建てられたと記憶にあるのだが、4歳から始めたバレエで、この曲に合わせて踊ったことがある。歌詞を聞く度にアメリカに憧れた。“赤い靴はいてた女の子異人さんに連れられていっちゃった横浜の波止場から船に乗って異人さんに連れられていっちゃったいまでは　青い目に　なちゃって 異人さんの　お国にいるんだろう 赤いくつ　みるたび　かんがえる 異人さんに　会うたび　かんがえる” 横浜の海を眺めながらいつも思っていた。｢この海をずっと行くとアメリカがあるんだ。｣初めてのアメリカ旅行は渡米した2年半前の198７年3月だった。その時は近所で宣教師をしていた友達の家を転々としながら西部の田舎を回った。日本人が珍しい地域ではじろじろ見られたりしたが、人びとがとても優しかったのを覚えている。受け入れてくれた家族も典型的な明るくフレンドリーな家庭だった。一番印象に残ったのがグランド・ティートンとスネーク・リバー。アイダホからワイオミング州のジャクソン・ホールに行った帰りにグランド・ティートンを背に走っていた。夕方になって辺りが薄暗くなり、そこへ満月が山と山の間からぼーっと白く輝いていた。まるで映画のワンシーンのようだった。車の後部座席からずーっと眺めていた。アイダホを後にした時、空の上から見るスネーク・リバーは本当にヘビのようにくねくねと曲がっていた。そして何故かこう思ったのだ。｢もう二度とここには来ないかもしれない｣アメリカ西部は自然の宝庫。国立公園も沢山有り、旅行は殆ど車でした。シアトルから北はカナダ、南はカリフォルニア、アリゾナへも行った。私はグランド・キャニオンやセドナ、モニュメント・バレーの赤土のインディアン居留区が大好きだ。行く度に｢だから私はここ（アメリカ）にいるんだ｣と思わずにはいられない。今でも必ず一つはインディアン・ジュエリーを身に付けている。サイキックにも言われた事があるのだが、もし輪廻転生があるのならば、私はきっとそこで生活したに違いない。赤土の土地は私の魂の故郷だ。このアメリカの広大さは飛行機に乗ると強く感じる。日本からニューヨークへ向かう１４時間中、大陸横断するだけでもその半分以上あると思う。特に夜ぽつり、ぽつりとある灯り。そこは人の住んでる証。灯りの集まりは小さな部落。そのようなところが山の中に存在する。その時、私は神様の存在を意識する。地球、宇宙、そして私。自分の存在のあまりの小ささに、日常の些細な事で悩んでいる自分が可笑しく思えるのだ。そしてまた孤独な地上の灯りを見て思いを馳せる。｢どんな人がどんな生活をしているんだろう｣今、私はニューヨークに恋している。もう6年になる。そんなに長い恋は初めてだ。最初は2年くらいニューヨークにいて、それから気候も良く、日本にも近いカリフォルニアに行こうかと思っていた。それがマンハッタンに住み始めて、はまってしまったのだ。この街のエネルギー、この街の人々、良いところも悪いところも全部ひっくるめて大好きなのだ。旅行から帰ってくる度にマンハッタンが視界に入ってくるとホッとする。そしてこう心の中で叫ぶ。｢ただいま、帰って来たよ!!｣亡くなった私の父はよく言ってたことがある。私はアメリカと結婚した、と。そんな父を私は半ば呆れて聞き流していたのだが、最近は父の言っていた事が満更ではない気がするのだ。私はこの国の建国精神が大好きだ。いってみれば日本の明治維新のような時代。国家の為、人民の為、知恵を出し合い、討論しあい、そして建国した。時は流れ、時代は変ってもその精神は永遠だ。そこに私は惹かれるのだ。だから今ブッシュだ、何だと騒いでいてもじっと待つ。時代はいつかは変っていくものだから。多種民族の混ざり合い、交じり合うこの国の人達が面白い。負と負を背負ってプラスにしてしまう不思議な力を持っている。そして最近は私もそんなエネルギーを提供し始めているように思えるのだ。この15年は本当に長くて短かった。楽しい事も沢山あった。笑った。泣いた。恋に落ち、人を愛した。愛された。出会いがあり、別れがあった。挫折を感じた時もあれば、希望に胸膨らませていた時もあった。そして、これからも続いてゆく。“To get to the fruit of the tree, you have to go out on a limb.” ～シャーリー・マクレーン（木の上の果実を取る為には、危険を冒して枝の先まで行かなくては）

  Sep 15, 2004

• テロと銃と大統領選挙

  朝通勤途中にフリーペーパの表紙に目がいった。ケリー大統領候補が銃を構えている左手首に黄色いブレスレットをしていたからだ。この夏、男女を問わずして街行く多くの人がしていた。癌を克服して、自転車レース、ツアー・デ・フランスを6度優勝したランス・アームストロングのガン・リサーチ基金に寄付すると、このブレスレットが貰えるのだ。ランス・アームストロングはアメリカ人のヒーローなのだ。そんな事を思いながら新聞に目を落とすと、“GUNFIGHT”という文字が飛び込んできた。そしてケリー候補が銃を構えてる写真だ。これはもう黄色いブレスレットどころではなくなった。昨日（13日）、殺傷機能の高い｢攻撃的銃器｣（Assault Weapon）の製造・販売を禁じた法律が10年間の期限切れで失効した。つまり誰でも銃が買える、つまりテロリストでも銃を手に入れ安くなったのだ。9月11日、まだ同時多発テロの犠牲者の3年追悼式を終えたばかり。本当にこの国はどうなっているのか。時効になった法律は1994年にクリントン前大統領が犯罪抑止を重要公約に挙げて成立された。当時から銃犯罪に悩む都市部では支持が高く、その反面、銃保有の農村部には不評、これが致命となって民主党が議席数を確保出来なかった。ケリー候補はブッシュ大統領が議会に延長を働きかけなかった為と批判している事が新聞に載っていたが、実はケリー候補も銃保持者であり狩りを楽しむという。結局、全米ライフル協会（NRA）のロビー活動が勝ってしまった結果なのだろうか。この全米ライフル協会の会長は俳優のチャールトン・ヘストン。マイケル・ムーア氏のアカデミー受賞ドキュメンタリー｢ボウリング・フォー・コロンバイン｣にも登場する。あのコロンバイン高校で使用された銃がもっと市場に出回る事になるとしたら。。。９・１１以来、イスラム圏から来た移民のチェックが厳しくなった。例えイスラム圏でない、インドやその近辺のアメリカ人にとって｢テロリスト｣に見える国々の人達も対象になっている。その殆どは独裁政治や貧困で移民してきた人たちだ。しかし、ホームランド・セキュリティー省はこのチェックを緩めない。オクラホマはアメリカ人のティモシー・マクベイが犯人だった。今後、このように政府を怨むアメリカ人でさえ、銃をとり同胞アメリカ人の命を奪うことも可能なのだ。私が始めてニューヨークへ来たのは１９９２年の冬だった。その時はまだタイムス・スクエアの辺りは物騒で、夜になるとポート・オーソリティーの回りは売春婦達で一杯だった。きっとドラッグ・ディーラーも多かったに違いない。ジュリアーニ市長になって街が一掃され、今ではディズニーランドのようだ。サンリオや吉野屋も出店している。そうやってマンハッタンは安全になった。しかし、川向いにあるニュージャージーのニューアークは全米でもランクの高い犯罪都市だ。川を渡ってニューヨークへ入ってくる事は簡単だ。テロ対策強化と唱えつつ、銃を入手し易くしたのであれば、強化は難しくなると誰でも解かる。その上、警察は契約無しで働いているとデモを行っている。縮小されるかもしれない。だとしたら、誰が本当に市民を守ってくれるのだろうか。大統領選挙という名目の下、様々な事がこのように湾曲されていき続けるのだろうか。1ドル札に書かれた IN GOD WE TRUSTという言葉。その神（ＧＯＤ）はこの国をどう導いていくのだろう。選挙権のない私は、アメリカ国民が適切な候補を慎重に選んでくれることをただ祈るだけだ。ブロードウェイ劇場が立ち並ぶ４２丁目は、観光客で賑わうのがいい。

  Sep 14, 2004

• 秋刀魚の味

  日中はまだ暑さを残しながらも、朝晩は涼しく秋が近づいているのを肌に感じるようになった。そして先日会社に来る御弁当屋さんで売っていたのが秋刀魚の塩焼き弁当。そう、秋刀魚と言えば秋が旬の魚。この秋刀魚をようやく美味しいと思えるようになってきた。残念ながらこの日のランチ、塩焼き弁当は見送り。というのも、ランチはいつもブライアント・パークで食べるからだ。まず、骨付きの魚を食べるのが難しい。テーブルを確保しなくてはならない。第二の理由は魚そのままの形で食べると、きっと回りのアメリカ人が気味悪がるのじゃないかと思ったからだ。ところで去年、小津安次郎誕生１００周年を記念して映画祭がリンカーンセンターで開催された。私がコミュニティー雑誌で読んだ時には時遅し。既に終わっていたのだが、ビデオ屋さんに借りて何本か映画を観た。まずは代表作のひとつ｢東京物語｣を観た。時を同じくして活躍したのが黒沢明監督。この日本を代表する２大間監督は動と静と正反対。私は黒沢映画が好きでよく見るが、そのつもりで見始めると、小津監督の作品の時間の流れはあまりにもゆっくりで、何度か寝てしまいそうになってしまった。私が気にいった作品は｢秋刀魚の味｣。恥ずかしい事だが最初、漢字の｢秋刀魚｣の読み方が解からなかった。｢日本語を忘れてきたなぁ｣と思いながらビデオを見始めた。この作品や｢東京物語｣から、終戦後のどん底から脱した頃の日本の庶民の様子が窺がわれる。そこは私も知らない時代の日本。主人公達が私の父や母、祖父や祖母の姿と重なった。では何故｢秋刀魚の味｣が気に入ったのか。答えは単純明解。私もあんな父が欲しかった。嫁に嫁がせたいが嫁がせたくない、そう思って貰いたかった。私の父はとんちんかんにも私がアメリカに嫁いだものだと思っていたからだ。｢パパ、アメリカは国よ、人じゃないのよ、わかってる？｣｢う～ん、そうかぁ～｣父は５年前に他界したのだが、本当に何を考えていたのか未だに不思議だ。映画の中では笠智衆が父親役だったが、あういうぼ～っとした様な父親像に惹かれる。とんちんかん、ぼ～っとしている父親。どちらがいいのかわからないが。映画の中で娘役は２４歳の設定だったと思う。私は２０代の頃、｢クリスマスケーキ｣を結構意識していた。｢売れ残りにはならないぞ!｣とは思ったものの、こればかりは一人ではどうしようもない。アメリカにいるから関係ないか、そう考えるようにした。テレビ版で制作された｢秋刀魚の味｣も観たのだが、話を現代版に設定している為、面白い事に嫁ぐ前の娘役は３２－３３歳の設定になっていた。よくよく考えれば３０代前半は正しく｢秋刀魚｣の時期にあると思う。女の一生を取って｢秋刀魚の時期｣というと他の女性達に非難を浴びそうだが、私は旬の秋刀魚でありたい。いかにも魚という形をして、どこの定食でも食べられる。ただし、｢あそこの秋刀魚は旨かった、また食いに行きて～な～。｣という秋刀魚になりたいのだ。普通、人は旬の魚を求めるが、私も求められたい。だが現実はそんなにうまく行かない。とりあえず、焦らずにいようと思っている。秋刀魚の塩焼き、秋刀魚の味噌煮、秋刀魚のマリネ。いろいろな調理方があるが、油のった旨い秋刀魚でありたいものだ。明日のお弁当は塩焼きを頼もう。

  Sep 13, 2004

• IMAGINE

  “Imagine all the people living life in peace”あれから３年が過ぎた。あの日、見たこと、体験したことは一生忘れることは出来ないだろう。私の人生が大きく変った。そしてアメリカが、世界が変った。あの日以来ダウンタウンに行くことを避けている。初めて訪れたのは約６ヶ月後、母が日本から来ていた時だった。翌年の３月、ワールドトレードセンター跡にライトアップが行われていた。私は乗り気がしなかったのだが、母の要望で見に行った。天に伸びる二本の光の柱。それはまるで天国に昇る柱のように思えた。わたしが昼休みに通った公園も、ランチを買ったバーガーキングも、本当にないのだと実感した。仮設に設けられたビューポイントからは、夜通し作業をしているところが見えた。ローウヮーマンハッタンのシンボルだったツインタワーのあった空間が虚しかった。静粛な空気の中、街頭で９・１１関係のTシャツや土産ものを売っていた中国人がいた。溢れる怒りを感じつつ、帰途についた。今、グラウンド・ゼロはニューヨークの観光の一部となっている。私も観光客に行くことを薦めるが、自分では極力行くのを避けている。まだ、気分が動揺するからだ。そしてここが日本だったら、と何度思ったことだろう。まず、グラウンド・ゼロで祈祷し、冥福を祈る。そして魂が天国へ行けるようにと、儀式が行われたのではないだろうか。そして新しいビルを建つ前にまた御払いの儀式をする。そういう事が欠けているような気がするのだ。ひとつ面白いなと思ったことがある。それは、９・１１の記念碑に Masayuki Sono という日本人彫刻家の作品が去年選ばれたのだ。その記念碑は今、スタテンアイランドにあり、マンハッタンに向かって建っている。原爆を落とされた国の人の創った作品が、テロにあった国に納められる。これは何か意味があるのかもしれない、と私は思いたくなる。ところで、この９月１１日は私なりに何かしたかった。仏教で例えると法事のようなことをしたかった。３年前の日記を出して読み返してみた。私の心を静めてくれた場所があったのを思い出した。そこはセントラル・パークの中、西側７２丁目にあるストロベリー・フィールドだった。あの日の直後、キャンドルサービスにも行った。他のニューヨーカー達とどこかで繋がっていたいという気持ちで一杯だった。教会にも行ったが、宗教ではないと思った。そしていきついた場所が、多分誰よりも平和を願い訴え続けて銃弾に倒れたジョン・レノンを記念して作られた場所だったのだ。今年、９月１１日のストロベリーフィールドは私が訪れた中で一番綺麗に飾られていた。普通はキャンドルや手紙などが置かれているのだが、この日はすべて色とりどりのバラの花でピースマークが作られていた。そばのベンチではギターを弾いている人が何人かいた。その歌声が悲しく、美しく響いていた。そんな中、“Imagine”が歌われ始めた。３年前、同じ場所で感じたように、心がすうっと、洗われる気がした。回りにはそれぞれの思いの人たちが、現れては去り、あるいはベンチに座ってひとときを過ごしていた。歌が終ったと同時に私のサービスも終わったな、と思った。ジョン・レノンの残したもの。時代を超え、国を越え、宗教を越え、そのメッセージは今まだ歌い継がれている。彼の願いが叶う日の来ることを祈りたい。それは私たちの祈りでもあるのだから。“You may say I’m a dreamer, but I’m not the only one. I hope someday you’ll join us and the world will be as one.”願 平和

  Sep 11, 2004

• 

  アメリカの崇拝するもの

  “BETTER　BLOWJOBS THAN NO JOBS” そう書かれたクリントン前大統領の写真入りのバンパースティッカー。人通りの多い街角にも拘らず、声をあげて笑ってしまった。久々に面白いものを見つけた。 ニューヨーク市立図書館の隣、４２丁目と５番街と６番街の間にブライアント・パークがある。私はここで毎日ランチを食べている。オフィスから出て、街の空気を吸って食べるランチは美味い。周りも同じように昼休みを満喫しているニューヨーカーで一杯だ。 この日もお気に入りの場所に向かって歩いていた。すると、一人のおじさんが棒に幾つかのバンパースティッカーを山にある標識のように張って、バンパースティッカーを売っていた。そのひとつがそれだった。よく見るとおじさんは、 REPUBLICANS　 FOR 　KERRY　　 と背中にプリントしてあるTシャツを着ていた。首をかしげた。ケリー氏は民主党だ。共和党員でありながら民主党から出馬のケリー氏をサポートする人がいる。私はてっきり自分の属している党から出馬の候補者に投票するものだと思っていた。そしてこういう事には一番に飛びつくのが私の性格。早速おじさんに歩み寄って行った。 「これ、あなたが作ったんですか？」 「そうだよ。」 「これ、ください。」 私はクリントン前大統領の写真の入ったバンパースティッカーを２ドルで買った。どうしても好きではない薄笑いのブッシュ大統領の写真が入ったもうひとつのスティッカーは買いたくなかった。 SHIT SELLS と書いてあったのだが。「摂氏９１１」のマイケル・ムーア氏に送ったら喜ばれるかな、なんて下らない事も考えてた。 今日のDaily Sunという日系日刊新聞に『「海外でケリー氏「圧勝」』という見出しの記事が出ていた。メリーランド大学が世界３５カ国で実施、発表したアメリカ大統領選に関する世論調査結果によると、ケリー氏が平均４６％の支持され、ブッシュ大統領は２０%と海外では反ブッシュ感情の強さを示したと記事に書いてあった。日本はケリー氏支持４６％、ブッシュ大統領２３%と先進国の中ではブッシュ支持が高かった。ブッシュの支持が高かった国はフィリピンの５７％、ドミニカ共和国の３８％。ケリー氏への支持は、ドイツとノルウェーで６４％、オランダが６３％だ。アメリカと仲の良いイギリスでさえ、ケリー氏が４７％に対し、ブッシュが１６％だった。しかし、アメリカの有権者はこの結果に影響しない、と答えたのが７４％だった。そうだろう、アメリカは自分の街以外何も知らないという国民の多いところなのだ。知らないというより、興味がないのだろう。勿論ニューヨークという大都会で、全米各地や世界各国から人が集まってきているので、普通のアメリカ国民よりは知識を持っているように見受けられるが。世界の金を動かしている人達の関心は、避暑地のハンプトンであり、新しく出来たラウンジ・バーであり、｢セックス・イン・ザ・シティ｣のような色恋沙汰なのかもしれない。明日で同時多発テロから３年が経つ。その追悼行事に併せて、様々な商法で愛国心グッズを売る業者たちの事がデイリー・ニュースに載っていた。(＊参照） ９・１１はPatriot Day（愛国心の日）になったようだ。それを見ていると、共和党でも民主党でもない、アメリカ商法が一番支持されている気がする。テロで亡くなった人達、その遺族、そしてあの日を経験した私を含めてニューヨーカーが、アメリカが世界を平和に導いていく政治を望んでいる。そう願っていると信じたい。平和の名の元に戦争をすることや戦争を続けていく事だけが真の平和への道ではない事を。愛国心から愛地球心へ。それがわたしの祈りだ。 ＜記事＞ Is this how to remember Sept. 11? http://www.nydailynews.com/front/story/230786p-198204c.html

  Sep 10, 2004

• 青い制服を着た人たち

  Ready, Willing & Able こうロゴの入った青い制服を着た人達が街を清掃しているのよく見かける。その殆どが黒人。彼らの動作は多少ゆっくりめではあるが、黙ってもくもくと作業をしている。街角のあちこちにあるごみ箱の中のごみ袋を替え、落葉の季節になると掻き集める。そんな彼らのほとんどは前科者だ。 ホームレスや前科者を対象に、彼等が社会復帰するきっかけを作るこのプログラムはDoe Fund という非営利団体が運営している。職を与えることによって、稼ぐことができ、やがて自力していく手伝いをする。その過程では住居を提供し、食事も供給する。 普通、平等雇用とは言いながらも雇い主は前科者を雇う事に躊躇するだろう。それがこのプログラムに入る事によってトレーニングが受けられ、職を手にすることが出来るのだ。そして自分で稼ぐ。これはその人にとって、真の社会復帰への自信となるに違いない。たとえそれが誰もしたがらない、しかし絶対に必要な街のごみ掃除であっても。 このプログラムを知った日本のメディアで働く知人はとても驚いていた。日本にはこのように前科者が社会復帰するための錯置が取られていないと言っていた。ということは、日本社会の常識では考えられないことなのだろうか。 ホームレスにもいろいろいる。普通に家族がいてちゃんと生活していた人が、些細なことから事件を起したり、アルコール中毒になって挙げ句の果てにホームレスとなってしまう。私はそういう人を知っていた。奥さんとの離婚により３人の子供とも一緒に暮らせない寂しさから、現実から逃げた。酒を飲むことで忘れようとしたのだろう。結局、一度死にそうになって目を覚ましたという。 彼はある恩人に拾われ、その恩人が働いている現場の職を手に入れた。彼の陽気な性格から恩人には好かれ、また職場の男達とも上手くいっていた。それと同時に更生のプロ・カウンセリングを受けていた。しかし、最初のうちは頑張っていた彼にも隙が出始めた。カウンセリングに現れなくなり、稼いだ金で少しづつまた酒を求めるようになった。それを隠す為に嘘をつき、偽善の態度を取り始めた。何かがおかしいと回りの人たちは直ぐ気が付いた。彼の恩人もまた助けようとしたが、一度回りだした歯車を止める事は出来なかった。今、その彼が何をしているのか私はもう知らない。 ニューヨークの街は比較的清潔だと思う。それぞれの地区にもよるが、私の住むアップタウンは特にそうだ。それは彼等のお陰と言っても過言ではないだろう。 今日も青い制服の人たちは、無口にニューヨークの街の清掃をしている。

  Sep 9, 2004

• ライター誕生

  夢は願い続ければ必ず叶う。私はこの言葉が大好きだ。夢は人が生きる勇気であり、情熱であり、活力の源だと思っている。夢に向かっている人の姿勢は前向きで、キラキラとしたオーラを放ち出会う人を魅了する。夢を達成した人は、その充実感を心身共に抱擁し、また新たな夢に向かってスタートする。小さな夢、大きな夢、それは十人十色。夢は虹の彼方に、そして足元にあるのだ。私の夢もこれまでにいくつか叶って来た。まずはこうしてアメリカに住んでいる事だ。言ってみれば現在進行形。小さい頃の夢が叶ってもう１５年経つ。留学して学んだのがコミュニケーションだった為、ジャーナリズムに興味があった。だから出版社で働きたいなぁ、と思っていた。卒業して就いた職は経理。スポンサーになってくれる会社でないとアメリカに残れなかったので、それはそれで良しとした。卒業後、大家のおばさんと亡くなった御主人が二人で建てたという、アンティーク調家具一杯の一軒家の一間を借りて住んでいた。息子達は成人して独立していたが、そこの長男がディズニーで働いていた。だから家の中にはミッキーマウスやミニーマウスなどで飾れてもいた。その時、「ディズニーという夢を売るようなところで働けるって素敵だなぁ」と思ったことが何度かあった。ニューヨークへ移り、晴れて永住権取得。これも夢だった。グリーンカードが無ければ、一生はアメリカに住めないからだ。その頃、趣味で取り始めた演劇のクラス転じてコメディーを始めた。小さい頃からバレエを習い、その関係でテレビに出演した事もあってか、演劇にとても興味があった。小学校一年生の時、「女優になりたい」と作文に書いていた。そしてニューヨークで初めてお芝居をした時、「女優」と呼ばれて戸惑い照れながらもとても嬉しかった。勿論それだけでは生活していけない。昼間の仕事が必要だった為、アメリカの会社に転職した。そこが出版社、それも大元はディズニーが持っている会社だったのだ。「あ、これってもしかして私が何気に夢みてた事だ。それもふたつ同時に!!」そして最近、知り合いの編集長が取材記者を募集している事を知り連絡を取った。勿論、取材経験もなく、まして日本語で物を書くという事など無鉄砲な事だと思ったが、小学校１年生から１５年間、毎日欠かさず日記を書いていたので、昔から書くのは大好きだ。大学もコミュニケーション学科卒業なのだから話だけでもしてみようと考えていた。すると話はすぐまとまり、取材のアサイメントを頂いたのだ。経験者ではないので無給ではあるが、とにかく何か書き始めてみたかった。初めてと言う事と私の教育という事で、取材には編集長も一緒に来て頂いた。字数や伝える内容を考慮しながら、人に読んでもらう文章でなくてはいけない。何度も試行錯誤を繰り返し、そして原稿を提出した。誤字の多さなどの耳の痛いアドバイスも貰ったが、発行日が来た。紙面をめくり、一文字、一文字読んだ。活字となり、世に出回ったのだ。大声をあげて叫びたかった。「やったー!! 記事が掲載されたー!!」取材先はレストランだったので、発行された雑誌を持って挨拶に行った。するとマネジャーが言った。「それ（雑誌）を持って女の子二人が食べに来てるよ。」見ると、本当に記事の切り抜きを手にした二人がテーブルに座っていた。聞くところによると、私が行った５分程前に来たばかりだという。話し掛けたかったのだが、それをぐっと堪えた。スクープは後からマネジャーに聞けばいい、そう思った。たまに二人の様子を肩越しに見ながらバーでアップル・マティーニを飲んだ。世界で一番美味しいカクテルの味がした。私の記事を見て食べに来てくれた人がいる事が本当に嬉しかった。アコーディオンの奏でるフレンチ音楽が流れ出した。グラスを飲み干して、ホロ酔い加減の私はバーを後にした。神様、ありがとう。

  Sep 8, 2004

• 夏の終わりに思う事

  ニューヨークの夏が終わった。 この一週間程、青い空は高く、空気も随分涼しくなっていた。特に何の予定もなく3日間のレーバーデーが過ぎて行った。家にいると自然にテレビをつけっぱなしにしている。私がよく見るのはNY１。30分毎にニュースを見る事が出来るからだ。社会ニュースに混じり、フロリダのハリケーン・フランシスの画像にはどうしても目が行ってしまった。入ってきた日本のニュースも台風や地震といった天災のニュースがとても気になった。地震は日本に住んでいた時大嫌いだった。少しでも揺れを感じると、所構わずに悲鳴を上げていた。中学の時は「気象庁に勤めたら？」とからかわれたりもした。嫌いだから何故地震が起こるのか知る為に、地学は一生懸命勉強した。だからアメリカへ住み始めてから地震のない生活がとても嬉しかった。シアトルに留学中、一度地震にあった。しかし日本の規模に比べるとそれ程でもなかったが、唯予想外の事だったので余計驚いたのを覚えている。カリフォルニアのサン・アンドレアス・フォルトは有名なので、地元の人達もシアトルに地震が来てもおかしくないのよ、と他人事のように言っていた。ニューヨークに住み始めて「地震」という言葉さえ忘れかけていた毎日だったが、一度地震があったのだ。最初、となりの若い男の子が部屋で暴れているのかと思ったが、地震の事はその日ニュースに出ていた。今回インターネットで調べてみると、アッパー・イーストサイド地震 2001年1月17日 マグニチュード ２．５と出ていた。なんと震源地はマンハッタンの１２５丁目！私の住んでるところからすぐ先ではないか！ネットで調べた地図にはもう二つの地震の記録が出ていた。 ジョージ・ワシントン橋地震 1989年1月1日 マグニチュード2.0 アーズリー（Ardsley) 地震 1985年10月19日 マグニチュード4.0驚いた事には、観測するには満たない地震が沢山ある事だった。ニューヨークのハドソン川沿いを車で走ったり、ジョージ・ワシントン・ブリッジを渡った事のある人はニュー・ジャージー側の崖に目が行くだろう。あまりにもシャープに奇麗に削られたようなのだ。だから昔、川を挟んだニュー・ジャージーとニュー・ヨーク側は繋がっていただろうと想像出来る。そして知る人ぞ知る、ラマポ・フォルトという約50マイル（約８０キロ）のフォルトがニュー・ジャージー州からニュー・ヨーク州にまたがって走っているのだ。カリフォルニアのサン・アンドレアス・フォルトは７００マイル（1,120キロ）と比べると規模は小さいのだが、１０億年前に出来たとても古いフォルトだ。２億年前までその活動があり、１９７０年代にまた活動し始めたという。そしてニューヨーク市に住むどの位の人が、そのラマポ・フォルトとハドソン川の交わったところ、ニューヨーク市からたった３５マイル（約５６キロ）の場所に、インディアン・ポイントという原子力発電所があるのを知っているだろうか。私はそれを今から１０年前に知った。選挙があっても、立候補の政治家がこの事について何か訴えたりしてるのを聞いた事がない。あったとしても、重要なアジェンダではないのだろうか、耳に入ってこない。唯一度だけ、９・１１の直後、テロに対して敏感だった時勢に数回、インディアン・ポイントの名を耳にした。万が一、インディアン・ポイントに事故があった場合、５０マイル平米（約８０キロ平米）に被害が出るだろうと予測されている。テロがここを狙ったら、９・１１どころではない。だが、はたしてテロだけだろうか。私は地震も大きな要因となると思う。アメリカ、特にニューヨークの建物は地震対策がされていない。インディアン・ポイントも耐震となると非常に不安だ。なら何故誰も何も言わないのだろう？９・１１以来、約５０のグループがインディアン・ポイント閉鎖に向けて活動し始めた。 Indian Point Safe Energy Coalition (IPSEC)というグループもその一つ。今年６月８日にグランド・セントラル駅にて呼びかけていたようだ。“Are you prepared?”とテロ対策の色段階を真似てコードピンク（女性のアクティビストが多かったようだ）と声高にポストカードを配っていたという。果たして、何人のひとがその急ぎ足を止め、耳を傾けたのだろうか。残念な事だが、街頭で行われる事に注意を払うニューヨーカーは少ないと思う。度重なる台風の日本上陸、各地での地震、美浜原発事故、どれもニューヨークにいるからと、遠くの人ごととは思えない事ばかりだ。どんな事があっても、夏が終わってニューヨークに秋が来る。

  Sep 7, 2004

• こんな人に誘われたことがある私。。。

  １） マジシャン： プライベート・パーティーの後にカードで遊んでるところをたまたま通りかかり、「トリック見たい？」と声をかけられた。ホロ酔い加減の私は「Sure」と言って40分ぐらいマジックを披露してもらった。短い時間で色々話がはずみ、電話番号交換したが、その後一度電話があったきり。トリックで自分を隠しちゃったのかなぁ。。。２） Divorce Lawyer （離婚専門弁護士）：バイトしてたお店に来たお客さん。クライアントらしき人と真剣に話し合っていたので、あまり邪魔しなかった。会合が終わって一度店を出たが、また戻って来て食事をした。「結婚してないから、（あなたの）サービス受けられないわね。」と私。「結婚はしない方がいいよ」と笑いながら語っていた。彼は若い時分一度離婚して、しばらくしてから再婚したという。私のコメディーやお芝居を見たいから連絡先をくれ、と言われたのでメールアドレスを渡した。家へ帰ると彼からメールが入っていた。“Would you like to go for a coffee or drink sometimes?”このオジサン2度離婚したって言ってないから、まだ既婚者!! 離婚率を上げてるのはあなた、オジサンですよ!３） 某セレブとデート：約10年続いたSitcomに出てくるキャラクターは彼がモデル。実際にこのSitcomのクリエーターがこの男性と同じ階に住んでいたお隣さんだったという。一度ラジオにゲスト出演した時知り合い、私のコメディーを観に来た。クラブのオーナーを始め、周りのコメディアン達は誰か知っていたので、皆好奇の目を向けていた。それを振り払ってクラブを出た。食事後、彼が彼が出たTVのテープやらを見せてくれるというので、彼のアパートへ行く事に。部屋中、彼自身のポスター、彼の出たビデオ、雑誌、新聞の切り抜きで一杯だった。そして、“So, what do you think?”“What?”“What do you think of us?”“You are old enough to be my parents. And you have a daughter of my age!”次の日母にこの事とを電話で話した。「彼がもっと格好良かったらねぇ。ママに紹介したのに。。。」なにせ彼は一晩中こう言っていた。“I’m very famous without success.”部屋中、自分で囲まれた男とは絶対付き合うのを辞めようとこの時強く思いました。・・・とリストは続きます。。。

  Sep 5, 2004

• 満月の夜に

  星に願いを、月に祈りを・・・今夜、満月の夜。ちょっと雲で隠れているが、月明かりで街は明るい。思いっきり月の光を体に浴びる。ムーン・ベージング、月光浴。月に支配される蟹座生まれなのか、エネルギーが湧いてくるようだった。先月７月はブルームーン。ひと月に２度満月が来る２度目の満月のことを意味するそうだ。３回前の満月は幸せ一杯にふたりで見上げていたことを想い出した。小さい頃、私はかぐや姫に憧れた。美しく育ち、年頃になり月の世界に帰っていくお姫様。宇宙人と聞けばついETを想像してしまうが、かぐや姫なら月星人と聞こえが良い。「わたしも地球の子になりたいわ。」 そんなお菓子の宣伝文句が昔あったが、かぐや姫もそう思ったのだろうか。かぐや姫の故郷、月は昔から私たちの生活に深く関わっている。女性の月の物。潮の満ち引き。興味深いところでは、ファウンディング・ファーザーと呼ばれたアメリカ独立記念執筆者のジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソン等は満月が人間に及ぼす影響を利用して、あえて満月の日に会合を持って知恵を出し合ったという。そんな事を考えながら月を眺めていた。「恋がしたい!」急に恋愛がしたくなった。一緒に大口開けて月のエネルギーを一緒にいっぱい吸ってくれる、そんな男性（ひと）に出会いたいと思った。本当ならば、月神ダイアナに敬して生まれたそのままの姿で月光浴をしたいのだが、ニューヨークという都会では無理なこと。ただでさえ、部屋に望遠鏡を置いている覗き魔がいるのではと毎日隣接の高層アパートを気にしてしまう。だから車を持っていて誰もいない山や丘へ満月の夜に連れて行ってくれる、そんな狼に私は出会いたい。現代のかぐや姫は虫がいいのだ。私はリンカーン・センターにある噴水が大好きだ。昔見た映画「月の輝く夜に」 （原題 Ｍｏｏｎ Ｓｔｒｕｃｋ）で恋人同士がオペラ鑑賞前にそこで待ち合わせをする。ドレスアップした二人が見惚れ合う。その場所だ。そして満月が大きくブルックリン橋の上を照らしていたのをおぼろげに覚えている。そのニューヨークに住んで約６年。噴水前のデートの約束もなし。私の恋はどれもこれも月の満ち欠けのようだ。膨らんでいく胸のトキメキはすぐに落胆と涙と共に消えてゆく。「ねぇ、お月様、いつまで続くの？」太陽の光を一杯に受けているお月様はいつでも笑顔でしか応えない。窓を開け、ブラインドも閉めずにベットに入った。月光が降り注ぎ優しく私を包んでくれた。「おやすみ」Wish upon a star... 星に願いを、月に祈りを・・・

  Aug 31, 2004

• お祭り好きのアメリカ人の心底

  今日から共和党大会が始まった。昨日、ブッシュ大統領より一足早くチェイニー副大統領がＮＹＣに来たが、それと同時に反ブッシュを唱えるＵｎｉｔｅｄ Ｆｏｒ Ｐｅａｃｅ Ａｎｄ Ｊｕｓｔｉｃｅ （ＵＦＰＡＪ） という団体がデモ行進を行った。本来はセントラル・パークでの集会を開催予定にしていたが、市の許可が下りず、共和党大会の会場となるマディソン・スクエアガーデン（通称ＭＳＧ）近辺からミッドタウンを"World Says No to the Bush Agenda” （世界はブッシュ政策にＮＯと言っている）と掲げて行進した。ＵＦＰＡＪは約500万人が行進したと発表 （ＮＹタイムスおよびＮＹＰＤによると、この半分位の参加者数で発表されている）、これはニューヨークの歴史にまれに見る大規模な政治的デモであったという。９・１１から長引くイラク戦争を経て、また最近公開されたマイケル・ムーアの「摂氏９１１」の影響もあってか、アメリカ国民の見解が政権と同じに二分されているのが伺われる。共和党大会や民主党大会はアメリカ国民にとっての大イベントのなのだろう。各地方からサポートに来たり、ロビーイスト達が集まってくる。自分の属する政派があってこそのパーティーなのだ。英語でもＲｅｐｕｂｌｉｃａｎ Ｐａｒｔｙ（共和党）、Ｄｅｍｏｃｒａｔｉｃ Ｐａｒｔｙ（民主党）と党をＰａｒｔｙと呼ぶのは偶然ではないかもしれない。ところで、デモに参加する人達を見ていると結構楽しい。兎に角、格好に気合が入っている。メッセージをプリントしたＴシャツやパロディの洋装を身に付けている等はとても普通。面白いなと思ったのは、共和党には金持ちが多い事から、恰もブラック・タイのパーティーに行く格好のドレスアップしてプラカードを持っての皮肉っているグループだ。様々なアイディアの発想には脱帽する。でもこれではまるでハロウィーン・パレードと同じではないか。普段では着る事のない衣装をまとい、パレードに参加する事によって、普段溜まっているエネルギーを発散させる。実際に最近のハロウィーンは子供より大人の方が楽しんでいるように窺がえる。それと同じに見えるのだ。勿論自分の意見を反映させたいが為に、参加するのだろうけれども。では民衆をここまでにさせる政治とは一体何なんだろう。今年一月、俳優アーノルド・シュワッツネガーがカリフォルニアの州知事になった時、彼の周りに一緒に映っり出されていた人達は彼の奥さんである、マリア・シュライバー（ジョン・Ｆ・ケネディー、ロバート・ケネディーの姪）の家族、民主党を代表するアメリカの大家族ケネディー家の人達だった。結局、民主党、共和党と言っても、政治家は根本的には同じなのだと誰かが言っていたのを思い出す。二分されているのは党ではなく、動かす人対それによって影響受ける市民、なのだろうか。デモに参加した人ならこう言葉を変えるのだろうか。戦争をすると決めた人対戦争行くことが決まり実際に戦争に行かねばならぬ市民。選挙権が有って、党派の登録さえすれば、11月2日の選挙に投票出来る。つまり自分の一票が大統領選挙に直接反映出来るのだ。だからこそ、奇抜な格好をしながらでもエネルギーを発散し、アメリカ国民として自覚を持って声を上げているのだろう。個人主義と言われるものの、国を捨てきた人やその子孫にとって、実はどこかで繋がっていたいのではないか。それが党派であれ、プロテストのグループであれ、同じ気がする。彼らの心底は個々の持つそれぞれの思い、つまりアメリカへの愛国心の現われなのではないだろうか。最近のＮＹＣは、反ブッシュのプロテストだけでなく組合契約の切れたＮＹＣの警察、消防隊、そして教師達が共和党大会の開催前に市長に訴えていた。また大会の開催されているＭＳＧでのＣＮＮの仕事がＣＮＮの連れてくる非組合員によって進められるようだとＮＹＣのメディアで働く組合員達が苦情を出していた等、とにかくいつもどこかで誰かが訴えている気がする。プロテストが或る程街中のエネルギーが動く。人が動く。そこがニューヨークの活力であり面白さであり魅力なのだ。さて次はどんなプロテストがあるのだろうか。

  Aug 30, 2004

• 夢、挫折、そして、、、

  Mid Life Crisis. 「中年の危機」とでも訳そうか。「オレの人生って、何？」と立ち止まって人生を振り返ってみる。がむしゃらに突っ走って生きて、気づくと４０歳。そんな中年が４０歳前後になってポルシェを衝動買いしたい、ハーレー・デイビットソンのバイクに乗りたい、刺青を入れたいなどの気持ちが掻き立てられるそうだ。今、その気持が痛いほどよくわかる。私はまだ３０代半ば。未婚の独身。キャリアがある訳でもなく、生きがいのある仕事をしている訳でもなく、経済的にも精神的・肉体的にも毎日精一杯生きていくのがやっと。「恋愛だけでも上手くいっていれば人生バラ色」と願う反面、長続きのしない恋愛の繰り返しに心身共にボロボロ。「どうしてこうなってしまったんだろう？」日本を出てアメリカはシアトルに留学したのが１５年前。夢と希望と未知の世界に胸を躍らせていた。アメリカに住むことは小さい頃からの夢。留学というきっかけを作り、もう二度と日本には住まないと心に決めての渡米だった。それが私の夢だった。留学中は勉強は勿論の事、よく遊び、そして恋に落ちた。愛し、愛されて、そして３年後に別れが来た。いくら愛し合っていても結婚という形で結ばれない運命の人がこの世に生きている。それが明るく生きて行こうとする私の小さな慰めだった。卒業してもアメリカに住むという夢を捨てたくない為に、日系企業に就職した。コミュニケーションを勉強したにも拘らず、就いた業種は経理。新しい事を学んでいく毎日が楽しかった。仕事で辛いことがあっても、頑張った。グリーン・カード（永住権）をサポートしてくれるという会社に転職、晴れてマンハッタンに住み始めた。会社がウォール街にあったこともあり、素敵な出会いにも憧れた。友達を作るきっかけとなるだろうとアクティングのクラスに行き始めた。大学でも演劇のクラスを取り脚本は読んだ事があったので楽しかった。友達も沢山出来た。クラスの終わった後、グリニッチ・ヴィレッジのカフェで仲間と演劇論を交わしながら、ここで今までどんなアーティスト達が熱論を交わしたのかと想いを馳せロマンを感じていた。１９９９年３月、大腸ガンで手術して数ヶ月経っていた父の容態が悪くなり、再入院した。もともと桜が見たくて帰国を予定していたが、父の容態が急変し一日早い帰国となった。既に母からは危ないかもしれないという連絡に機上の１６時間がとても長かった。そして気を紛らわすために読んでいた本は“神との対話”そこに生と死についての話が書いてあった。成田へ着き実家へ連絡しても誰も出ない。弟の携帯に電話すると母がでた。母は一言「駄目だった」と。一日、間に合わなかった。父は私がアパートを出た頃に他界していた。横浜へ向かうバスの中、涙が止まらなかった。父の死によって、人間の生と死というものについて私の人生観が変わった。機上で読んだ「神との対話」も偶然ではない、何かのメッセージのようにも感じられた。同年１２月末、念願の永住権獲得。タイムズ・スクェアの紙吹雪の中の大晦日、永住権を手にしながら新年を迎えた。「あ、これいつか見たヴィジョンだ！」夢は願い続ければ必ず叶うと聞く。私のアメリカへの思いが天に届いたような気がした。亡くなった父が私に言った言葉を思い出した。「オマエはアメリカと結婚したんだろう」「お父さん、アメリカは国よ、男性じゃないのよ、わかってる？」昼間は仕事、夜はリハーサルやアクティングのクラスという多忙ではあるが、新たな夢に向かって充実した毎日が続いていた。永住権を取得したことを機に、またオーディションの数が増えていく中、日本企業で働く事が厳しくなり、アメリカの出版社に就職した。そこでは上司の理解とまた同僚たちが多彩･多様な才能をもち、昼間は働きながらアニメを作ったり、副業で会社を持っていたりとそんな環境の中で私も夢を追い続けていた。そしてあの日。２００１年９月１１日。地下鉄を上がって行くと人だかりがしているので、「ロバート・デニーロでも映画の撮影をしているのかな」なんて暢気な事を思いながら、人だかりの側に行くと何を見ているのかが判った。ワールド・トレード・センターから煙が出ている。「何で火事になるのを防げなかったんだろう」まさか旅客機が特攻隊として突っ込んでいったなんて、知るよしも無かった。会社へ着くと皆がテレビに釘付けになっていた。私も無言で立ちすくみ、何が起こっているのか把握しようと必死だった。そうしているうちに２機目が突撃。私のいたビルの非常警報がなり、ビルの外に出された。私の勤め先は２０丁目と６番街の近くで、６番街からはツインタワーがよく見えた。車道に止まっている車のラジオが唯一の情報源だった。携帯電話で連絡を取り合う人々。多くの女性達の涙は止まらない。皆がモウモウと煙が上がるタワーを見つめていた。とその瞬間、崩れ落ちて行った。灰色の空がむき出しになった。私には何がなんだかもう判らなくなっていた。不思議なことに涙は出なかった。悔しかった。悲しかった。当時、具体的な名前は知らなくても、誰の仕業か解っていた。留学時代とてもよく付き合っていたのは中東からの留学生だった。彼らの透き通るような瞳を思い出した。よくアメリカ人は親切と言うが、私がアメリカでアメリカ人以上に親切にして貰った人達は中東からの留学生たち。彼らの事が脳裏を横切り胸が痛かった。この日を境にまた私の中で人間の生と死というものが変わった。「いつ死ぬかわからない」そんな場所、時代に生きているのを自覚した。そしてそこは内戦続く第三国でもなく、アメリカ、マイ・ホーム・スウィート・ホーム、ニュー･ヨーク。年が明けて喪に服していた街も人も次第に活気を戻して行った。しかし、半年後に勤めていた出版社は潰れ、私も職を失った。それから3年間、精神的にも経済的にも辛い時を過ごした。本当にどん底まで落ちた気がした。あれから３年経った今、ニューヨークは元に戻り、私は「また希望を持って頑張ろう」と自分に言い聞かせ、一生懸命敗這い上がろうとしている。でもあの日を経験したからでない虚脱感が私から去らない。２０代半ばから１０年経ても、本当の幸福感を感じていないように感じる。結婚願望があるのにいつまでも独身だからなのか、生活全てに満たされていないからなのか。コメディー（笑い）を極めようと思って頑張ってきたショー･ビジネスへの夢。あの日から本当の“笑い”でないと舞台に立っても“ウソだ！Easy　Laughを取って何になるんだ！心に染みる笑いじゃないじゃないか！”と心が叫び始め、だんだんに舞台から遠ざかってしまっている。「これが挫折か、、、」これを挫折と自分が認めるべきなのか。私はアメリカで生活している。アメリカは成功させる国。挫折者に容赦ない。しかし、何度挫折しても這い上ってくる不死鳥のような人達も多い。チャンスを与えてくれるからだ。ならば私にもまたチャンスが与えられるのだろうか。「求めよ、さらば与えん」その求める行為さえままならない毎日。新世界で再起出来るだろうか。早く自由の女神の微笑みが見たい、そうひたすら祈るだけである。夢、挫折、そして、、、私の人生はまだ長い。

  Aug 19, 2004

• トリニティー教会

  一通のメールがポストに入っていた。広告だったがそれは、ダウンタウンはウォール街に近いところにある、トリニティー教会からの墓地・霊園の案内だった。そんな案内がアメリカにもある事に驚いたが、日本ではお盆を直前の出来事だけに、多少ではあるが心が動揺した。トリニティー教会は私のニューヨーク生活にとってとても馴染みの深い教会である。ウォール街に勤務していた時、お昼休みはいつも通っていた。天気の良い日はビジネスマン達が墓地のベンチに座りランチを食べていた。日本の墓地と違いおどろおどろしていなく、だから私もその中に混じり、昼の一時を過ごしていた。トリニティー教会はニューヨークでも古い教会の一つで、200年前の古い墓碑が多かった。そして24歳、27歳程で若くして亡くなった人が多かったようだ。ランチを食べながらそんな人達がどんな生活をしていたのか、どんな人生を送っていたのかを思い浮かべていた。教会の中もミッドタウンにあるセント・パトリック教会と違い、それ程多くの観光客もいなく、ステンド・グラスがとても印象的な厳かな雰囲気があった。そんなトリニティー教会へも転職を機に行く事がなくなった。そしてあの日、2001年9月11日があった。ワールド・トレードセンターに近かったトリニティー教会もその被害にあった。半年以上後に訪れた時、墓石はまだ倒されたまま、黒く焦げたようになって墓石が読めなくなっているのも多かった。彼等が永眠についた時、200年後にこんな事起きるなんて誰が想像しただろうか。あの日以来、私は真のニューヨーカーとなった。ここが私のホーム・スウィート・ホーム。いつか骨を埋めるのなら、ここかもしれない。そんな思いが手にしたパンフレットを見ながら過ぎった。100年後、200年後、青い空の下で私と同じようにランチを広げながら想像する人があるだろうか。その時、平和な世の中であるようにと祈りたい。

  Aug 11, 2004

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