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カテゴリ:読書・小説 雑誌
伸一郎も、一人娘の真奈美が幸せになる事を望んでいた。しかし、源次郎と裕一の事を考えると、ライバル会社でもある、会長の息子と真奈美が交際している事に、腹立たしく思っていたが、真奈美の幸せを望んでいる自分は、どうしたものかと迷っていた。

伸一郎と律子は、交際している二人の事を話すたび、真奈美の幼い頃の事が、昨日の事の様に思えてならなかった。小学校へ入学する直前に、流行していた風邪にかかり、高熱で苦しんでいた真奈美を伸一郎は、真夜中に病院へ連れて行ったが、夜間診療の病院が見つからず、隣町の病院まで行き、やっとの思いで診察をしてもらった時の事や、小学校三年の時、学校の帰り道で、捨てられていた子猫を抱いて帰ってきたが、子猫を飼う事は許さなかった。

伸一郎と律子は、真奈美に気付かれないように、近くの公園に子猫を置き去りにした。しかし、子猫がいない事に気がついた真奈美は、泣きじゃくり、学校へは行かないと言って、部屋から出ようとしなかった。伸一郎と律子は、仕方なく公園に行き、子猫をつれて帰り、飼う事を許したのだった。

伸一郎の胸の内は、真奈美が好きになった男性が、裕一ではなく、他の男性であって欲しかったと思っていたのだった。
伸一郎は律子に「お母さんは笹山の息子をどう思う、私は笹山の息子の所へなど、嫁がせたくないのだが」と言った。律子は、伸一郎の弱気の一面を見た様に思えた。伸一郎に、「とても誠実で、思いやりのある人と思っているけど、真奈美が好きになるのは当然かもね」と律子は言った。

桜の蕾みも膨らみ、春の空は雲もなく、青空が広がっていた日曜日の朝、裕一と真奈美は宇都宮市に向かって車を走らせた。二人が知り合うきっかけとなった人物に会うためだった。
そもそも、裕一と真奈美が知り合ったきっかけは、裕一の会社が、新校舎の建て替え工事をしていたのである。建設中の現場に、この学校の校長である前島悟と真奈美が一緒に、現場の視察訪れた事で二人は知り合ったのだった。

それ以来、前島の口添えもあって、二人の交際が始まったのである。休日には、二人で前島が暮らしている宇都宮市まで、よく出かけて行った。真奈美が席を離れている時裕一は、真奈美の恩師でもある前島に、真奈美の事や両親の事について、話を聞いていた前島の話を聞いているうち、裕一は真奈美の事を、深く愛する様になっていた。

真奈美も、工事現場の人達に慕われている裕一の姿を見て、今まで以上に、裕一への愛が強くなっていた。
桜の花も風に吹かれて舞い散る頃、前島の家で過ごした後、戦場ヶ原へと、車を走らせた。
中禅寺湖を通り過ぎ、土産店の前にある駐車場に車を止めた。店の周りでは、観光で訪れた人々で賑わっていた。裕一は伸一郎と会う時期について悩んでいた。真奈美も同じ気持ちであった。

「真奈美さん、少し歩こうか。歩いているうちに、答えが出るかもしれないからね」と裕一は言った。裕一が止めている車の横に、グレー色の車が一台入り込んできた。その車には、倉田とその家族である。倉田も真奈美が戦場ヶ原に来ているとは思っていなかったのである。車の側で倉田は、土産店の中を見た。そこに、真奈美に良く似た女性がいる事に気付いた。しかし、人違いかも知れないと思っていた。

倉田も気になるのか、幾度となく女性を見ていた。裕一と真奈美は、答えの出ないまま車へと歩いた。その様子を見ていた倉田は、朝倉真奈美に間違いないと思い、声をかけた。
「朝、朝倉さん、やっぱり朝倉さんでしたか先ほどから、見ていたのですが、人違いかも知れないと思い、声をかける事が出来ませんでした」と言った。真奈美も驚いた様子で、倉田のほうを見た。裕一は倉田の事は知らなかったのである。

「真奈美さん、知り合いの方なの」と裕一が言った。「ええ、会社の上司なの」と真奈美が答えた。裕一と真奈美、そして、倉田と家族は歩み寄った。「倉田さん、今日は家族でお出かけですか?」と真奈美は言った。
「まぁね。休みの時くらいは、家族サービスをしないとね。家族に嫌われるからね」と倉田が言った。真奈美は倉田に、裕一を紹介した。

「初めまして、笹山裕一と言います」と倉田に言った。「倉田です。よろしく」と言った。倉田の家族も頭を下げていた。始めて会った裕一は、真奈美を見る倉田の様子に、倉田に対する敵意の様なものを感じたのだった。倉田も同じ思いであった。
裕一と真奈美の二人は、倉田たちと別れて後練馬にある真奈美の自宅まで車を走らせた。





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最終更新日  2008年06月15日 11時33分51秒
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