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忙しさに紛れて見そびれていたマティス展。母から「上京して見に行くけど」と誘われて、これ幸いと同行した。
アトリエのマティスがとても新鮮だった。彼が、ある時期創作の過程(プロセス)を写真におさめ、最終的な作品とともに公開していたことを、初めて知った。 彼の創作の流れに、本を書く作業を思い出した。まずは、対象をよく見て精緻に描写する。すべてはデッサンにつきる。そのあと、すこしずつフォルムを崩したり、イメージを足していく。その後、そぎ落として抽象化したあと、仕上げにデコレーションする。 1つの作品は、長い期間に渡って書かれる。最初は集中してまとまった時間をとり、少し間をおいて書き直し、さらにしばらく期間をとったあと、最後に仕上げをする。マティスの絵の独特の質感は、そうやって創られたものだったのだ。 私も、よく文章を「漬け物」にしておく。さっさと書いて終わる、ということがなかなかできず、時間がかかる。だから、ブログは正直いって苦手である。 私は論文や本を書いていると、絵を描いている気分になることがよくある。キャンバスに線を加え色を重ねる作業と、真っ白な原稿用紙に字を埋めていく作業の、どこがつながっていたのかようやく、すこし理解したような気がした。 後期になると、マティスは切り絵と素描へと絵画の2要素を分離して追求しはじめる。私は彼の切り絵が好きだが、母は素描が好きだという。対象から得た感性を、色と形から切りだすのか、線で切りだすのか。文章にも、さまざまな切り出し方があるはずだが、私にはまだやり方が見えていない。 絵を見に行ったはずなのに、私は結局自分の仕事のことを考えている。大画家の人生が、ほんのすこし身近に感じられるようになった、貴重な展覧会だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2004/11/27 12:39:40 AM
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