品田知美の空中庭園

３月の終わり、娘の小学校卒業記念に、二人で旅行に出ていた。新年度が始まるこの忙しい時期に、そんなことをしてバチがあたったのか、帰ってきてから体調を崩し、すっかりブログをごぶさたしてしまった。かかりつけの名医！の直感で早めに薬を飲むことができたおかげで、初回の講義には間に合ったけれど、明日予定していたフットサルの大会には出られず。欲張りはいけません、ということですね。
　じつは、ヨーロッパは数回訪れたことがあるのに、アメリカ旅行は初めてである。公共交通で気軽に移動しにくい土地柄イメージから、なかなか腰が重かったのだ。ようやく娘の卒業を口実に？ずっと会いに行きたかった友人宅を訪れるという念願をかなえるべく、西海岸のサンフランシスコ→ポートランド→シアトルへと縦断旅行を計画。たった１週間だったけど、濃密で暖かい時間を過ごすことができ、娘にはこれ以上は望めないプレゼントになったと心から思う。こんな親子の旅は、もう２度とないだろう。私の親としての、卒業記念旅行でもある。
　知識として理解しているアメリカの生活を、一つ一つ身体感覚で味わう。日常を社会学する私にとっては、すべてが仕事の一部でもある。やはり、思った以上にヨーロッパとの差異は大きかった。例えば店で食べ物を注文するときに、「選ぶ」ということの重みを感じる。まず、メニューの読み方がよくわからない。英語が、ではなくて何をどう選べばいいのかが理解しにくかった。モーニングセットを頼むだけでも、主食をパンケーキか、マフィンか、トーストか、、、選び、飲み物を２種類選び、卵と肉類の組み合わせ方を選び、さらにその料理法を選ぶ。これを全部英語でやりとりするだけで、朝から相当会話しなくてはならない。知人夫婦に連れて行ってもらって、解説してもらわなかったら、途方に暮れただろう。日本のように、セットメニューがいくつかある、というスタイルの有り難みを感じる。
　なんでも選ばなくてはいけない、というのは意外に疲れる。それに、選べるようで選べない、という面もある。組み合わせ方が多数にわたっていても、単品ごとの選択肢はせいぜい、数種類なのである。あくまでも、提示されたリストの中の自由。もっと違うものを食べたかったら、その専門の店に行かなくてはいけない。だからピザとパスタを出すイタリアン、よりはピザ専門の店が目立つ。ピザを買う時も、もちろんトッピング、大きさ、生地などを一つずつ選ぶ。（日本でも選べるけれど、おまかせも結構できる）
　そして、「郊外」。友人の家族はサンフランシスコ郊外のすばらしく環境のよいエリアに住んでいる。決して「大金持ちではない」という彼女の家の庭にはプールがある。付近の家もみな、十分に余裕のある敷地に１階建ての調和のとれた家が建ち並んでいる。アメリカの郊外と近代家族の深い結びつきは社会学でいつも語られてきた。日本にも郊外はある。でも、アメリカの郊外とはあまりにも似て非なるものだと感じてしまった。
　鉄道の移動には、やはりかなりの困難があった。まず、本数が一日一本しかない。駅まで公共交通でいけない！夜１０時発の夜行列車に乗るしかないので、心配した友人が車で駅まで送ってくれた。駅についたはいいが、４時間到着が遅れるという（おいおい、夜中だぞ）。なのにみんな辛抱強く待っている。幼い子をつれた家族連れ。わめいてる子もいない。そんな様子をみて、普段ならブツブツ文句の多い娘も、にこやかな笑みで過ごしている（これだけでも来た価値があったと思った）。数分と電車が遅れない日本になれている身には、強烈な体験である。結局、ポートランドについたのは予定より６時間遅れの、翌日夕方７時すぎ。さすがに疲れた客が、「これまでで一番遅れたんじゃないの？」と乗務員に聞いていたが、なんと「いえ、２日遅れたことがあるよ」と言ったのには感嘆した。雪が降る地区なので、閉じ込められるとそうなるらしい。（ああ、よかった、たった６時間で。）とにかく長い長い列車の旅だったが、たくさんの人との出会いがあり、ゆったりとレストランでおしゃべりし、美しい景色を堪能できてよかった。
　書くことがたくさんありすぎるので、きょうはもうおしまいにします。そろそろ、春のガーデン写真をとらなくちゃ。