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友人に誘われて久しぶりに演劇を見た。一人語りと聞いていたので、うーん、地味かもしれないなと想像していた。ところがたった一人の俳優の語りに、あまりにも深く劇に惹きつけられたから驚いている。
伊藤大の演出は20年前から時々見ているが、今回の劇が一番印象に残った。もともと2人劇のシナリオをさらにきりつめた1人劇。あらゆるものをそぎ落としたシンプルな劇は、聞き手にも集中と想像力を要求する。それが意外にも心地よい。全く飽きさせることなく聴衆を語りに引き込む。こんなにたくさんの言葉を一人で背負ってしまえる俳優、野沢由香里の稀有な能力にも恐れ入った。新潟出身の彼女の広島弁は地元の人にはどう聞こえるのだろう?私にはとても巧く話しているように聞こえたけれど、そこは素人だからわからない点。ともかく、確かな芸のある人なのは間違いない。目の前で職人芸を見せてもらった清々しさで、久しぶりに至福の時を過ごした。 学生時代は演劇によく足を運んでいた。下北沢に住んでいたこともあって小劇場にとっぷりと浸かっていた時代。言葉と身体動作のどちらに比重を置くか。どちらかといえば、当時は身体動作の方に魅力を感じていた気がする。でも、私が言葉へと望みを託す仕事についたこともあるのだろう。あらためて、ひたすら語る演劇のスゴさに自分の思考の軌跡を重ねてしまう。伊藤大は、はっきりと言葉を選ぶと宣言するためにこの劇を演出したのだろうか。 言葉が軽んじられる時代が続いている。講義でも、わかりやすいこと、ビジュアルにうったえることが期待される。10年くらい大学で教えてきて、本当にこれがめざすべき方向なのか?といまさらのように疑問を抱いている。ちょうどゆらぎつつある心に、この一人劇がうったえかけてきた。やはり映像ではなく、言葉で伝えていく可能性をあきらめてはいけないのではないか、と。こんな劇を見たいと思う若い世代を育てたいものである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/04/30 12:52:14 AM
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