能楽シテ方喜多流を引っ張る香川さんと塩津さんとの会「二人の会」があった。今回は香川さんが「卒都婆小町」、そして塩津さんが「実朝」。
恥ずかしながら、喜多流の「卒都婆小町」(というか老女物)は初めての鑑賞。質実剛健な喜多流らしい、抑えめだけれども渋い地謡だった。予想以上に素晴らしかったのが、おシテさんで、この老女の小町の気品はなかなか。前にも書いているように、小町落魄とか小町驕慢という伝説そのものが非常に男性的で好きではないのだけれども、今回の小町老女は良かった。
さて、もう1つの「実朝」は土岐善麿作の新作能であるけれども、ここの流儀で通常の能のように扱われる作品で、時々上演される。実朝の歌を下地に前シテ尉、後シテ実朝の霊という「融」系のパタンで展開する。
舞台は由比ヶ浜、後シテの出が「箱根路をわが越えくれば……」だったり、荒磯の印象が鎌倉の海とは合わなかったりするけれども、実朝の歌を随所に盛り込んで上手く作られている作品だと思う。
万葉風の歌が多いところも昭和25年作らしいところだろうか。藤原定家所伝本の『金槐集』だと万葉風の歌は少ないけれども、“実朝=万葉集をふまえた歌人”を強く感じる。
それはさておき、「融」系であるこの「実朝」も私は例によって泣いてしまう。[早舞]の後半はすっかりハンカチオヤヂであった。お囃子方さんも良かったし、地謡がもう少し良かったら、磯のとどろきが聞えたことだろう。
喜多流といえば「鱗形」を観たことがない。近いところでは職分会の自主公演でかかったと思うが、機会を逃している。私的には是非とも観たい1曲である。
……その後、確認してみたのだが、勘違いだったようだ。現行では金剛流に残っているらしい。何年か前の年間公演番組にあった気がしたのだが、今手元に残っているものにはなく、金剛流のほうでもわからない。幻覚か?
余談だが、塩津さんの公演でご一緒になることの多いK先生と帰り道で一緒になり、代々木まで話すことができた。和歌文の例会をさぼり気味の私が実朝の話を共にできる幸せな時間となった。