少年に与ふ
高村光太郎
この小父さんはぶきようで
少年の声いろがまづいから、
うまい文句やかはゆい唄で
みんなをうれしがらせるわけにはゆかない。
そこでお説教を一つやると為よう。
みんな集まつてほん気できけよ。
まづ第一に毎朝起きたら
あの高い天を見たまへ。
お天気なら太陽、雨なら雲のゐる処だ。
あそこがみんなの命のもとだ。
いつでもみんなを見てゐてくれるお先祖さまだ。
あの天のやうに行動する、
これがそもそも第一課だ。
えらい人や名高い人にならうとは決してするな。
持つて生まれたものを深くさぐつて強く引き出す人になるんだ。
天からうけたものを天にむくいる人になるんだ。
それが自然と此の世の役に立つ。
窓の前のバラの新芽を吹いてる風が、
ほら、小父さんの言う通りだといつてゐる。