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カテゴリ:読書
『蜂の巣にキス』
著者 ジョナサン・キャロル 訳 浅羽莢子 創元推理文庫 これ娘出産前に購入して読んだんだよねぇ~。6月頃だったんじゃないかな? 去年読んだ本の感想が全然アップできてないので、今頃ですが(爆)。 ホラーというよりファンタジィなのに大変に残酷な『死者の書』に大衝撃を受け(なんたって!まさかそれはないでしょうという悲惨さが忘れられないよぉ)、翻訳された作品ほとんどを読み漁ったキャロルですが、何分にも寡作な作家さんゆえ、最近は全く新刊が刊行されず、私も半分忘れかけておりました。 解説の豊崎女史によりますと、なんと9年ぶりなのだそうですよ。 そこへ登場したこの作品。なんと。ファンタジィじゃなーい! はい、解説者と同様、ほの暗いおとぎ話を想像していた私も裏切られました。 きわめてまっとうなミステリなんですもん。 しかしながらそこは魅力的な人物描写の手練れたるキャロル。 スランプに陥った主人公の作家が、自分が少年時代に出くわした事件を元にして新しい小説を書こうと故郷に帰り、昔仲間や取材相手を通して自分の人生を振り帰る、その描写はうまいですよ~。 人の心に巣くう、もやもやした苛立ちや不安を言葉にして伝えるのが本当に上手な作家さんだと思うなぁ。 相変わらず人間の心理描写や魅力的なキャラクターづくりはお見事です。 くすんだ町に暮らしていた、一際不良で才気煥発で美貌で人の目を惹く少女ポーリン。 男子生徒みんなの憧れだった彼女が水死体で発見された。 その発見者が当時15歳だった主人公サムだった。 長じて作家となり、スランプに陥ったサムは故郷に帰り、ポーリンの死の真相をさぐる。 犯人として逮捕されたポーリンの恋人は自白しないまま、獄中で首吊り自殺する。 彼の父親は、真犯人を探して息子の汚名をそそいでほしいとサムに語る。 彼が取材を重ねるに連れ、新たな殺人が。 すべてが明らかとなる結末で、主人公は泣く。殺された全ての者たちのために。 そして同じく真相を知った犯人は咆哮する。ただ一人の愛した者のために。 ・・・独身の頃読んだらわからなかったろうな。 今ならば、犯人の咆哮が理解できます。 犯人のゆがんでいるようにみえて、実はまっすぐに対象に向かっていた愛情が。 ミステリであってもキャロルはキャロルで、私的には大満足ですが、ミステリとしては大きなトリックとかが無いので印象に残りにくいのではないかな・・・ともかく、人物描写と人生の欲望のはかなさが身にしみる作品です。 キャロルの読後感って、実に残酷なんだけど、どこか人間に対する希望が湧いてくるという、二律背反した気分にさせられるんですよね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.16 01:37:30
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