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カテゴリ:読書
『重力ピエロ』
著者 伊坂幸太郎 発行 新潮文庫 えーっとこれも去年の出産前、8月に読了したものの感想です・・・全然最近読んだ本ちゃうやんけ(苦笑)。 さて、私にとっては『陽気なギャングが地球を回す』『ラッシュライフ』『オーデュボンの祈り』に続く、伊坂作品4冊め。 この人の小説はどれをとっても傾向が違っていて、それぞれに凝っていて読み応えがある。 さて、とりわけこの作品はいきなりテーマが重い。 高校のクラスメートが女子生徒を輪姦しかけてる現場にバットで殴りこみ、鮮やかにやっつけてしまう主人公の弟、春。 彼が性犯罪を憎むのは、彼自身が母親が強姦魔にレイプされて生まれてきたという事実があるからだった。 誰もが振り返るような美貌の持ち主で、非凡な絵の才能を持ち、自分自身のルールを確立している特別な青年。 その春の出生をそのまま受け入れ、自分の息子として育てた、平凡にして非凡なる父親。 このお父さんがすばらしい! 私は結構昔の名作文学が好きだったりするのだけども(そんなに数読んでて詳しいわけではありませんが:汗)、道徳というものが揺るぎ無く存在していた時代、品性と徳目を体現した登場人物が出てくるからだ。 主人公のお父さんはまさに、そのごくごく平凡に生活してきていながらも、人生の意味、人の生きることの意味をしっかりとわきまえている傑物なのでございます。 彼の存在によって支えられ、救われている妻と子供たち。 その態度、語る言葉は本当に見事です。 しかし、犯罪を憎みながらその犯罪が行われなければ自分は産まれて来なかったのだという事実にもがき苦しみ続ける春。 そんな弟を救いたいと願えど、遺伝子に携わる仕事に就き、弟の異常性を心のどこかで疑ってしまう主人公。 その二人が連続放火事件の犯人探しに乗り出し、やがてそれが春の本当の父親との対決につながってゆく。 このあたりの物語の運び方は巧い!お見事!とうなるしかありません。 自己肯定ができない不安定さゆえに、兄の真似ばかりしていた春。 自分が重要な行動を取る時には、いつも兄を巻き込んでいた春のつらさと可愛さ、その全てを知って全てを受け入れる父親。 「俺たちは最強の家族だ」という台詞がたまらなく胸に突き刺さる。 罪と罰、そのバランスを真っ向から問い詰める作品だった。 いやー、こんなに重苦しい設定の物語を、軽薄に流れず、かくも納得の行く形でまとめあげつつ、こんなに素晴らしい希望をもたらせるなんてやっぱり伊坂幸太郎はすごい!!いやいや、もんのすごい!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.01.26 01:28:42
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