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カテゴリ:読書
『エンジェルエンジェルエンジェル』
著者 梨木香歩 発行 新潮文庫 これまた娘出産時の入院中に読んだものです。 患者や家族用の病院の図書室で借りました。 優等生の少女が自我の確立に悩み、熱帯魚の飼育を熱望する。 カフェイン中毒、そして宗教への傾倒、それらは彼女を自己嫌悪から救う手段であるが、それらに中毒するよりも熱帯魚の方が安全だと彼女は思った。 少女は最近同居を始めた祖母の夜中の排泄の介護を引き受けて、熱帯魚飼育の許可を親から得る。 ところが彼女が魚を飼い始めると、痴呆でぼんやりしていた祖母が少女時代に戻り、姉妹のような「さわちゃん」「コウちゃん」と呼び合う関係が夜中の二人に結ばれていく。 ヒロインと祖母の少女時代の回想が交互に綴られ、からくりめいた仕立ての物語だが、善に対する悪が、その悪に対する人の気持ちがあからさまにぬっと作中に突出していて、いかにも梨木作品らしい。 祖母の、ネオンテトラを食べてしまうエンゼルフィッシュへの憎しみ。 普通の小説ならば、この最後に生き残ったエンゼルフィッシュの話は、この世の食物連鎖の寓意に済ませてしまいそうだが、ごりごりとエンゼルフィッシュを悪魔扱いする倫理観。 祖母が少女時代に感じた、思春期特有の他者への一方的な憧憬が裏返しになった強い憎しみの描写は鮮烈で、かつ、その感情を単に心のゆらぎとみなすのではなく、あくまでも魂の高低の問題として描かれている。 一見、情緒的少女小説風味でありながら、ガリゴリ硬派。 この作家さんはそういう論理的思考で物語を紡ぐ人なんだなぁ。 私は主語を省略しちゃうあいまい日本人なので、ちょっとついていけなかったり。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.08.24 03:37:49
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