今日のヘンな人

　誰のことでも「あの人は良い人」と言う女性って結構いるように思う。周囲に嫌われている人のことでも「良い人」と言うことによって、「あんな人のことまで良い人って言える私は何て、心の広い優しい人なんでしょう」と自己陶酔しているか、さもなければ、周りが「良い人って言える彼女は--中略--人なんだろう」と思うだろうと思っているではないだろうか。

　実際、私の身の回りには、その系統の友人が多く、何故かみな、キリスト教徒である。宗教教育かなんかの成果なのであろうか？

　イギリス人の父と中国人の母を持つ友人Aも、「誰でも良い人」系だ。しかし彼女はお父さんが大金持ち、自分も超エリートコースを歩み、婚約者は大富豪の息子、という環境（しかも美貌である）。私も含め、周囲は皆「あれだけ恵まれてれば、誰だって寛大になれるよね」と、彼女の優しさに対する評価は、あまり高くなかった。

　妬みもあったと思うが、軒並みそういう反応を示すところを見ると、A自身にも何か問題があって、嫌なオーラのようなものが出ていたのかもしれない。ところが一人だけ、彼女のことを「Aは本当に天使のような人だわ」と高く評価している友人がいた。中国系のBである。

　彼女も、出会う人出会う人、みな親切で素晴らしい、優しい人ばかり、という（風に主張する）人だったので、Aに対する評価も当然だった。が、私の知っている限り女性全員が、Aに対して「ケッ」という感情を持っていた中、Aの美点を賛美するBは、ちょっと素敵だった。私も一時期、「この人は本当に良い人なのかもしれないなぁ」と良い方に誤解したものだ。

　ところがある日のこと、Bに中国の家庭料理の作り方を教わっている時、私はBの本音を知ってしまった。炒め物を作る彼女の横で、メモなんぞを取っていた私は、アメリカ系の留学生（女性）が、中華街で難儀した、という話をしたのが切っ掛けだ。

　その留学生は、中華街のレストランで、中国語で話しかけられたのだが、もとより中国語なぞ知らなかった。ところが一緒に同行していたイギリス人の男性が中国語に精通していたので、彼の方が受け答えをした。するとお店の人は更に「この男性の中国語は素晴らしい！　オマエが教えたのか」と更なるダメ押しをした、と言うのである。

　私も良く、中国人から中国人として扱われるが、その日米ハーフは、非常にエキゾチックな顔立ちをしていた。私の感覚で言うと、どうして中国人と誤解されるのか分からない。たとえば、純粋な中国人だったら、日本人かな？と間違うことは十分にあるが、中国とアメリカのハーフで、彫りの深い洋風の容貌をしている人を、「あ、日本人だ」と思うことは、あんまり無いのではないだろうか？

　その疑問を口にすると、Bは吐き捨てるように言った。「あの子（日米ハーフ）みたいな顔って、中国では珍しくないのよ。西洋の男が生ませた子どもは、みんなあんな顔立ちだもの」

　その豆知識にはなるほどと思ったが、彼女らしからぬ冷たい物言いには、ちょっとした衝撃を受けた。彼女はその日米ハーフと特に利害関係はなく、顔を知っているという程度の仲だった。冷ややかで悪意を感じさせる彼女の態度は、「ああいう顔」に対して向けられているとしか思えなかった。

　もしかしてBは、Aのことを嫌っているのかもしれない……　私はふと、そんな風に感じたのだが、3ヶ月ほどして、その考えが正しかったことを知った。何とBはAの婚約者を奪って、さっさと結婚してしまったのだ。

　以来、私は誰のことでも「良い人」と言ってみせる女性を、一切信用していない。