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テーマ:株式投資日記(20541)
カテゴリ:コーポレートガバナンス
つ、ついにスティール・パートナーズ(ST)が掲げた株主案が功を奏しました、
といっても米国のことです。スティールがどのように米国でアクティビズムを成功させるのか事例研究をしましょう。 3月31日、Rowan Companies(NYSE:RDC、以下「RDC」)は、取締役会がRDCの完全子会社であるLeTourneau Technologies(LTI)の株式を現金化する、ということを発表した。 RDCは子会社LTIをめぐって、以前からRDCの株式9.1%を保有する大株主であったSTから売却を即されており、この株主総会で3名の役員を送り込むとの株主提案を受けていた。
STとRDCの間における、LTI売却の話は、この1月8日にさかのぼります。 STは突然、株主提案として、代表者であるリヒテンシュタイン氏を始め計3名の取締役を次期株主総会に提案してきました。STは自ら推薦する取締役がボードメンバーに参加することにより、「企業の本質的な価値を解き放つ(unlockと表現)戦略を推進してく」と述べ、LTI売却の理由を「RDCは掘削請負と掘削器具等の製造業の両方を営んでいる。しかし、市場では正確な評価を得ておらず、コングロマリット・ディスカウントとなっているからだ」とリヒテンシュタイン代表はコメントした。 RDC 「Rowan Companies」 について テキサス州ヒューストンに本社がある、海底油田の掘削請負(Drilling Service) および掘削、採掘、伐採器具の製造業も営む。07年12月期の業績は売上高約2.1億ドル(約2100億円)、純利益432百万ドル(同430億円)の好業績で、過去最高益を更新している。 掘削請負はメキシコ湾、北海、中東等の油田地帯から均等な売上シェアがあり、最近も大型プロジェクトを次々と受注し、資源バブルに乗っかっているといえる。 時価総額は3月末時点でおおよそ46.8億ドル(4700億円程度)です。
RDC側は1月8日時点では以下のようなコメントを発していた。 製造事業はコア事業の一つであり、将来の掘削請負の受注の際には競合他社との戦略的な差別化要素となる重要な事業である。 しかし、我々は常にSTを含むいかなる株主ともオープンかつ建設的な対話をする準備がある。我々は引き続きSTと事業計画の対話を続ける。我々はより高い業績と長期的な株主価値を守るたっめなら、いかなる措置に対しても準備がある。
一方、地元の産業アナリストは「議論の余地がある。製造業と請負事業は一緒のほうが別々より良いと思う。既に市場ではRDCをメーカーではなく油田サービス業として評価しているし、実際利益の90%は請け負い事業から来ている」 と意見を述べた。
その後、経過情報が乏しく、把握できていません。3月31日になって、売却のアナウンスがあったというわけです。
STとRDCの主な合意事項は以下の通りでした。 ・STが1月に提案した役員選任案を撤回する。その他の会社側議案に同意する。 ・2008年12月31日までにLTIはスピンオフ、全株売却、連結外となるまでの株式売却、他社との合併などを通じて現金化すること。 ・売却代金でもって、最大限4億ドル(400億円)で大規模な自社株買いを行う。 ・合意期日までに売却できなかった場合は、STから役員を送り込む。 ・本件議案の議論や同意に至った合理的な経費につき10万ドル(1000万円)を超えない範囲でSTに補償すること、などであった。
要するにSTさんのRDC社に対する主張は視覚化するとこんな感じです。 RDC2007年12月決算(単位:百万ドル) 好調な決算です。05年度から売上高倍増、純利益も2.1倍増となっています。 しかし、売上高では08年度で3分の1の製造業部門が営業利益(Total Operating income)のうち、10%に満たないという結果になっています。この間、製造事業の営業利益率も大幅改善され10%近くありますが、それでもなお掘削事業の営業利益率(約48%!!)にはるかに及びません。 営業利益の推移 掘削事業と製造事業の営業利益の内訳推移 で、ここからが大事なのですが、株価パフォーマンスがどうなのかということですが、 これはいみじくもRDCのアニュアルレポートから抜粋したものを見やすくしました。RDCがS&P500銘柄指数とほとんど同じ動きなのに対し、ダウジョーンズの米国油田器具サービス業平均を大きく下回るパフォーマンスで推移しています。リヒテンシュタイン氏の 「攻撃材料」 の根幹となっているところです。
石油業界の今後を「まだまだ需要が伸びる」と見るか、「今がピーク」 と見るかで違ってきそうですが、日本で同じようなことが起こった場合(提案そのものは十分ありますね。中には既にSTにダメ出しされている企業もある)、どういった対処がありうるのでしょうか? 大規模な記念配当や自社株買いを提案されているスティール銘柄企業もありましょう。
個人的には、製造事業も足を引っ張っているわけでもなく、十分な利益水準にあると思うのですが、米国でも世界でも先進国では製造よりもメンテナンス・エンジニアリング等のサービス業に軸足が移る傾向にあるのは事実です。 経済産業省の「高級官僚」がある講演でみずから名指しで「エクセレントカンパニー」とした、GEは原子力発電のメンテナンスで大きな収益を上げていますし、同じくIBMなんてパソコン製造事業を中国のレノボに売却してソリューションに資源を集中しています。したがって、「高級官僚」のお墨付きである企業も製造からエンジニアリング系、サービス系に軸足を動かしていますから、そういった選択をもってしても後ろ指を差される心配がないはずです(理論的には)。 一方、「技術の国、ものづくりの国ニッポン」、というお題目もあるのも事実で、簡単に売却というわけにもいかない、というのが現状かもしれません(このお題目も経産省管轄じゃなかったかな?)。連続赤字事業であればいざ知らず(それでも事業継続するビール屋さんもありますが)、十分な黒字事業です。 仮に、まだまだ原油ニーズが向上する、すなわち市場規模が拡大する、ということになれば売却して請負事業に集中したほうがよいかもしれません。要するに事業リスクが小さいと判断できます。 趨勢では資源ナショナリズムで、油田の国営化などで欧米メジャーが礼儀知らずな産油国(例:ロシアやベネズエラ)から追放され、そういった国は自国技術では今後、かならず壁にぶち当たるため、RDCのような企業の力を必要とすると見るのが妥当でしょう。 製造事業が正当化されるのは、資源ブームが逆転した場合のリスクヘッジということになりましょうか。 もっとも、掘削に関連したものづくりですので、掘削技術の向上に欠かせないという見方も出来るかもしれません(売却後、それこそ持ち合い等で事業提携すれば補完できそうな気がするが)。
先日、あのモトローラが携帯ピッチ事業を分社化して完全別会社化すると発表し、それを担保するために、あのカール・アイカーン率いるアクティビストファンドから役員を受け入れると発表しました。この場合はモトローラの携帯事業が赤字でシェアも下落の落ち目事業だったのですが、このケースは意外ですね。 今後の長期的なRDCの業績や株価の推移がGood Luckとなることしか答えがありませんね(ただし、多くの外資&日系のコンサルティングファームでは、こういった大胆な事業の選択と集中を 「戦略」 と呼んでいます)。 日本の世論では感情論が巻き起こるか、勘定論が議論されるか、今現在はカンジョウ論?(あえて意見をぼかしておきます)。取締役の方は善管注意義務と株主への忠実義務を良く考えて決断ましょう。「誰が言ったか」、ではなく「何を言ったか」ですね。もっとも米国でもアクティビストを嫌う感情論はたくさんあります。 RDCの場合、どういう意思決定プロセスがあったのかがわかりませんでしたが、同社CEOは 「LTIの業績も過去最高で推移している今こそが、LTIの価値を具現化し、RDCの株主に還元すべき時期だ」 とのコメントを発しました。
ただし、時価総額の1割近い自社株買いはグリーンメーリングといわれるのかな?(ちょっと素朴に疑問)
コングロマリット・ディスカウントというのは、ざっくり言うと、ある会社が複数事業を保有しているため、株式市場では、何に成長ドライバーを置いてよいのか不明となり、割安に放置されてしまうような状態を言う。投資家(特に機関投資家)の意見としては、「自分たち自身が分散投資しているので、企業が事業ポートフォリオを分散する必要がない」(詳細拙ブログ 「アメとムチの機関投資家 英国年金運用会社 ハーミーズ について」07年9月8日をご参照) という意見が多そうです(だからコングロマリット・ディスカウントが発生するのでしょう)。 他にももっと興味深い事例があるのですが、お知りになりたい方はご協力ください。少し時間かかりますがエントリーいたします。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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