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テーマ:株式投資日記(20537)
カテゴリ:コーポレートガバナンス
日本板硝子、社長に英ピルキントン出身、大が小を呑み返す?(日経産業、4月24日) Pilks welcomes reverse takeover of corporate Japan (FT.com 4月23日) 題名だけ見るとなにやら、怪しげなイメージが沸いてきます。日経新聞社とFTはほぼ同様な見出しで読者を誘っています。 実際の日本板硝子(Nippon Sheet Glass:NSG)の次期株主総会で提案される取締役候補は以下のとおりです。委員会設置会社へ移行するようです。
NSG HPより 英国人らしき名の者が12人中5名、5名のうち4名が執行役であり、CEOは話題のチェンバース氏、GFD(多分CFO)、AUTO事業は当社中核事業の自動車向け板ガラス部門、BP部門は建築材料(ビルディングプロダクツ)、機能性ガラスはIT、AV系へのガラスと考えられます。 07年度予想売上高約8000億円のうち、BPが4000億円、自動車が3200億円となっているため、その事業のトップが上記のとおりとなります。 実務におけるトップがピルキントン主導で行われると予想されるのは外部のものであれば、自然な感想でしょう。 ただし、指名委員会(役員人事権)議長を依然出原氏、報酬委員会、監査委員会も日本人が握っているので、実務はピルキントン、経営はNSGと一応は解釈が出来そうです。
チェンバース氏の会見に対する日英報道
買収されたピルキントンが経営を実質支配するという見方を否定した。 「私は自身をピルキントンの人間とは思っておらず、二年間NSGの役員として仕事をしてきた。NSGの取締役として我々は株主や顧客に奉仕する」 Q:従業員に戸惑いはないのか A:「正直言って複雑だ。心配、不安もある。国内事業が中心だったNSGの従業員にも、世界展開で先行していたピルキントン側にも今後の会社の方向性などへの不安がある。これをどう和らげるかが経営陣の重要なことだ」 「買収により、NSG出身者にも世界各地で活躍する機会が広がった。国内の工場長がグループ全体の生産責任者になるなど日本人が世界規模の事業を統括する地位に就くことができる」 以上、日経新聞4月24日朝刊
チェンバース氏は通常の日本企業とは違い、もっと株主寄りの経営(Shareholder-centred)を目指すと語った。 「西洋では経営者のエネルギーの50%は株主に注がれている。私の感覚では、多くの日本企業の経営者はエネルギーのかなりの部分が顧客に注がれている、いくらかは従業員にも注がれている、そして株主にはそれほど多く注がれていない、という印象がある。私は、株主、顧客、従業員にそれぞれ3分の1ずつ割くべきだと信じている。」 以上、FT.Com 4月23日
チェンバース氏のプロフィールには、「I'm a Tokyo boy now」というコメントが紹介され、東京にマンションを買って、年の半分を過ごすということが記載されている。 さらに彼は、英国籍を保有するが、ブルネイで生まれ16歳までそこで育ち、大学卒業後、ロイヤルダッチシェルで10年間、スナックメーカーで10年間働き、当時経営再建中のピルキントンに96年に入社、02年にピルキントン社長となる。 NSGがピルキントンに買収提案した05年11月には、2度買収オファーが低すぎるといってNSGの提案を拒否し、当時の日本の新聞では「条件吊り上げ」と紹介されていた。 NSG買収後もピルキントン社長にとどまり、逆にNSGの社外取締役に就任、その後NSGの自動車・建築ガラス部門の統括、NSGのCOOを経てNSGの社長となった。つまり、今回の人事は外部から見ると実力で勝ち得た人事と写る。NSGの役員としても存在感が強かったのであろう。様々な経験をつんでいる。 一方、チェンバース氏はピルキントンの生え抜きでもなく、3社目の企業でトップに上り詰めているので、一定のバランス感覚があると見るべきだろう。新聞コメントもそれなりに素直なコメントに読める。
日本板硝子 ピルキントンこれまでの経緯
NSGとPilksは、日経テレコンでわかる範囲では、
少し残念なのは、次の2点。 早期退職制度の導入理由が、「ピルキントン社買収により膨らんだ借入金の削減を目的としており、営業キャッシュフローの拡大をはかるため、利益率が低い日本での収益力改善を優先的に取り組むこととし、今回この「優遇措置」を実施することといたしました。」という点と、 買収前のPilksはEUから価格カルテルの疑惑がもたれており、想定される制裁金に対し、800億円を引き当てたとのことです。これは買収前からNSG側はある程度、その可能性を認識していたとのことであるが、Pilksの営業地盤を考えると、リターンがより大きいと判断したとの事で、買収価格に織り込んでいたと見るべきでしょうが、 かなり無理して買収したのに・・・。
印象的な藤本社長のコメント 「買収しなかったら、まあ、つぶれはしないでしょうが、成長など見込めないつまらない会社になっていたと思います」 「はっきりしているのは、現時点で我々が世界24カ国に工場を持つピルキントンをすべてコントロールするのは難しいだろうということです。当社にはそこまでの人材がそろっていません。だから一定期間はピルキントンの経営陣に任せることも必要なのです」 (06/10/2 日経ビジネス インタビュー) 日本側にどちらが買収したのかわからないという不満が出るのは当然な気がする反面、必然的な気もします。
今回の人事は珍しいというのが素直な見方でしょうが、 米国Citiグループのプリンス前CEOは結局解任されました。彼は旧トラベラーズグループ出身で、シティ合併で主導したサンディ・ワイル氏の側近でした。現CEOはまったくCitiと関係のなかったモルガンスタンレー出身者でパンデットというインド人です。 JPモルガンチェースのダイモンCEOはシティコープ出身ですが、そこからバンクワンに転出、JPMがバンクワンの買収後、買収した方のJPMのCEOに就任しています。 豪州メルボルン本社のBHPビリトンのクリッパーズCEOも、BHPビリトンでは、南ア生まれで買収されたビリトン社出身です。 国籍や前任に関係なく、トップに上り詰めている方で当ブログが紹介した海外企業だけでもこれだけあったんですね。 やや硬直的な旭硝子よりも楽しみな会社になりそうと個人的には感じています。
23日がチェンバース社長候補の発表があったのですが、その後の市場は好感しているようです(注:ただし、主戦の欧州経済の不透明感が強いので先行きは楽観していないとのこと。投資の際には各自でよく判断してください)。
当面はピルキントン主導と見られても仕方ない側面がありますが、将来もNSG側に不利なことはなく、藤本社長が言うよう、将来性のある会社になったと客観的にも思えますし、日本企業での実務が世界に通用することは他の日本企業を見ても思いますので、若い人はぜひチャンスと捉えて欲しいと思います。特にチェンバース氏はNSGの生産管理体制や品質を絶賛しています。 仕事の進め方(管理方法や営業方針等)がピルキントン主導で変わるかもしれませんが、そのことで今の人の実力が落ちることはないですし、新しい進め方に慣れれば、そこから先は実力本位となると考えるのが筋でしょう(多分シンプルで合理的じゃないのか)。 大事なことは、グローバルで生き残る決断をした、出原、藤本両氏の経営判断が正しいか否かは後輩社員の方の活躍次第ということです。彼らの英断を無にすべきではありません。
両社とは関係ないですが、FTの記事には少し考えさせるものもあります。英国大企業を外国企業が買収するケースでは、英国企業への経営支配はかなり解放的であるにもかかわらず、他国は政治的であったり、閉鎖的であったりすることを少し批判しています。 Jパワー問題だけではないと思いますが、こういった英国人感情が「Reverse Takeover」という見出しに現れるのでしょう。
「イギリス経済 再生の真実」(日本経済新聞社)では、英国は比較的外資の買収に寛容的な記述が目立ちますが、必ずしもそうではないことにも目を向けなければなりません。
英国大使館の日本語案内でも同様の意見を紹介しています。 数多くの欧州企業が海外投資家による大規模な買収を防いでいるため、海外企業が英国で企業買収する方が、英国企業による海外での買収に比べ遥かに容易だと考えています。 米国でさえも、海外企業による自国企業の買収に対し、英国よりも多くの制限を課しています。このことは、英国企業が、厳密には、対等に競争していないことを意味します。
以上 買収される英国企業 から抜粋 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/04/28 12:38:30 AM
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