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テーマ:株式投資日記(20516)
カテゴリ:コーポレートガバナンス
外国人投資家にもっとも嫌われる6月最終木曜日の総会集中日(今年は26日)に総会を決行した「コーポレートガバナンスに問題がない」Jパワーの株主総会は、株主民主主義の原則に則り、会社側提案が全て可決され、経営陣の「勝利」と報道された(注:勝利という表現はマスコミで、経営陣から発したものではない)。 Jパワー株主総会で経営側が勝利、英ファンドの全提案が支持得られず(ロイター)
一方、TCIは総会直前、ロンドンのクリス・ホーン代表は、TV東京に対し仮に株主提案が30%にもならない場合、日本から投資を引き上げることを示唆しています(儲からない市場にいても仕方ないという趣旨。原文リンクが見当たらず)。 ただし、本日のTCIのウェブでは開票結果の開示を求めるホー氏の声明文が掲載されています。 支持を頂いた株主の皆様に対する感謝の意と、J パワーに対する持ち合い株主による投票結果の開示要請 この、持ち合いというものが必ずしも議決権の空洞化を招くことを立証するのは難しいと思われ(例えば、みずほも「当社は経営陣の言い分が正しいと我々自身の経済合理性を持って判断した」と言い切ればそれ以上突っ込みようがない)、ホーさんも持合を問題視することはよいが、当該企業の株を買って責め寄るのは度が過ぎたかもしれない。言い分が正しいことと、空気を読むことを見極めるべきだったのかもしれません。 ただし、ISSが最終的に会社提案に賛成(社外取締役のみ反対)したのは、社長再任案以外の「代案がないのは混乱を招くから」というのは、なかなか今の日本社会では難しいでしょう。米国のように過去に更迭された経営者が列を成して声がかかるのを待っているような国とは違い、TCIやスティールに勧誘されて手を挙げる人は少なそう。 アデランスのような極端な例であればこういった意見はありだと思います。 あとは本件をJパワー経営陣がどのように受け止めて経営革新していくか次第でしょう。これだけ持ち合いや投資採算が不透明な少数権益の海外投資に資本投下をしていれば経営効率は当面改善せず、株価は重くなりそうな気がします。 ホーン氏の言うように、10%近くを保有するTCIが撤退を考えると株価に大きなダメージを与えかねませんし、彼らが市場外で誰に売るかもわかりません。「俺たちのやり方にケチをつけるな」という態度は、一定程度は改めざるを得ないと考えられます(仮に、「コーポレートガバナンスに問題がない」のであれば、こう考えるのが正当でしょう)。 ということはTCI側は今後果実を得る可能性もありえると思います。結局、TCIの活動は日本のコーポレートガバナンス活動に影響を与えたかは今後になります。
増配云々について (Jパワーは有利子負債が多く、該当しないが)マスコミは増配を要求するファンドがあたかもチンピラが金を巻き上げるごとく、蔑視する論調を(経営者に肩入れして)展開するが、投資をするわけでもなく、配当を増やすわけでもなく、いたずらに現金を溜め込む企業の経営効率の悪さを投資家達は世界中の企業を分析して述べています。 例えば、ブランデスインベストメントパートナーズという伝統と歴史があるしっかりしたバリュー投資家ですが(日本では昨年小野薬品の配当増で「物言う株主」扱いされてしまったが)、06年の秋にこのようなレポートを出しています。 Balance Sheet Cash:Unlocking Value In Japan 2006/10 ずいぶん以前に読んだ論文なので、記憶がおぼろげなのですが、欧州でも過去は配当性向が低く、現預金を溜め込み、ROEが低いまま放置されていたが、資本効率を改善する声に押され、配当性向を増やし(したがって自己資本が必要以上に厚くならない)、ROEが改善されることを日米欧の製薬会社をサンプリングして立証している。 この中で、日本の製薬会社として、武田、三共、山之内、大正、そして小野薬品が例示されていました。 そこで、仮に日本の製薬会社が設備投資をするわけでもない現金をすべて配当に回すとどうなるか、計算したところ、欧米並みのROEを出せることがわかった。したがって、「Unlocked Value」だと言っています。 これが06年10月の発表文で、07年になって、武田、大正辺りがフリーキャッシュフロー全額を株主還元(配当+自社株買い)または配当性向100%の方針を打ち出し、三共は第一と(あのランバクシー買収)、山之内が藤沢と05年に合併(アステラス)していますが、なんら策を講じなかった小野薬が、07年3月に1株700円の株主提案を受けてしまった、といういきさつがあります。 (マスコミにはこんな前フリを知らずに、ブランデスのような優良投資家を他の物言う株主と同列に報じてほしくないものだ)。
CSX問題
ご参考(拙過去ブログ) アクティビストファンドの「モノの言い方」 07年10月29日 アクティビスト・ファンドTCI VS Jパワーその3 08年3月9日 そして、その後はやや泥仕合のような感じになっています。
CSX 本社のあるフロリダ選出の2人議員に政治献金を活用して、議会経由でエクソンフロリオ条項を振りかざすよう圧力をかけたといわれている。 ことをマスコミは問題視し、ISSも経営の正当性を議会にお伺いするものではなく、株主に尋ねるべきものだと述べている。 CSX‘s Loco Motive (ニューヨークポスト5月28日) CSXの政治献金を批判
また、CSX側は株主に十分な通知をせずに、総会日程を遅らせたり、とても一般株主が参加できない鉄道倉庫に総会の場所を設定しているとして批判されたりもしました。 (これ結構笑っちゃいますよ。こんな問題になっている総会をこんなところで開催するのかって) ただし、TCIに批判されながらもそれなりに業績を挙げていることになっている。CSXの株価は過去3年で2倍になっており、他社をはるかにしのぐ実績がある。したがって、ファンドがなんと言おうが結果を残していることになってしまっている(これがJパワーと根本的に違うところ)。
過去3年間の株価推移。黒線はダウ平均の推移。しかしながら、TCIとの対立が表面化した昨年の秋ごろから、株価傾向が違うことが鮮明となっている。これを実力と見るべきか、他のヘッジファンドが買い付けていると見るべきか・・・
TCI TCI側はCSXのコーポレートガバナンスの欠落(独立取締役が10年来同じ顔ぶれで、鉄道経営に関する知見がないため、CEOの独裁経営を許容してしまっていると痛烈に批判)や資本効率や経営効率を改善できれば、以後5年間で利益が倍増できると主張していました。カナディアンナショナル他同業者でも出来たからCSXも出来ると(今回TCIはアミンという中東系の米国人が担当)。
法廷 一方、TCIの持分は新聞各紙では、デリバティブ分と普通に保有している分と合算して何%とはっきり認識されていたように感じましたが、届出上の手違いで、その分はルール違反と認定され、結局、普通株保有分のみの議決権行使を許可されています。ただし、総会前は他のヘッジファンドと合算すると3分の1近い支持が確実にTCI側にあるとされていました。
論点・マスコミ CNBCがCSX VS TCIの生産性に関する意見の違いを双方にインタビュー(このリンクは動画、CNBCかニューヨークタイムズに登録する必要がある。登録はメールアドレスや住所氏名程度でOK、無料。英語は完全にネイティブなのでややタフかもしれません)をしています。 要するに、経済的な論点は、CSXは今後さらに今まで以上に利益を急拡大できるのか、という点。公益企業の役割を守りながら。 インタビュワーは、TCIのアミン氏がCSXには今後5年で利益を4倍にできるポテンシャルがあると言い切ったのに対し、半ば呆れ顔で「お前正気か」と突っ込んでいるのが正常な見方だろう。一方、ワードCEOはそんなことしたら公共性が保てないと反論しています。 26日、CSX側は投票が非常に接近しており、発表をさらに1ヶ月延期すると発表。一方、TCIは5人のうち4人の取締役は当選したと発表。まだ混迷は続いています。
TCIが保身に走る経営陣を追いかける、という点でCSXとJパワーは似ている。なお、CSXはあの場所で本当に総会をやったらしいです。
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