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テーマ:株式投資日記(20511)
カテゴリ:破綻・再生
リートが破たんした。はじめて聞いた時、なぜだ?と思った。
なぜなら、民事再生って、資金繰りに息詰まる時に生じるもので、なぜ資金繰りに息詰まるかといえば、赤字などで債務超過に陥っているため資金繰りが圧迫される(貸し渋りに合うなど)、結果的に手形決済などができなくなり、手形決済日の前日などに申し立てるケースが多い(そうすると不渡りにならない)。 リートはざっくりBSの資産サイドは不動産、調達サイドは借入金と資本(出資金)が大半のリートがなぜ法的整理になるのか理解に苦しんだ(不動産は毎年鑑定評価されているため、資産超過であることに公認会計士もお墨付き。ましてや支払手形なんてあるわけがない)。資金繰りの息の根をとめるものは手形交換所ではなく、銀行なので話し合いである程度はしのげるはず、と思っていた(通常は銀行から運転資金が出ないので、手形決済が出来ない、などとなる)。
この前提を元にニューシティ・レジデンスの民事再生を見ると、借入金のロールオーバーと新規取得物件の借入ができなかったのが直接の原因だったというもの。 しかし、ムーディーズさん、あんたシングルA格付けだったじゃない?なんで?これじゃあサブプライムローンの時と同じやんけ? 格付けの意義がまたまた問われそう。 金融機関も新規取得物件の融資ができなかった云々はそりゃ判断だけど、ロールオーバーがだめってそんな財務体質や業績が悪いわけでもない。総資産が2027億円、うち純資産が883億円、借入金が1112億円とリートとしてはこんなものではないか。 もっともリートは株式会社とちがって、家賃からのキャッシュフローはすべて投資者に分配することになっているので、返済原資があるとかないとかいう議論は株式会社と違う可能性がある(注:税引き前利益が全て配当に回るイメージなので、内部留保がない。だからシングルA格付けを信用するのではないか?) 新規取得物件というのは、当社の決算説明資料 によれば、NCR池袋プレイシャスタワー(仮称)のようだ。この10月31日までに取得予定でこの借入金調達ができなかったことになるのでは? 取得予定価格が約277億円の32階建てのタワー高級賃貸マンションで池袋駅より徒歩2分の好立地。07年12月に購入決定して10月に決済ができなかった。
当社は物件数が決算期の2月末現在で108件、総額1893億円で1件当たり18億円程度の物件が中心で、最も大きい物件がカテリーナ三田タワー(約165億円、注:あの日本ハウズイング社の販売物件)なので、池袋物件がかなり大型物件であることがわかる。したがって金融機関が「経営体力に見合わない取得物件で、値下がりした場合の損失に耐える体力もない」といった判断をしたかもしれない。直近で10億円近く売却損を出している。 しかし、リートのスポンサーはシービーリチャードエリスとニューシティーコーポレーションという米国の不動産会社。今年5月にはあのフィデリティ投信に第三者割当により投資口の引き受けを完了している。信用力はそれなりにありそうな気がするんだけどなあ。
池袋物件に限れば、契約不履行となり、解約または手付流しとなってしまうはず(しかしBSにはこのための前払い費用は見当たらない)。または違約金が発生する。277億円の違約金だと手付10%分でも30億円弱も発生(20%だと、56億円に上る)し、BSを見る限りそんなもん返す金がないことになる(収益は基本的に出資者のものだから)。 したがって経営陣は借入または資金調達が不確実なまま大型物件の購入意思決定をしてしまったということになる。調査すると池袋物件の購入を最終的に決めたのは07年12月とのこと。当時はすでに不動産金融環境は厳しくなっていたので、金融環境または不動産環境を見誤ったということか。 立地がいいことは間違いないものの、違約金が払えないばかりに民事再生を申し立てるとはほかに回避する手立てがなかったのか?と勘繰りたくなる。これじゃ法的整理につきものの、お涙頂戴物語にも満たない。こんなリートに投資した投資家が目暗だったということだとあんまりだ。
この後は(間違ってるかも?)。 民事再生届け出の負債総額は1124億円でした。簿価1900億円近い不動産(鑑定評価付き)を所有するため、理論的には全負債が返済可能になります。当リートの借入金総額は9月30日現在674億円、うち有担保は174億円のみとなっている。 まさか674-174=500億円は無担保債権扱いするとも思えない(これを無担保扱いで再生債権だと主張し続ければ、続々とリート破たんが後を絶たなくなってしまいそう。金融機関は一気に金を引くだろう。けどリート向け融資のルールって特別なものがあるでしょうか。これは投資家や資本市場のためにも無担保債権も不動産処分返済金で100%返してほしいなあ、多比羅先生)。
しかし、そうは問屋がおろすのか? 民事再生なので、一般的には半年程度で再生計画案をまとめ上げないといけない(結果的に1年程度になるケースも考えられるが、精神としては3ヶ月から6ヶ月で終結させるスピード感が必要)ため、当該1900億円近い物件をまとめて買ってくれる先が望ましくなります。 そうなると、「早期処分価格」ということになり、1900億円が「正常価格」に対し「早期処分価格」(仮に正常価格の7割とすると)が1330億円程度が考えられる。ただし、これは108物件を個別に早期処分した時の価格であって、仮にバルク(まとめて束にする)で売却すると「半値半掛け」以下になってしまう。友人に聞くとそれこそ、「泣くまで待とうホトトギス」レベルで足元を見られるそうだ。 一応、「半値半掛」をメドとすると、1900/2/2=475億円!!! そうすると純資産が882億円+51億円=933億円だったものが、返済されなくなってしまう。結局は債務超過・・・。
この1900億円の物件をいくらでさばけるか、という点が最大のポイントであることは違いないが、これを買収できる者もいかに資金調達できるかにかかっている。1社で引き受けるのは困難じゃないのかなあ。モルガンスタンレーもああなっちゃったし、1年前にANAホテルを競り落とした勢いはないだろう。ダヴィンチ・アドバイザーズもローンが付かなきゃ買えないだろう。 銀行融資環境が極めて不安定なので、価値が1900億円あったとしても、そこまで買値が付くか疑問だ。 ちなみに別のリートである日本ビルファンド(三井不動産系)はLTV(ローン・トウ・バリュー;物件購入の際の借入金/自己資金の比率)では4~6割とのことである。仮に数ヶ月でスポンサーを決定しなければならない場合、借入金相談している時間があるのかな? ということはオールエクイティ(借入金なし)の場合は機動的な意思決定が出来るということにならないだろうか? 何が言いたいかというと、早く決めなければならない場合、1900億円の40~50%程度の価格で決着が付くなら、投資家がオールエクイティで競り落とす可能性が残っているということだ。 ということは、やっぱり1000億円弱の価格がベースケースだが500億円ぐらいまでダウンサイドリスクが残っていそう。
リートの鑑定評価書はいざというとき、気休めに過ぎない、ということになってしまい、これをじっくり会社更生で時間をかけて処分する方法もあったかもしれない。普通の事業会社とは違った処理をして欲しいな、多比羅先生。
なぜ民事再生なのか、会社更生ではないのか。弁護士に説明責任があるのではないだろうか?最近の破綻案件全般に言える。
居住用不動産の物件処分を急がないと事業劣化する、という説明が付くのだろうか?そんなに人は簡単に引越しするとも思えない。 (注:民事再生だと申し立て代理人弁護士に巨額の成功報酬が落ちるスキームが残る。会社更生だと管財人弁護士は裁判所が任命するので、申し立て代理人弁護士が事件担当できないため商売にならない。もっとも事業実態がイマイチ一般会社と違うリートに会社更生がフィットするのかという疑問も残るが、急いで再生しなければならないわけではない事業であることは確かだと思う) 無担保借り入れは担保提供してしまえば、もう少し泳げたのではないか?そういうアドバイスや交渉が出来なかったのか?相談を受けた弁護士がベストを尽くしていたのか?
しかし、違約金が払えないだけの民事再生のために市場に与えた衝撃度は大きく日経平均がさらに落ちてしまった。これでリリート業界にも魔女狩りが起こりそうだ。
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