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テーマ:株式投資日記(20509)
カテゴリ:コーポレートガバナンス
参考記事 CNBC An Interview With Jack Welch 3/17(少し古くなりましたが) しつこくミスター・ウェルチと株主価値創造について考えます。世間ではAIG幹部へのボーナス課税で話題が沸騰していますが、ウェルチ氏はそれについても彼らしく言及しています。 CNBCは改めて申し上げると、米国3大ネットワークであるNBC放送傘下の放送局です。NBCはあのゼネラル・エレクトリックが100%株式を保有しており、GEの子会社です。NBCをGEの子会社化したのは、ジャック・ウェルチがCEOだったころのGEです。 そのCNBCの今回のインタビューの目的は、ずばり、前回このブログで取り上げた、Financial Times紙におけるウェルチ氏の発言「shareholder value is the dumbest idea in the world」が米国人にはびっくり発現であったから他にありません。 しかし、今回のインタビューはそれも含めて以下の4点にフォーカスしています。
1:AIG幹部へのボーナス支給について。 これはインタビューから今日まで様々な経緯を経ているので、やや風化した可能性もありますが、彼は、外野の人がとやかく言っても始まらない。米財務省(つまりガイトナー氏)は株主として、何が正しいのか、AIGの取締役会と徹底的に議論して、正しい答えを導くことが出来る唯一の存在だ、といっています。"They are owners" CEOを任命するのはオーナーの特権で、CEOはオーナーに従うべきだと。批判は外部のもので所有者から巻き起こっていないと。 たとえ契約があっても、会社をよりよい方向に導くように取締役会とCEOはベストを尽くすべきだ、と。
インタビュー後の世間の流れ 残念なことは、議会が一気にポピュリズムに走って、課税法案を可決したことでしょう。話し合いによる解決を阻害して金融機関側を頑なにしてしまいました。AIGのCEOも「自主的な」ボーナス回収を行っており、最高支給額を受けたトレーダーも一部返済したとロイターは伝えています。 さらに、厄介なことにこの問題は、今週発表される「バットバンク構想、官民ファンド構想」の大きな課題になりかけているとウォール・ストリート・ジャーナルは心配しています。 つまり、参加する民間セクターは税金を利用して大金を儲けようとするこの構想 (民間資金と公的資金を合算して、不良債権の購入や管理・整理を行う構想で、そこから得た利益や損失は政府と民間がシェアするというもの。投資資金の負担割合などは民間にやや有利な内容となっている) のなかで、仮にうまくいったとして、民間ファンドが利益を得た場合の議会や国民の心象を悪くした場合、また課税やルールが変更されるのではないかと危惧していると言うものです。 要するに契約で一度払うといったものを実質反故にされるリスクがあると(それ以上に、値付けのない証券をどうやって評価して、銀行に売却させるのかという問題が非常に大きいのですが)。政府が信用できないのですね。
JPモルガンチェース、バンクオブアメリカ、シティグループの3人のCEOは揃ってこの課税案を批判しました。「優秀な人材が離散する」と。自分たちはボーナスや報酬をカットできても、部下にはそこまで強要できない、それほどまでにインセンティブを極大化しないと今の「株主価値」が守れないとのことです。 個人的には、ウェルチ氏の言うように、話し合いによる解決が進展することを期待したのですが、議会が拙速にも法案化してしまったのは、反論の余地を残させます。
ただ、行き過ぎたインセンティブ(それこそが、今回のバブルの張本人という説もありますが)を見直す気運は必要かと思います。 約1年前、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルで青年トレーダー、ジェローム・ケルビエルが一人で7600億円の巨額損失を計上した事件がありました。 ソシエテ・ジェネラルの不祥事とフランス企業の買収防衛 08/02/28 この時ケルビエルは、自分は期待以上に稼いだのに、銀行が正当なボーナスを払わなかったのが悪いと供述していたなど、行き過ぎた成果主義のひずみが議論されていました。
したがってインセンティブを極大化することは、もはや公共性が非常に大きい金融ビジネスでは見直さざるを得ないかもしれません。公共性と収益性のバランスを考えなければならないと思います。「優秀な人材」は優秀な顧客があってこそ成り立つもので、少なくとも大手銀行のCEOが揃って顧客を敵にするようなことを正々堂々と言うのはよくないと思います。 しかし、今回の金融危機の根っこを焼き払う、バッドバンク構想では、「大きな人参」 をぶら下げないとリスクをとりにいく「優秀な人材」がいない、という大きな矛盾を露呈しており、難しいところです。
2:景況感について FRBバーナンキ議長がリセッションは年内に終わりそうだ。来年から回復に向かいそうだ、とCNBCインタビューで応えたそうで、減少幅が落ち着いてきたこと、ここ数ヶ月は底のような数値を見ているといった点について。 意外なことに、ウェルチ氏も同様の見方をしていました。彼は(私は知らなかったのですが)あるプレイベート・エクイティファンドのパートナーをやっているそうで、そのファンドの投資会社の月事業績報告を聞いていると、2月は昨年5月以来の前月比較で同じような業績で来ていると。3月もこれまで更なる悪化は見られないとのことです。決して保証ができないものの、どこか落ち着きを見せつつある、と言う点でウェルチ氏は何かを感じ取っているようです。 (日本だとここまでの感は出ないでしょうが、なかなか、聞き捨てならない点です。ひょっとして現在は景気の底かもしれません。米国のことですが、米国の景気が回復しない限りは日本の景気は全く回復を見込めないので)。
3:株主価値についてのFinancial Times紙での発言の真相 かれは、「the Future of Capitalism」のインタビューの中で、「What do you think shareholder value as a strategy ?」 と質問されたので、「戦略としての株主価値創造は馬鹿げている」 と回答したといっています。 株主価値は戦略でなく、結果であると。戦略とは新しい製品を作り出したり、その製品を世界中に販売したり、低コストで作り出したりするための方針であって、人々に感動や動機を与えるためのメッセージであり、自らに自信やプライドを持たせるための、目に見えるメッセージのようなものだと。 株主価値はよい仕事をした結果だろう、株価が上昇したり配当が増加すると、よりよい人材を雇用できて、それは地域社会にもよい影響をもたらし、良い製品は顧客にも喜んでもらえる。 (ここまでは、やはり、日本人経営者よりも日本人らしい、いや、日本人が期待する企業経営者像を髣髴させます) ただし、短期的な公約と長期的な戦略やビジョンの両方を達成しなければならない。そのための判断をしなければならない。絞りに絞って短期的な成果を出したところで、企業は5年後には病気になってしまうだろう。経営者とは長期的な計画を策定しながらも、短期的な課題の解決を同時にやらなければならないのだ。 (確かに質問の趣旨に対しては答えになっていますし、美しい回答です。しかし、そのためのプロセスは非情を持ってやり遂げられた)
4:GEについて (これが子会社CNBCの親会社に対する究極の質問。GEはコングロマリットディスカウントを起こしており、NBC、GEキャピタルとスピンオフしたほうがよいという意見が多くなっている) (司会者)米国の製造業は産業の遺児となってしまった。金融問題にばかり気をとられずに、産業を活気付けることを考えるべきだ。GEは金融部門が工業部門の足を引っ張っており、株価も急落している。 (ウェル地:W)工業部門の内部留保があったから、GEキャピタルに増資することが出来た。 (司会者)要するに、GEキャピタルは分社化(スピンオフ)しないのですね? (W)GEはユナイテッドテクノロジーズ、エマーソンエレクトリック、イートンをあわせたよりも大きい工業会社であり、ベストで最も輝いた企業でなければならない。 (司会者の質問には間接的ながら、Noと言っていますね。今のGEのポートフォリオには、ウェルチ氏の買収した事業(特に金融)がてんこ盛りなので、子会社CNBCではこの辺が限界でしょうか?)
話の中心がボーナス問題となってしまいましたが、AIGの社員の中にも自主的に返済する人がいると言うのは、なんとなくよかったと思います。ただ、議会はヒステリック過ぎており、民主党色が出すぎているかもしれない。最大の金融危機に民主党という規制歓迎政党が出てきたのは、幸運だったか不幸だったか、オバマ大統領も偉大な人以上に民主党員であることを世間は徐々に感じ取ってきたのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/03/23 12:46:39 AM
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