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テーマ:株式投資日記(20510)
カテゴリ:破綻・再生
参考 月曜日にガイトナー財務長官から発表されたバットバンク構想。シティのCEOの「1月2月は営業黒字」の発言で回復の兆しを見せた株式市場を加速化させました。果たしてこれでうまくいくのか? 以前、破たん金融機関の資産査定やバルクセールにかかわった者として興味を持って見ています。もちろん、株式市場が回復してほしいという個人投資家的観点もございます。したがって、本音では期待していますが、不安な心理もございます。
ガイトナーさんは、現在行われている 「ストレステスト」 により、金融機関は引き当てを積むので不良債権を売却するインセンティブが出てくること、その不良債権を競争入札することで売却させやすくできることが銀行の利点で、投資家の利点はディストレス投資のレバレッジ部分を政府が拠出してくれるという点、エクイティ部分も政府が半分出してくれるので、リターンを得やすいという。 しかし、ストレステストとその後の売却の連関がいま一つ理解しにくいです。入札で銀行側の希望売却価格に満たない場合、銀行は売却をキャンセルできると言っている点です。
以下の疑問があります。 そもそも入札価格は、債権の持つ本来の「市場価格」に他なりません。したがって、入札価格<売却希望価格 となった場合、それはストレステストそれ自体の信頼性を揺るがしかねないのではないでしょうか? ストレステスト自体の信頼性が揺らぐと全金融機関の信頼性を大きく左右してしまいます。日本の場合は「自己査定」でしたので、銀行のさじ加減がありましたから、その銀行だけの信頼性問題にとどまっていました。 ストレステストの前提はFRBが前提とする基本シナリオと悲観シナリオに基づくキャッシュフローテスト(前提は確か失業率と経済成長率だった記憶あり)であり、個々の事情が介在する余地が少ないように思います。すなわち、だれがやっても同じような結果になるような気がします。 そして、売却をキャンセルした銀行に対する信頼性の問題。たとえ入札価格<希望価格であったとしても、追加損失を計上しても売却しようとする銀行は、余裕があるとみなされ、売却を引っ込めた銀行は、「あそこは危ない」とウォール・ストリートは狙い撃ちをかけるのではないでしょうか? したがって、そもそも金融機関側は売却したいインセンティブが作用するのか心配です。米銀の首脳陣の認識は例のボーナス問題に絡んでみても相当「メインストリート」とのギャップがありますので。
また、投資家が利益を得るという前提もおかしな問題を残します。仮にストレステストをかなり厳格に行って、銀行の自己資本を棄損した場合は公的資金が注入されることになると思います(自助努力で増資する手もありますが、ちょっと難しそう)。また、そうでなければ入札段階で上述のような問題を引き起こすでしょう。 しかし、厳密なストレステストの結果、十分うまみのある価格で入札出来てファンドが利益を得た場合(入札価格>売却希望価格)、利益の半分は政府のものになりますが、半分はファンドのものになってしまいます。税金の移転となってしまいます。利益を得たファンドを 「不況から救ってくれたヒーロー」 として扱うか、「税金泥棒」 と非難するか、微妙な点が残ります。
さらにどうやって投資家が得た利益をどう評価するのか、という点も気がかりです。「かんぽの宿」じゃないですが、1万円程度で入札したものを6千万円で売却したなどという話はどうせ出てくるのでしょう。その時、ファンドは英雄扱いなのか、ドロボー扱いなのか? リップルウッドが長銀を買収した時にまさしくこのような問題が起こりましたね(あの時は住友信託銀行に対し、当時の小渕総理自ら説得してもダメで、誰も買い手がいなかったものをリップルが買収したのですが、世間はごちゃごちゃ言いましたね。日本人が卑怯だからかもしれませんが)。 ファンドが買収債権の資金回収を行うといっても、結局債権対象となっている裏付けのあるローンの債務者の債務免除でしかないので、債務免除された人へのモラルハザード的な面はないでしょうか?
さらに、今回の証券化問題で根が深いのは、作った本人以外にどういう仕組みかわからない債権というのは入札対象外だったと思います(AAA格付けで原資産が自動車ローンとか学生ローン、クレジットカードなど紐付けできるものが対象のはず)。そういった入札対象外債権の引当不足などは解決するのでしょうか?
今回の処理に対し、納税者の納得、売却する銀行側の納得、買収する投資家の納得、これらはみな利益相反しているので、タフな前途が待ち望んでいそうです。日本と違い、米国はまだ不況に入って2年程度ですので、不良債権が経済の足を引っ張るという実感が庶民ベースで湧いているのかということでしょうか。
投資家の方はブラックロックとピムコの参加が公表されていますが、まだまだ様子見のようです。とりあえず、ストレステストの結果、銀行に追加公的資金がいっぱい注入されるのなら吉、銀行に大した損失が出ない場合は凶(資本注入は行われない)、ということが最初の関門じゃないかと思います。 公的資金が入るようだとまた、銀行首脳、議会、国民、投資家の間でもめるし、入らないようだと疑心暗鬼の目で見られる。まだ一山ありそうです。 一応ブラックロックはあのベアスターンズの不良債権の管理を行っているファンドである、と言う点は大きなアドバンテージを考えさせます。 でもアメリカの政治家は正直に話しますね。ガイトナー氏も苦境を正直に吐露しますし、オバマさんも「がんばって経済を再生させよう」と国民目線で話しますね。
それに引き換え、部下の秘書の管理の出来ない政治家、違法行為で株を売却して、副大臣を辞任したものの、その言い訳が「予算審議を止めたくないから」とか言っている人や、酒に酔っ払って記者会見したのに正直に懺悔しない人など、資質を疑います。
追記 26日のFinancial Timesに英銀バークレーのストレステストの結果は、追加資本は不要 との記事がありました。 Barclays stress test signals no new funds しかし、私も懐疑的な見方の一人なんですが、同行は別途、子会社 iShares というETFをメインとした資産運用会社の売却を試みているようです。当該子会社を米国のゴールドマンが興味を持っていると報じられていますが、30億ドル程度の売却を見込んでいるようで、これをあてこんで、「no new funds」 と言っているかもしれません。 生産・消費活動の底は見えつつありますが、上向きは見られないので(米国の住宅価格も下落は止まっていない)、やっぱり将来的に不安感はありますね。 英国では不良債権の処理スキームはどうなっているんでしょうか。ブラウン首相が世界中のトップ銀行の幹部とミーティングを持つようですが、大した指導力です。彼こそは英国金融界のドンで、政策通ですし。日本の発言がまったく信用できない首相とは大違い。
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