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カテゴリ:コーポレートガバナンス
行き過ぎた資本主義というテーマでは必ず取り上げられるこの話題。日米証券会社、銀行でその報酬システムが話題になっています。
日本では野村証券が、旧リーマン部隊への引き留めとして、「Lehman-style」 の成果報酬スタイルを取り入れようとしています。 旧野村の社員の方でも、リーマンスタイルへの転向もできるようです。何でも社内のミーティングも英語が主流になりつつあるようで、メールの70%は英語とFT.comでは報じています。 そして何より、野村證券の国際投資銀行部門の本拠は実質的にロンドンに移転したとのことです。 リーマン買収の成果を発揮しようとする野村の並々ならぬ決意を感じます。
ただし、FTでは成果報酬制になると言っても、実質破綻と言ってもいいCitのCEOパンディエット氏の08年の報酬は約11百万ドル(11億円、ただし、たぶん09年度はベース給与が1ドルだと思う)で、野村HDの8人の取締役と13人の執行役の報酬が合計で16億円だ、とその報酬水準の比較をしていました(しかし、野村の場合、本当のトップ以外は兼務役員や社外取締役じゃないのかなあ。したがって役員報酬部分は小さい)。
さらに、MUFGグループ傘下の三菱UFJ証券においても、モルガンスタンレー日本法人の社員の引き留めとして、似たような報酬スタイルの取り入れを考えているようです。 あの蝶ネクタイでご存じ、ロバート・フェルドマン氏の報酬が日本の部長並みだと、やっぱり彼、逃げ出すかもしれませんね。こう固有名詞で語ると、日本の金融機関の報酬レベルはやっぱり低いのかなあとも感じます(能力レベルは低く見えるが、チームプレイ重視のスタイルなので、それほど個人が特徴的に表立つことがないだけだと思います。日本にいる外資系金融の日本人社員の大半は元邦銀や日系証券出身者ですし)。
一方、ゴールドマンサックス(GS)では、ある程度中期(3年程度)で業績評価をすべきとの議論があるようです。現在の報酬体系だと、「やったもの勝ち」 となり、今回の様な悲劇を生んだ、という反省から、ストックオプションや自社株を3年程度売却できないような縛りを入れる、などが検討されているとWSJでは報道していました。 しかし、株価が上がれば報酬が増える、ということ自体、エンロンを思い出させます。 なお、GSでは、この株価回復局面を利用して、公募増資をして、当該資金で公的資金約1兆円を返済しようと考えているといわれています。報酬にけちをつけられるぐらいなら返してしまえ、ということのようですが果たして?
バンクオブアメリカでも、投資銀行部門での報酬体系を長期的な企業価値の向上にインセンティブを持たせるような体系としていくべく見直している模様です。
これらを総括すると、本場米国の金融業界では、「一応」、より中長期的なパフォーマンスを目安とする評価基準を模索しているのに対し、日本の「勝ち組」 投資銀行では、従来型の「Anglo-Saxon」 スタイルを取り入れようと考えているということになるのでしょうか? お互いの短所が長所に見え、長所が短所に見える、隣の芝生は青い状態でしょうか? そうとは限りません。グローバルレベルでは、確実に金融機関勤務者の報酬水準が上がることになるかもしれません(それと引き換えに、雇用の安定感が崩れることをお忘れなく)。日系金融が動き出したのですから。
では、旧来の商業銀行スタイル、とはどんな感じでしょうか? 私が在籍していた時も、結局 「やったもん勝ち」 でした(昇給というより、昇進の面で)。ただし、同期の他人とは報酬の差はほとんどなく、管理職となってもせいぜい、100~300万程度の差額じゃなかったでしょうか? 成果報酬というと、いろいろ異論があり、そもそも当該拠点のもつ銀行内部での役割期待、地理的条件(発展している地域と成熟化している地域)などの差が所与として存在し、個人の力というより条件の差である場合があったりします。 何といっても金太郎あめよろしく、出来るだけ差がついていることを見せないようにする、護送船団的な人事も大きかったかもしれません(遅い船に速度を合わせる)。それと、組織全体で獲物をしとめる、組織プレーがより重視される傾向にあることも事実です(今回の手柄は、関係各部署のお力添えがあってこその成果です、とか言うせりふに代表される)。
よく働く人には、十分な処遇をするというのは当然だと思います。報酬のレベル感が他産業と比較してもらいすぎ、ともよく言われますが、業種が違うのでなんともいえません。最近の資源バブル等ではメガバンクの一般的な職員より、鉄鋼会社の人のほうがボーナスはよかったかもしれません。また、上場企業の平均給与ランキングで上位は常にキー局のTV放送会社(来期は赤字の危機がささやかれている規制業種)の人ですし。
しかし、アングロサクソンスタイル はそれ以上に、良く働く人には誰にでも(国籍や肌の色を問わずに)報いている、というオープンな点はもっと強調されてもいいかもしれません。多国籍の人材をどんどん雇い入れていますし、平等に評価しています。 さらに、日本企業のように、一見、稼ぐ人と稼がない人を同列に扱っているかのようにしていると、当然企業全体の生産性が落ちて、稼ぐ人の取り分が減ってしまいます。
しかしながら、本質的には、報酬のみで魅力を打ち出す、という点はいつか限界が来るような気がします。やはり人間ですから。今回のバブルも、その 「優秀な人材」 が引き起こしたもの、と言っても過言ではないので、「優秀な人材」のコンセンサスを考え直す機会かもしれません。その場で儲けりゃそれでよし、とは大半の機関投資家(の投資先たる年金基金等、つまり株主、さらにそれは一般の人々になってしまう)は考えていないと思います。 報酬のあり方と言うのは、いろいろ試行錯誤されて落ち着くと思いますが、こういったのも外資の一種のイノベーションかもしれません(逆行していますが)。
ともあれ、井の中の蛙、から大きく脱却を図る(いや、再挑戦するといった方が妥当か?)野村證券。その国際戦略の第一歩は評価されてもいいかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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