芒洋の日々　

Blogの更新を怠っていた断食月明けのことから書き始めなければならないだろう。一ヶ月の断食期間の終了は、私たちの生活に幾つかの変化をもたらした。毎日早朝に食事を取る必要もなくなり、私の一日の始まりはかつてのような怠惰なものへと戻った。まだ日も上がらない4時や5時に起きていたことが嘘だったかのように、家を出なければならない5分前まで布団にくるまっているようなことが普通になっていった。

家の人たちは、断食の時のようにはイスラムについて語らなくなり、それと同時に私の興味関心も次第に移り変わった。詳しくは書かないが、眼下の現実に促されるように、エスニシティや人種、階級、教育、ジェネレーション、それにジェンダーなど様々な方向に私の問題意識は拡がっていった。というよりも、ここにある現実は、そうした幾つかの学問上の枠組みを遥かに越えた複雑さの中に位置しているようであった。

しかし、何より一番の大きな変化は、夕食の時間だった。これまでは“家族”7人全員が一緒に料理し食べていたのだが、キッチンとダイニングの大きさの問題もあり、時間をずらして食卓につくようになった。特に決まり事があるわけでもないが、最初にパキスタン人のラシードと私が7時半頃から、マレーシア人夫婦が8時半頃から、インド人夫婦が9時半頃からキッチンを使うというのが常になった。インド人のタリクは、キッチンが空いている頃合に颯爽と食事を拵えて、いつも自分の部屋で食べていた。それでも、時には皆で揃って食事をすることもあったし、相変わらず私は彼らが作る様々な料理を勧められるまま口にすることが多かった。

ともあれ、それから私とラシードは、毎日のように夕食を共にするようになった。どちらかと言えば彼は野菜料理を、私は肉料理を好んだが、お互い2・30分で作れる簡単な料理をしていたので便宜も良かった。私の夕食は、レパートリーの不足から献立がほぼ決まっており、一週間のうちで必ず2回はスパゲッティ、2回はチャーハン、1回は冷凍ピザを食べた。あとの2回は、カレーか肉じゃがかお好み焼きかそういったものを気分次第で作った。

しばらくは、ごく平穏な日々が続いた。講義のあるなしに関わらず月曜から土曜まで大学に通い、日曜日は家の掃除と買い物に出かけるというのが、私とラシードの一週間の全てだった。タリクは、今勤めている南アジア系の会社に嫌気がさし（というのも、土曜日も午前中に勤務があるから）、何十枚も履歴書を送り何件も面接を受けたが、一向に新しい仕事は決まらなかった。いつも面接を受けてくると満足げにその出来具合を話すのだが、断りの手紙が来る頃にはすっかり忘れていて、特に落ち込む様子も見せなかった。

マレーシア人のガニーもやはり、パートタイムの仕事を長い間探していたが、こちらもなかなか進展を見せなかった。彼は事前の調査には熱心で、バスでバーミンガム中の様々な場所を訪れては、あそこにはインド系のレストランが何軒あったとか大きなスーパーマーケットがあったとかいうのを記録していた。それでも、彼の年齢と左耳の難聴が原因となってか、全ては骨折り損に終わっていた。インド人のコトブは、毎日モスクに通うという断食月の日課を止めたが、シティ･センターのGapでの仕事が忙しく、帰ってくるのはいつも遅かった。この若い夫婦は、時に口げんかをしていることを見かけもしたが、それ以外は陽気に慎ましく支え合いながら生きていた。

そんな中で、大きな出来事が11月の半ばにあった。




大きな道路を挟んで向かい側が黒人街のHandsworth。
70年代に建てられたSocial Housingのタワーには、現在多くのソマリア人が住んでいる。