オーストラリアドルの上昇、長続きしない可能性も
オーストラリアドルの上昇が続くとの見通しに基づいて投資を行えば、1つの投資先に全財産を投じることになるかもしれない。その投資先とは、中国だ。オーストラリアドル相場を取り巻く楽観論の大半は、オーストラリアの商品に対する中国の需要が上向くだろう、あるいはすでに上向き始めているとの見方に基づいている。中国政府がインフラ投資を強化しているため、中国のマネーサプライ(通貨供給量)と銀行融資の増加が統計に示された。これに加え、貨物運賃の上昇や鉄鉱石の契約価格交渉に対する期待感から、こうした見方の信ぴょう性は高まっている。オーストラリアドルは、米ドルと日本円に対して上昇してきたが、現在はこうした上昇基調が続くのかどうかが取りざたされている。オーストラリアドルは2月に入って、米ドルに対し3.7%、円に対して5.2%上昇している。ただ、少し考えてみて欲しい。オーストラリアドルの上昇相場の持続性について、疑う理由は数多く存在する。(米ドルが諸通貨に対して下落するなか)、底値を形成しようとしている通貨と、実質的な上昇基調にある通貨の間には大きな違いがある。先ごろ明らかとなった中国の景気刺激策はまだ、暫定的なものに過ぎない。多くの国でそうであるように、支出が効果を発揮するには時間がかかる。そのため、中国の景気回復も緩やかなものになるだろう。銀行融資や信用に関する統計がわずかに上向いているにもかかわらず、輸出も輸入も冷え込んだままだ。モルガン・スタンレーのアナリストも、信用拡大が続くとの見方に疑問を抱いている。最近実施された新規融資の大部分は、短期の資金調達に向けられた。短期証券の発行による資金調達需要は、金利裁定取引に携わる企業によって人為的に高められる可能性が高い。さらに、中国人民銀行(中央銀行)が銀行に対する融資枠規制を廃止したため、各行は簿外の融資をバランスシートに戻した可能性がある。中国の商品需要について言えば、商品を必要としているか、もしくは大がかりな在庫補充に踏み切ろうとしている兆しは全く見られない。中国税関当局の11日の発表によると、1月の銅の輸入は前年同月比2.8%減となり、昨年12月の同27.6%増や、11月の同37.7%増から一転して減少したことが明らかになった。11月や12月の輸入が大きく伸びたのは、国内の供給が比較的ひっ迫していたたことや、輸入の追い風となる国内銅価格の上昇を反映した結果だった。また、海運市場の指標とされるバルチック海運指数(BDI)が大幅に回復しているため、商品需要が全般的に上向くことが暗示されていると指摘する向きもある。BDIは、1月12日につけた899から、現在は1,989まで上昇している。12日はここ数週間で初めて低下したが、下げ幅はわずかにとどまった。BDIの上昇によってほかの貨物運賃も上昇しているが、ユーロ圏と米国の景気が減速していることを勘案すると、こうした上昇基調が長続きするのかどうか、アナリストの多くは疑念を強めている。一部では、ヘッジファンド勢の買い戻しや、一部の港湾に見られる短期的な過密状態が、相場上昇の背景だと指摘されている。中国の鉄鋼メーカーと世界の資源大手との鉄鉱石の契約価格交渉には、わずかながらも期待が寄せられている。2009年~2010年の契約価格は、予想より小さい落ち込みになるとみられているためだ。ただ、肝に銘じておかねばならないのは、交渉における両者の立場がかけ離れているという点だ。オーストラリア12月の鉄鉱石輸出は、前月比で29%増加したが、前年比では4.5%減と引き続き減少した。鉄鉱石の直物相場は依然として、2008年~2009年の契約価格を13%も下回っている。中国の動向以外で、オーストラリアドルに残されている支援材料とは何だろうか。それほど多くはないだろう。そして、たった1つしか上昇の手がかりを持たないオーストラリアドルを、誰が買いたいと思うだろう。オーストラリア準備銀行(中央銀行)は2008年9月以降、政策金利を合計で4.00%も引き下げた。オーストラリアの金利は依然として米国や日本を上回っているが、オーストラリアドルの強みだった金利差は、以前に比べると小さくなっている。キャリー取引の主な参加者である、日本の個人投資家向けのオーストラリア国債発行も、ほぼ枯渇している。また、日本の会計年度末にあたる3月31日が迫るにつれ、日本人投資家は本国への資本回収(リパトリエーション)の動きを加速させるとみられている。こうした先行きの不透明性が、オーストラリアドルにとっての弱気材料となるだろう。