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野の花も日々あれこれ考える

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2007年03月28日
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(2からのつづき)


アルツハイマーの場合、発症からの寿命は平均で8年と言われているらしい。
父の場合は、脳血管性の認知症もあるし、そもそもそれは重度の糖尿病の合併症として起きた脳梗塞が原因なので、もっと進行は早いだろう。
攻撃行動が続く期間も、おそらく長くても1年、いや、ひょっとすると数ヶ月でもっと認知症が進んでおとなしくなってくれるかも知れない。
母には「最大であと一年だけ、みんなで頑張ってみよう」と言おうと思っていた。
どんなに辛いことでも、期限があれば耐えられる場合もある。

そんなことを考えていたら、またケータイのメール着信音が鳴った。
助手席の太郎に読んでもらうと「おばちゃんからや。『一件落着。元に戻りました。安心して。』って書いてある!」と言う。
ええ?!『元に戻った』って、一体どうして?

びっくりしていると今度は妹から電話が。
太郎がかわりに出ると、「お父ちゃん、今『今日はえらいお騒がせしてしもて…すまんかったなぁ。』ってうちに電話かけてきたよ!」と言うものだった。

なんだかキツネにつままれたような気分で家に着くと花子が「じーじから電話あったよ。」と言う。
折り返し実家に電話すると、父が明るい、でも申しわけなさそうな声で「今日はお前のところにまでいやな話聞かせてすまんかったな…大波はなんとか乗り越えたから…。自分では(感情を)押さえていたつもりやったんやけど、勝手にあんな風になってしまって…、ほんまにみんなに迷惑かけてすまんな。」と疲れ果ててカスカスになった声で(5時間以上も怒鳴り続けていたのだから当然だ)、何度も何度も謝っている。

「そんなん、迷惑なことなんかないよ。ただあんまり興奮すると疲れるし、血圧にも悪いやろなぁって心配してただけ。」と笑って言うと、
「そうか。これから心機一転というつもりでやるわ。落ち着いて物事を考えるように心得るからな。」と少し泣きそうな声で父が言った。

私は心の中で、さっき父の死が早まるのを望んだことを何度も何度もわびた。


だが、認知症の人間を抱える家族には、決してハッピーエンドはない。
実際には、これからはこういうことがたびたび起こるようになり、そして病状は確実に進行する。
今は我にかえっておとなしくなり、自分のした大騒ぎに自分でも困惑している様子だが、ではそれでこれからは攻撃行動を自分で抑えることができるかと言うと、それは無理だ。
それはちょうど、二つの極端な人格が父の中で出たり入ったりしているようなもので、自分で制御できるものではないからだ。

母も私も妹も、そして叔母達も、そのことをしっかりと覚悟しなければならないのだ。
そして、父の、一つ一つの行動に隠された意味を、少しずつでも読み取って行かなければならない。
認知症の患者にだって、その行動にはちゃんとした理由もあるし、感想もあるのだ。
一体、なにが彼を怒り狂わせ、そして一体なにが正常に近い状態にいきなり引き戻したのか、それをきちんと理解しなければ、この闘いには勝てないのだろうと思う。

ただ、あのいつ終わるとも知れないと感じられた嵐の収束が、こういう形になるとは、誰もが想像できるわけがなかった。
決着の、一つの形が見えたことは、私たちにとって大きな収穫であったといえるのだろう。


やっと、長い長い一日が終わろうとしている。
私は今日、40歳になった。





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Last updated  2007年03月29日 01時32分40秒
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