おばあちゃん
先日、母方の祖母が亡くなりました。90歳でした。小さい頃から、年に数回、遊びに行ったりお泊りに行ったりしていました。祖父は27年前に亡くなり、その後はずっと一人暮らしでした。実家からは車で20~30分程ですが、叔母家族が近所に住んでいました。3月末に帰省した時、既にあまり体調が良くなかったようでした。ネイやコウにも変わらず優しくしてくれてましたが、少し疲れているように見えました。別れ際、ふいに涙が込み上げて来ましたが、こんなところで泣くわけにもいかず、「おばあちゃん、体大事にしてね」と腕を握って言うのが精一杯でした。4月末、祖母は大腿骨を骨折して入院しました。うちには、兵庫への帰省後に連絡がありました。家の中で転んで、その時既に骨折していたはずなのに、トイレまで這って行き、そこで一晩痛みを我慢していたそうです。毎朝叔母に電話することになっていたのが、連絡がなかったため、叔母が家に行ってわかりました。母と叔母は、何で早く電話しないのかと怒りました。祖母は、90歳という高齢にも関わらず、子どもたちや周りに迷惑はかけたくないと、同居もせず、介護に世話になることもなく、身の回りのことを全て一人でこなしていました。とても優しく、そして強い祖母でした。自分はもう十分生きたから、自然に死にたい、病院には行きたくない、と常々言っていたそうです。骨折の手術のため、検査をしたところ、末期癌で身体のあちこちに転移していることがわかりました。本人には、知らせなかったそうです。手術後、精力的にリハビリする姿に、医師もびっくりしていたようです。祖母が家に帰ることを強く望んだため、母と叔母は訪問医療を頼み、家で看取る覚悟で連れて帰ることを決めました。帰宅して4日後、医者にもう長くはない、早ければ今日明日かも知れないし、もうしばらくは大丈夫かも知れないが、はっきりしたことはわからないと言われたと連絡がありました。私がすぐに帰ろうか、と言うと、そう何度も来れる距離じゃないからまだいい、と言われました。そして、昨日、親子で今までありがとうと、別れの挨拶もしたんだよ、と泣いていました。それから3日ほど、1日に2回ほど連絡を入れてましたが、「あまり痛いというので、薬を打ってもらった。本来なら意識が朦朧としているはずなのに、はっきりしていて、医者も驚いていた」「今日は水を2口ほど飲んだ」「スイカを1口2口食べて、口から食べられたんですかと医者からびっくりされた」と、よくお医者さんを驚かせていたようです。そうは言っても、祖母は、延命治療は一切したくないと、水も食べ物もほとんど口にできない状況で、点滴すらしていませんでした。辛抱たまらず、明日ネイとコウを連れて熊本に帰ると電話しました。それが水曜日のことでした。水曜日はネイの授業参観、木曜日はコウの1歳半健診、金曜、土曜、と用事が入っていたけど、そんなことも言ってられず、その日の授業参観までは参加しました。ネイは、私とコウの姿を見るとニコニコと手を振り、とても元気に授業を受けてました。木曜日、朝から準備をして飛行機で帰り、空港から直接祖母の家に向かいました。おばあちゃんは、酸素チューブだけは入れられており、意識はありませんでした。この3~4日ほど、時々意識が戻って、少し話したり、ベッドを起こしてもらったり、水やスイカを口にしたりしていたようですが、ほとんどの時間意識はなかったそうです。しっかりと呼吸はしていましたが、もともと細かった体が、更に細くなっていました。人相も変わっており、ネイはちょっと見たあと、怖がって近寄りませんでした。小さい子には少しショックだよね、元気な姿を覚えててね、と、他の部屋でみてもらってました。金曜日、兄も飛行機で帰って来ました。19時に空港に着き、そのまま祖母に会いに行きました。その日の22時過ぎ、祖母はひとつ大きな呼吸をしたあと、息を引き取ったそうです。遊びに行った時は、いつもニコニコと、私たちを迎えてくれた祖母でした。この祖母から何でうちの母が生まれたんだろうと思うほど、穏やかで優しいおばあちゃんでした。でも、芯はとても強い人でした。祖母は戦時中、男の赤ちゃんを亡くしました。汽車に大勢つめ込まれて移動させられ、衛生も食事もひどい状況だったそうです。そして、3人の子どもを育て上げました。けれど、息子が大学生の時、空手の試合中の事故で亡くなりました。我が子を2度も亡くすという、壮絶な体験をした祖母。その悲しみ嘆きは、いかばかりだったかと思います。私が、明日熊本に帰ると母に電話を入れた時、祖母の自宅では、叔母と祖母がこんな会話をしていたそうです。祖母が一点を見つめているので、「何か見えるの?」と叔母が聞くと、「うん、お迎えが来た」「じいちゃん?〇〇(息子)もいるの?」「うん、みんな来てくれてるよ」おばあちゃん、今頃おじいちゃんと子どもたちに囲まれてるかな。今までお疲れ様って言われてるかな。おばあちゃん、今まで本当にありがとう。大好きだよ。