カテゴリ:ストーリー
なぜ、あの夜二人の息子さん達はあれほどに飲み、憤っていたのか・・? それは、ボスを取り巻いていた人間達のあまりにも酷い言動、行動にあっ た。 生前、ボスは本当にたくさんの人間に手を差し伸べて来た。 私もその一人になるのかもしれないが・・・。 前に書いたと思うが私が現在住んでいる家の前の持ち主だった社長家族。 彼らは家を失ったが、職を失わずに済んだ。 なぜならボスが死ぬ間際まで彼らの会社に梃入れしていたからだ。 そのお陰で彼らは一家路頭に迷うことなく、日々仕事をし、細々とでも生活 をまかなえているのだ。 にもかかわらず、 その日、息子さんに聞いた話によれば ボスが二回目の入院中、放射線治療(痛み止め)で 頭が半分呆けた状態になっているのをいいことに 彼らはいつの間にかボスに預かってもらっていた通帳や印鑑等を 自分達の手元に戻していたことが分かったというのだ。 考えられなかった。 自分達はどれほど彼に助けられてきたのか。 彼らは考えたことがあるんだろうか? 商いが出来ない夫と派手好きで口先ばっかりの財布の管理が出来ない妻。 そんな彼らにボスは一つも借りなど無かったはずなのに 彼らの子供たちを哀れんで、 面倒な人の会社の収支の管理までしていたというのに。 余命いくばくもないと悟った途端、 手のひらを返したように毟り取ってゆく。 あなたたちはハイエナですか? 人の温情に気付かず『しめしめ』と生きている人間は他にもいた。 息子さんたちはまた話した。 それは、その日の夕方にあったことらしい。 この家の前の持ち主である社長とはまた別に ボスとは同じ銀行繋がりで、中古車屋の社長をしている男Kがいる。 Kは私が出逢った頃はいつもボスの取り巻きの中に居り ボスにはご機嫌を取り捲る反面、 関係の無い回りの人間には非常に横柄な男だった。 根拠のないその自負心は、見ていて常に不快な思いを抱かせた。 そのKという男もボスに借り入れがあった。 それも何百という額の。 信頼関係を重んじ過ぎるところがあったボスは 彼に対してもまた、借用書の一つも書かせずに 求められればその額を渡していた。 が、Kがボスに借り入れがあり、 そのお陰でなんとか商売を持ち直したということ また返済も滞っており、その意思も見られないことは 周りの人間ほとんどが周知の事実だった。 息子さんはそのことを確認するためKに電話をかけたのだという。 とは言っても即座に返済を促した訳ではなかったようだった。 あくまでも『こんな話を聞いているもので・・・』といった感じで。 それを聞いたKは 私には想像もつかないようなとんでもない台詞を吐いた。 『オマエのオヤジの葬式に花まで出してやったんに!!!!』 その後事務所で暴れたい放題。 借り入れに関しては始終知らぬ存ぜぬの一点張り。 終いには地元の暴力団の名前まで出す始末。 呆れて言葉も無かった。 と同時に、息子さんたちの憤りがやっと分かった。 ボスの生前、 あんなにお世話になったのに。 あの人がいなかったらあんた達はとっくに商売も出来なくなって この地元にはいられなかったのかもしれないのに。 後ろめたくてお通夜しか来れなかったこと、 皆知っているのに、 お花、出して当然すぎるくらい当然なのに。 この人の思考回路は壊れている。 あなたはハイエナですか? 私は体中が激しく脈打つのを感じていた。 ボスはふとした時に、 『ママ~、俺が死んだら喜ぶ人間、山ほどおるなぁ』 と苦笑いを浮かべて言っていた。 私は、 『そんなこと無いよ。 ・・・そうかもしれないけど・・・ 悲しむ人間だって山ほどおるんよ。 そんなこと言わんといて。 私、そんな時のこと想像したないわ!』 と拗ねた。 結婚はないにしても一生ボスと人生を送ることを 当たり前に思っていたし 年齢が親子ほど離れているため 私は心のどこかで死別を意識していた。 だから、ボスが冗談で切り出すこの手の話題が 別の意味で嫌いだった。 今、あの言葉を思い出すと苦しくなる。 ボスは分かっていたのだ。 誰が、裏切るか。 誰が、仁義を欠くか。 分かっていても手を差し伸べてしまう。 それが私の愛したボスなのだ。 きっと今頃は天国で 『やっぱりな』 とニヤっと笑っているのかもしれない。 それでも残された者、息子さんたちの憤りはおさまりそうになかった。 私は自分の怒り、憤りをゴクンと飲み込んだ思いでこう言った。 『そんなヤツら相手にして、○○君たちが傷ついたり悩んだり 無駄な労力使うこと、お父さんは喜ばんと思いますよ。 今はお父さんがせっかく残してくださった会社やお仕事、 とにかく一生懸命やるべきやと思います。 そうしたら、いずれ結果が出るんやないかと 私は思いますけど。 お父さんもそれを望んどられるはずです。』 若い彼らにこの思いがどれだけ伝わったのだろうか。 その後も、報復のことばかりをくちにしている兄弟達を見れば、 きっと僅かしか伝わらなかっただろうと思った。 逆に、もしかしたら彼ら兄弟にとって私は 自分の父親に対しての仕打ちに怒りも感じない 現実主義の冷たい愛人に写ったかもしれない。 でもいずれ分かって欲しい。 私の愛したボスのこと。 貴方達の本当に素敵なお父さんは 私と出逢う前から どんなことがあっても 本当に辛抱強い人だった。 陰で人一倍傷ついて 人一倍泣いて それでも耐えて 人には明るく優しい笑顔と 温かい手を差し伸べる人だったってこと。 親と子供は決して同じ生き物ではないけれど、 せめてそんなお父さんの生き様を いつか愛して欲しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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