テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
湖畔を散歩しながら俺は思う。
今頃敬吾は、あの秘密の小部屋で尚美を抱いているはず。 あのベッドに身を沈めてきた数々の女と同じように、 騙され、傷つけられ、快楽だけをむさぼられる空しい存在の女。 それに比べると、今俺の横に立っている澪の清らかさ・・・ 純粋で、真っ白で。 王子様を心から信じて常に微笑を絶やさない、少女のような澪。 愛してもいない男に抱かれることは到底考えられないに違いない。 ・・・澪、本当にあの男と結婚する気なのか? 湖畔を渡る涼しい風をその額に受けながら澪は言った。 「変わらないわね、ここ。昔ボートに乗ったわね。敬吾と2人で」 槐「・・・それで、僕に相談と言うのは?」 澪「あのね。次の絵本、星をテーマに書きたいの。 だから、何かいい題材がないかしらと思って。 ねえ、槐。何でもいいから星や星座のお話を聞かせて」 湖畔に座り、俺は思いつくままに星座の話をした。 天秤座、さそり座、乙女座・・・ 中でも、乙女座の二重星、スピカの話は澪の創作意欲をそそったらしい。 澪は目を輝かせて、俺の言葉に聞き入った。 澪「素敵だわ!ねぇ、槐。今の季節には何の星が見られるの? 星を見ながらもう一度お話を聞きたいわ」 槐「では、今夜でよければ」 澪「ええ、是非!」 槐「じゃ、今のうちに天体望遠鏡を持ち出しましょう。 夜になって誰に見られて着いて来られでもしたら、 せっかくの澪さんの創作意欲が台無しになるかも知れません。 ちょっとここで待ってて下さい」 俺は自分の部屋から天体望遠鏡をキャリングケースに入れて持って来た。 澪を連れて、近くのボートハウスへと向かう。 中に入ると、天体望遠鏡を置いて澪に言った。 「では、夜8時に、ここで待ち合わせしましょう」 澪「ええ、分かったわ」 気のせいか、澪の笑顔が今日は特別に眩しい気がする。 敬吾と婚約しても、同じように俺に笑顔を見せる澪・・・ 俺は澪を連れて山荘へと戻った。 玄関に入ると、敬吾と類子が話をしている。 敬吾の姿を見て嬉しそうに澪は言った。「やっぱり来てたのね」 敬吾「さあ、あっちで冷たいものでも」 俺に澪の日傘を持たせると、敬吾は澪の肩を組んでサロンへと歩いていった。 ・・・俺の浮き立った心はあっけなく沈んだ。 澪と待ち合わせをしてくらいで、何故俺の心臓はこんなにも騒ぐのだろう。 類子「槐。ねぇ、槐ったら!」 類子の言葉に俺はハッとする。 俺は類子を自分の部屋へと連れて行った。 類子「・・・飽きれた。 じゃ、あの男が女を口説くときはいつも貴方になりすましてるってこと? 前々から聞きたかったんだけど、貴方とあの親子ってどういう関係?」 壁の天体写真に気付く類子。 「・・・子供の頃からの趣味だって言ったわね。貴方、ここで育ったの?」 槐「さすがに勘がいい。そうですよ。 父親が病気で死んで、食べていく為にここで住み込み家政婦になった母と一緒にね。 あれからもう25年だ。私は当時、まだ小学生で・・・ 夏休みになると、決まってここに避暑にやってきた敬吾とは 年が近いこともあって、まるで兄弟のように仲がよかった。 そんなある日、敬吾のお古を着ていた私は敬吾と間違えられ、おじさんにお土産をいただいて。 それから面白がって敬吾は、私を不破家のおぼっちゃんに仕立てて やってくる大人をからかって遊ぶといういたずらをするようになった。 それは、大人になった今も変わらない・・・ 俺と入れ替わり、女と遊んでいる敬吾。 槐「口ではそう言いながら、 本当は不破家の御曹司と分かったら面倒だと思っているだけなんです」 類子は憮然とする。「そこまで分かっているなら断ればいいじゃない。 結局あなたも、御曹司のふりをして美味しい思いをしてるんでしょ?」 ふっ、と俺は笑う。「厳しいんだな」 類子「・・・それで、お母さんは?」 槐「死んだ。もう10年になるかな。 食べるために人に頭を下げ、床を磨き、草むしりをし・・・ 人生の大半を、それこそ下ばかり見て過ごした一生だった」 類子「・・・恨んでるの?だから私と手を組んで復讐しようと・・・」 槐「恨む?そんな復讐になんか興味はない。 俺はただ、金は持つにふさわしい者が持つべきだと思うだけだ。 使い切れないほどの金が老い先短い強欲じじいのところにあっても、何の価値も産みはしない。 それこそ死に金だ。 それより、時間も知恵も才能もある若者が持った方が、金も世間も喜ぶ。そう思わないか?」 類子「・・・随分と身勝手なのね」 ・・・そうだ。これは”復讐”ではない。 あの男に対して復讐だなんて、そんな高尚な感情は似合わない。 あの男を追い詰め、全てを奪う。 そして、俺の無くした心を取り戻す。 それが俺の仕掛ける”ゲーム”なんだ。 身勝手だと笑いたければ笑えばいい。 こちらの心の内を全てさらけ出す必要なんて全くないんだ。 お前は所詮、”駒”なのだから。 類子「でも、一つだけ分かった気がする。あなたがどうして星に引かれたのか。 あなたは下ばかり見ていたお母さんとは違う人生を歩みたかったのね。 空に輝く星ばかりを見て・・・あら、あそこにあった天体望遠鏡は?」 天体望遠鏡が無くなっていることに気付く類子の言葉をさえぎるように俺は言った。 「そろそろ時間だ。今夜中に爺さんが謝らなければ貴女はここを出て行くことになる。 はい、これ。爺さんには悪いが腹痛になっていただきます」 俺が類子に小瓶を見せた。中には、強力な下剤。 類子が微笑んで言う。 「いらないわ、そんなもの。心配しなくても、絶対勝ってみせる」 ・・・類子の強気が、俺の気に障る。 本当に大丈夫だろうか?不破を甘く見てはいけない・・・ 俺は類子の事を気にしながらも、澪との約束の時間を前にボートハウスへと向かった。 ボートハウスには既に灯りが点っていた。 扉を開けて中に入ると、誰かがボートの中からゆっくりと身を起こした。 槐「・・・草太」 草太はゆっくりと伸びをして言う。 「どうしたのこんな時間に」 槐「これを取りにね。邪魔して悪かった。ここはお前の隠れ家だったな」 俺にとっての地下室のように、このボートハウスは草太の心の故郷だ。 母親の千津に叱られるたび、不破に叱られるたび。 小さな頃から草太はここに逃げ込んで、ボートの中で膝を抱いていたのを俺は知っている。 俺が天体望遠鏡のキャリングケースを持って扉から出ようとすると、草太が言った。 「喉が渇いたな。ねぇ槐さん、ワインでも飲まない?」 槐「これから人と約束しててね」 草太「それって、あの色っぽい看護師さん?」 俺は思わず振り返る。草太はニヤニヤしてボートから身を乗り出していた。 槐「まさか」 草太「じゃ俺、あの看護師さんを誘っちゃおうかなー」 槐「勝手にしろ」 俺が扉から外に出ると、丁度澪がやってきた。 澪「槐、お待たせ」 俺は唇の前に人差し指を立て、澪に静かにするよう促した。 中の草太に見られたら、この先いろいろややこしくなる。 桟橋に天体望遠鏡を置き、俺と澪は星を眺めた。 今日は格別に空が澄んでいる。宙に輝く満点の星・・・ 何があっても、この輝きだけはこの先ずっと変わらない。 俺がこの先何をしようと、澪が誰と結婚しようと・・・ 澪「あ!動いた・・・」 槐「あれは人工衛星」 澪の横顔を見て、俺はつい、その事を口にしてしまった。 「それはそうと、敬吾にプロポーズされたそうですね」 澪「・・・知ってたの?」 槐「ええ」 悲しそうな顔をして澪は言う。 「まだ決めたわけじゃないの。少し考えさせてくれって、そう返事したの。 だって私、次の絵本のことで頭がいっぱいなんですもの。結婚なんてまだ考えられない。 ・・・それより星の話を聞かせて。絵本の参考にしたいの」 俺は心がすっきりと晴れていくのを感じた。 敬吾のやつ、何を勘違いしたのか・・・それとも、俺への虚勢か? まあ、どうでもいい。澪が敬吾のプロポーズを断ったのが事実なんだから。 ・・・これで、俺がゲームを遂行しても、澪が寡婦となることはない。 その時、心に一抹の不安が広がった。 ・・・類子は本当に大丈夫だろうか? 彼女を信じてないわけじゃない。 しかし、澪ほど長い年月をともにしているわけじゃない。 もしかしたら、俺は類子を過信してはいないだろうか? そして、類子も自分の力を過信してはいないだろうか。 俺は澪に対する安心感とは裏腹に、類子への焦燥感を感じ始めていた。 (ひとこと) 放映では槐が星を見ていた頃、類子は不破からのプレゼントのドレスを手にしていました。 その事を喜んで槐の部屋に行くと、槐は留守。 そして、そこに草太がワインを持ってきて言うんですね。 「一緒に飲まない?槐さんならボートハウスにいたけど」。 そして湖畔に出た類子は、槐と澪の間に漂う感情に気付きます。 次回に生じる槐と類子との感情のズレを、 今回のラストに前倒しして入れてみました(^-^) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[昼ドラ] カテゴリの最新記事
|
|