テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
類子はブランデーを葉巻にしみ込ませて手のひらで転がしながら言う。
「ヨーロッパの紳士はこうやって、火をつけなくても手のひらについた香りを楽しむのです。 こういう遊びは地位や財産のある方でないと出来ませんわ」 佐野社長が感心して言う。 「いい看護師をお持ちだ。私は葉巻は吸いませんが試してみたい」 佐野夫人も笑顔で葉巻を手にする。「いい香りですこと!」 不破がまたも苦々しい顔をした。 無事その場を切り抜けた喜びに、類子と俺は目を合わせて微笑んだ。 ・・・なんて女だ。まさかこの事態を切り抜けるとは。 しかも、類子自身の看護師としての価値まで上げている。 俺の中で、類子に対する意識が確かに変わった事を俺は感じた。 その時サロンに、レイさんの声が響いた。「この勝負、恒大さんの負けね」 相変わらずの貴族趣味のドレス、そして派手な髪飾りをつけ、彼女は微笑んだ。 機嫌が悪そうに不破が言う。「こんな時間に何の用だ」 レイ「用はないけど、ここでしばらくご厄介になろうと思って。東京は暑いんですもの。 そうそう、紹介したい子がいるの」 レイの後ろから、若い女性が顔を見せた。 レイが紹介する。「私が面倒を見ている子で、女優の卵なの」 「岡本加奈子です」 加奈子はにこやかに自己紹介をし、不破の元に近寄って、いきなり頬にキスをした。 類子の目が点になる。きっと俺も同じ目をしていたに違いない。 ・・・なんだこの女!? 体はグラマラスだが、どういうわけか色気が無い。 終始笑顔だが、笑顔が全く可愛らしくない。 明らかに不破の財産目当てだろうが、それにしても趣味の悪い女を連れてきたものだ。 レイさんが若い女を連れてきたのはこれが初めてじゃない。 もう10年ほど前、彼女がまだ女優として活躍していた頃。 夏のある日、山荘の玄関をヒステリックにドンドンと叩く音がした。 千津さんが、そして俺が玄関へと駆けつける。 扉を開けると、泣きぼくろが特長的な、艶やかな黒髪の若い女がいきなり叫んだ。 「レイさん、ここにいるんでしょう!会わせて!!」 千津さんはその女性を変質的なファンだと思い込み、いつものように冷たくあしらった。 「どなたの事を仰ってらっしゃるのですか?ここは不破家の山荘ですよ」 女「知ってるわよ!マネージャーがここだって言ったもの! 美香が来たって言って!!ここを通して!!」 無理矢理中に入ろうとする女を俺は止める。「あまりしつこいと警察を呼びますよ」 美香は泣き叫ぶ。「いやっ!レイさん!レイさん!!」 槐「女性に手荒な真似はしたくないのですが」 俺が美香の手首を掴んで追い出そうとすると、中から涼やかな顔をしたレイさんが現れた。 「見苦しいわね。何をしてるのよ貴女たち」 美香「レイさん・・・」 レイ「貴女、郷へ帰りなさいって言ったじゃない。 私は貴女が女優になりたいと言ったから傍においたのよ。 なのにしばらくしたら、私の小間使いになりたいだなんて」 美香「だって私、女優の才能無いもの! レイさんみたいに舞台の上で衣装代えもせずに何人もの人格を作り出すなんてこと出来ないもの! だから、私・・・レイさんの傍にいて、一生身の回りの世話をしたいって・・・」 レイは微笑をその顔から消して言う。 「じゃ、はっきり言うわ。・・・美しくないのよ、今の貴女。心も、泣き顔も」 その言葉に、美香の涙に暮れた顔が青ざめ、口がワナワナと震え始めた。 千津が口を挟む。「あの・・・お嬢さん?」 すると美香は突然振り返り、山荘から逃げるように去ってしまった。 レイさんは何事もなかったかのような笑顔で言う。 「薔薇には薔薇の、百合には百合の役割ってものがあるのよ。 咲くのをやめた薔薇になんて興味はないわ」 ・・・岡本加奈子。 あの美香に比べて、彼女のどこが勝っているのか俺には全く分からない。 しかしレイさんの事だ。きっと何か企んでいるに違いない。 到底類子の敵とは思えないが、一応注意しておこう。 翌日。 朝食後のテラスで、不破と加奈子がいちゃついている。 口移しで葡萄を食べさせてもらっている不破の顔は、呆れるほど醜い。 そして、その不破に跨って下品に笑う加奈子もまた同様だ。 不破は嬉しそうに加奈子に大きなカメオの指輪を手渡した。 「ほら、ご褒美だ」 加奈子は物欲しそうに不破の金の腕時計を見て言う。 「それもいいけど、こっちがいいな」 不破「じゃ、野菜ジュースも口移しだぞ」 加奈子「OK!」 その様子を見ながら、俺はレイさんに言った。 「実によく躾けられたお嬢さんだ。だんな様の血圧が上がらなきゃいいが」 レイ「素直な可愛い子でしょ」 類子がチェスボード上のクイーンなら、加奈子はただの道化だ。 操り人形にしかならない間抜けな人形。類子の足元にも及ばない。 レイさんのすることは時々訳が分からないが、今回は特別意味不明だ。 まさか本気で不破がこの女に惚れるとは思ってないだろう。 レイ「いずれ養女にしようと思うの。このまま一人で年をとるのは寂しいもの。 それとも槐、あなたが息子になって死ぬまでそばにいてくれる?」 槐「いいですね、それも。ですが少々自信がありません。 あなたの方が私より遥かに長生きしそうで」 レイさんが笑う。「人を魔女みたいに言わないで」 地下室の俺の部屋で、俺は類子と話した。 類子「あのエロじじい、バッカみたい。加奈子のブラジャーをかぶって喜んでたわ! おまけにあのクイーンパールまでくれてやるなんて。 あれは私が最初にパーティーて見せられて以来、 ずっと手に入れるのを楽しみにしてきたって言うのに!」 槐「気にしなくていいですよ。 そのうちもっといい物を、好きなだけ買えるようになるのですから」 類子「それにあの加奈子を操ってるレイって女。死んだ奥さんの妹だそうね」 槐「ええ。昔女優をやっていただけあって、左の目で涙を流しながら右の頬で笑うことも出来る」 類子「いったいどうする気?あの二人が財産を狙っているのは間違いないわ。 このまま居座ったりしたら面倒よ。今のうちに何とかしなきゃ」 槐「そう焦ることはありません。 不破という男は金目当てに寄ってくる人間は誰も信用しない。 加奈子という女も、もの珍しくて相手にしてるだけです。 今に飽きて捨てられます」 類子「・・・だといいけど。 尻尾を振る犬も牙をむく犬も、不破にとってはどちらも同じただの犬だわ。 楯突いたからって妻になれるってわけじゃない」 ・・・何を言い出すんだ、類子。 せっかく葉巻の件で俺の中でお前に対する意識が多少変わったと言うのに。 一つ危機を乗り越えたら、おかしな自意識が芽生えてきたか? お前は所詮、わらの女なんだ。 メジャーピースだろうがマイナーピースだろうが、駒は駒だ。 あくまでも駒として極上にならないと、お前には存在価値がない。 俺はイラつきを隠せなかった。 槐「私のやり方では妻になれないと言いたいのですか? じゃ、跪いて尻尾を振って頼めばいい。妻にしてくださいって。 たちまちお払い箱になるでしょう。嘘だと思うなら好きなようにすればいい。 ただし、あなたと私の関係もこれまでだ。お互いゲームは無かったことにしましょう」 類子「・・・なによいきなり。そんなに興奮しないでよ」 槐「私は冷静です。だからこそ、私を信じない相手とはパートナーを組む気になれない。 違いますか」 類子「信じてないわけじゃないわ。ここで私が信用できるのは貴方だけ。 だからつい、本音を口にしただけ・・・悪気があったわけじゃ・・・」 俺に突き放されて、類子は捨てられた子猫のようにシュンとした。 俺は内心で安堵の息をついた。 これだけ上等な駒を、俺はもう手放す気にはなれない。 俺の中で、類子は掛け替えの無い存在になりつつあった。 槐「よしましょう。僕らが言い合ったってどうになることでもない。 僕は貴女を信じてる。昨夜の葉巻の処理も見事でした。 貴女ならきっと上手くやれます。やり遂げられる。何も焦ることはありません」 類子「・・・本当に?」 槐「あの女のことはしばらく様子をみましょう。 それよりもまず、あなたと私の関係を決して悟らないようにすることだ。 特にレイさんには気を付けて」 類子の顔が安堵に満ちる。 自分で言うのもなんだが、俺は女を丸め込むことには何故か長けている。 その時、ノックの音がして澪が入ってきた。 澪が類子に気付く。「あら、お仕事中だった?」 槐「ええ、だんな様の健康管理のことでちょっと」 澪「ごめんなさい、用をすませたらすぐ失礼するわ。 星座の事が載っている本を借りたいの。写真やイラストがあると嬉しいんだけど」 槐「ええ、いいですよ。探してみましょう」 俺が本を探し出すと、澪が類子に話しかけた。 「夕べは大変でしたわね。でも落ち着いてらして感心したわ」 類子「澪さんがいろいろ助けてくれたからよ」 俺は澪に本を渡す。「これはどうでしょう」 澪「初心者にもわかりやすそうね」 そこに再び来客。今度は敬吾が勢いよく入ってきた。 敬吾「槐いるか?・・・澪、ここで何してるの」 澪「本を借りに・・・貴方こそどうして?」 敬吾「いや・・・槐、大事な話があって」 敬吾と俺は階段を上りながら話した。 敬吾「東京の本社に問い合わせたら、川嶋顧問がこっちに来てるって聞いたんだけど」 槐「ええ、夕べからお泊りになってます。今はだんな様と仕事の打ち合わせを」 そこに川嶋さんが通りかかった。「敬吾さん、いらしてんたですか」 サロンのソファに掛けて、敬吾と川嶋さんは話している。 俺は少し離れてその様子を見守る。 川嶋「事業資金?」 敬吾「新しい事業を始めようと思うんだ。とりあえず10億、いや5億。 なんとか都合つけてくれないかな」 川嶋「なにをなさるんですか?」 敬吾「ジェット機のチャーター便を使った金持ち相手の事業をね」 俺は心の中でつぶやく。・・・どうせまた失敗するくせに、と。 同じ事を川嶋さんも思ったに違いない。 ただ、傍でお茶を淹れていた千津さんの目だけが異常にキラキラと輝いている。 5億か。千津さんにとってはきっと一生縁のない響きだろう。 川嶋「そういう話でしたら直接だんな様にお頼みになった方がいい」 敬吾が甘えるように言う。 「だめだから頼んでるんじゃないですかぁ。 槐の話では、会社の実務的なことは全て川嶋さんが取り仕切っているとか」 川嶋「そうですが、金の話となるとまた別でね。 無断で大金を動かすような力は私にはありません。そういうことですので」 席を立とうとする川嶋さんに俺は声をかけた。 一応、敬吾の味方をしているフリはしておかねばなるまい。 「それでも、何かいい方法はあるんじゃないですか? 長年だんな様の片腕として働いている川嶋さんなら、何かいい考えをお持ちのはずです」 川嶋「そう買いかぶられてもね。 ただ、ここだけの話、社長はあまり人は信用しないが地位や肩書きに意外に弱い。 敬吾さんに地位のある後ろ盾があれば、金を出すかもしれません。 ・・・私が言ったって言わないで下さいね」 敬吾は嬉しそうに言う。「言わない言わない」 川嶋さんは席を立ち、サロンを出て行った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 14, 2006 09:05:04 PM
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