テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
翌日。ボート遊びにはいい日和だ。
玄関に一同が揃った。 加奈子は既にビキニ姿になっていて、不破にその大きな胸をアピールしている。 しかし、類子の姿だけが見えず、また不破が苛立ち始めた。 「何をしとるんだあの看護師は!」 加奈子「おじちゃん、苛々すると寿命が縮むわよ。私が呼んで来てあげる」 加奈子は見せ付けるように腰を揺らしながら階段を上がっていった。 俺は草太に声を掛ける。 槐「じゃ、俺達は先に行ってボートを出そう」 草太「・・・え?ああ」 草太は加奈子の尻に目を奪われていたようだ。 ・・・ガキのお前には丁度いい女かも知れない。 俺と草太がボートを出していると、 不破と加奈子、そして類子とレイさんが歩いてきた。 類子は大きな麦藁帽子を被り、ナースの制服を着ている。 日差しがまぶしいのか、その表情はなんとなく浮かない。 ボートに不破と加奈子が乗り込んだ。 不破が類子に呼びかける。「お前もさっさと乗れ!」 ・・・その時。 水面を見る類子の顔が見る見るうちに青ざめ、 その意識が無くなるように類子は桟橋の上に倒れこんだ。 不破が目を見開き、加奈子の悲鳴が湖に響き渡る。 俺は思わずボートを離れ、類子の傍へと駆け寄った。 類子の上体を抱いて俺は叫ぶ。 「類子さん!しっかりしてください!どうしました?!」 何度も何度も、俺は彼女の名前を呼ぶ。しかし類子の意識は戻らない。 俺は類子を両腕に抱えて立ち上がった。 槐「・・・ベッドに運びましょう。だんな様、小谷教授をお呼びしてよいでしょうか」 不破は舌打ちをして言う。「ああ。ボート遊びは中止だな」 俺は類子を抱いて湖畔を走った。 腕に掛かる類子の重み、そして胸に伝わってくる体温。 それは意外に心地よく、腕の中で気を失う類子に、 ある種の独占欲を満たされたように錯覚させられた。 湖面を渡る風が俺達の傍を吹き抜ける。 俺は随分長いこと、類子を抱いて走ったような気がする・・・ 類子をベッドに寝かせると、千津さんが洗面器に氷水を入れて持ってきた。 タオルを絞った千津さんに俺は言う。 「私がやりましょう。千津さん、小谷教授に連絡を」 千津さんは怪訝な顔をして部屋から出て行った。 後から思うと、俺が電話をかけて、千津さんに世話をしてもらうのが自然だったはず。 しかしその時の俺は、何故かこうするのが自然に思えていた。 ベッドの横の椅子に座る。 類子の額を、そして首を・・・俺が氷水で軽くその汗を拭うと、 類子は微かに開けた唇から、貝の鳴くような小さな声を洩らした。 俺はそっと声を掛ける。 「類子」 俺の声が聞こえたかのように、類子の腕が僅かに動いた。 その指先は、ベッドのシーツを力なく握ろうとしている。 何故だ類子? こんな時は誰かの手を握りたい、誰かにすがりたいと手を伸ばすものじゃないのか? なのに何故お前は、そうやって一人で苦しみを負おうとしている・・・? 俺は自分の手を伸ばし、その細い腕を取ろうとした。 俺の体温を確認すれば、迷わずその指は俺の指に絡みつくだろう・・・ その時、扉が静かに開いた。思わず俺は手を引いて立ち上がる。 部屋に入ってきたのは、澪。 いつものようにバッグを小脇に抱えて澪は言った。 「下で千津さんに類子さんの事を聞いて。すぐ小谷教授もいらっしゃるそうよ。 それまで、私がついていてあげたいの。いいかしら?」 槐「ええ、よろしくお願いします。男の私には何も出来なくて」 澪に類子を任せ、俺は類子の部屋を出た。 廊下に出ると俺は自分の両腕を見て、そこに感じた類子の体温を思い出した。 この腕に委ねられていた類子の全存在・・・ その時、俺の心臓に痛みが走った。 俺はベッドの横で何を考えた?必要以上に類子の中に入り込もうとしなかったか? ・・・いや、違う。俺は駒としての類子を心配しただけだ。 ぬくもりは一度覚えると後が面倒だ。俺はゲーム遂行だけを考えなければいけない。 その為にはやはり、類子の心の闇を俺は知らなければいけない。 あの時、確かに類子は水面を見て倒れた。 ・・・類子、お前に何がおこった? 水に恐怖を抱くような、何が過去にあったんだ? 俺は見た。俺が類子を抱き上げたとき、レイさんの目が笑ったのを。 類子が水の上に出られないと分かったから、 きっと彼女は加奈子と不破を二人きりでボートに乗らせようと企むだろう。 ボート遊びは止めさせないと、この先取り返しのつかない事になる。 不破の部屋。猟銃を磨く不破に俺は言う。 「倒れたのがだんな様でなくて良かったです。 夏の日差しは避けた方が賢明です。ボート遊びはおやめになるべきかと」 不破「俺はそんな柔ではない」 槐「しかし、何かあったら・・・」 不破「何かとは何だ!・・・お前から見れば俺はヨボヨボの年寄りかもしれん。 だが、俺がお前の年頃にはマグロを追って世界中の海を回っていたんだ。 鍛え方が違う!いいから行け!」 俺が部屋を出ようとすると、入れ替わりに澪が入ってきた。 澪は不破に言う。 「あの、私・・・おじさまにお願いがありまして。 類子さんをしばらくうちの別荘でお預かりさせていただけないでしょうか。 彼女には休養が必要なんです。ここにいたらお仕事が気になるのではと」 不破「それは、あの女がそうしたいと言っておるのか?」 澪「いいえ、そうではありません。彼女は何も・・・」 澪は、俺に同意を求めた。「貴方もそう思うでしょ?」 槐「いえ・・・彼女は当家で雇った看護師です。 回復するまで私どもが責任を持ちますので、ご安心を」 悪いが、澪の優しさは俺達には仇になる。 ゲームを続ける為には、今類子を山荘から出すわけには行かない。 そこに今度は敬吾が入ってきた。「ども。お話中、いいかな」 嫌そうな顔の不破。 敬吾「ああ、澪もいたのか。丁度良かった。実はお父さんに大事な話がありまして。 実は僕たち、婚約しましてね」 そう言うと敬吾は、澪の肩を抱いてにっこりと笑った。 俺は驚きを隠せなかった。澪もまた驚いている。 不破「何?」 敬吾「結婚はまだだけど、婚約だけ」 澪が困ったように言う。「敬吾・・・」 敬吾「お父様もご存知のように、彼女のお父さんは商社のシドニー支店長。 お母さんはご実家は代々政治家の血筋だ。喜んでくれますよね」 不信そうな顔つきで不破が答える。「それが本当ならな」 敬吾「本当に決まってますよ。な、澪」 敬吾は澪の肩を抱いたまま部屋を出て行った。 振り返った澪の目が、困り果てて俺に助けを求めていた。 俺は不破に会釈をすると、二人を追って部屋を出た。 玄関前の廊下で、澪が敬吾に詰め寄っている。 「どういうつもり?私は結婚なんて考えられないってはっきり言ったはずよ」 敬吾は悪びれずに言う。 「だから、いつまでも待つって言ったじゃないか。 君の気が済むまで、絵本でも何でも作ればいい。僕は待つよ。 それとも、他に誰か結婚したい相手でもいるのか?」 言葉に詰まる澪に、敬吾が迫る。「いるんなら言ってみろよ」 澪が悲しそうに言う。「・・・いないわ、そんな人」 その時廊下の向こうから、千津さんと岩田さんがにこにこしながら歩いて来た。 俺はその場を足早に去ろうとした。千津さん達の祝福の声が聞こえる。 千津「澪さま、ご婚約おめでとうございます!」 澪「いえ、それは・・・」 岩田「もうお嬢ちゃんなんて呼べないな。これからは奥様と呼ばなきゃ」 千津「日取りはいつです?」 岩田「当日は私が腕によりをかけてお料理を作りますよ」 何年も感じ続けてきた、あのやるせない気持ちが蘇ってくる・・・。 その時俺に、一つの考えが浮かんだ。 ・・・そうだ。ぶち壊してやれ。 俺のその浅はかな思いつきは、すぐに粉々に砕かれた。 俺は不破の部屋に行き、不破に真相を告げる。 不破「何!婚約の話は嘘だというのか!」 槐「はい。敬吾さんはともかく、澪さんにその気は無いようです」 不破が怒って言う。「そんな事だろうと思ったよ!」 槐「どうなさいますか?」 不破「どうもこうも、こうなったら一日も早く、嘘を誠にするだけだ!」 ・・・しまった!! 不破「敬吾の言う通り、シドニーの彼女の父とは仕事上も縁が深い。 母方の叔父はいずれ総理の椅子も狙えると目されている方だ。 今のうちに繋がっておいて損はない。あの敬吾にしては、なかなか上出来の縁組だ」 槐「ですが、ご本人は・・・」 不破「いいから川嶋を呼べ!」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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