昼ドラHolic ～美しい罠～

カードを並べ終わると、レイさんは俺に背を向けたまま言った。
「あの、飛田類子って女。大分恒大さんを手懐けたようね」
槐「と、仰いますと」
レイ「川嶋さんが千津さんにボヤいてたそうよ。
仕事の話をするときは槐でさえ部屋から出すのに、あの看護師は平気で傍に置いておくって。
口では悪態をついているけれど、それは気になっているって事なんじゃないかって」

当たり前だ。俺がそう仕向けるように計算して類子を動かしているのだから。
俺は秘かに優越感を感じながら、心とは裏腹の言葉を発した。
槐「レイさんが気になさることではないでしょう。
今までだんな様は、亡くなった奥様以外の女性を心底気に掛けたことはありません。
きっとまたすぐに飽きて、首にしてしまわれると私は思いますが」
レイ「そうね。それに、その前に私の加奈子が恒大さんの心を射止める事になるでしょうし」

レイさんは徐々にカードを裏返していく。
最後のカードを裏返すと、太陽の正位置が現れた。その意味は『計画の成功』。
幸先のいい結果にレイさんが微笑む。
・・・俺は思った。
大丈夫だ。レイさんの占いは、自分の事は当たらない。

そこに加奈子が血相を変えて飛び込んで来た。「レイさん！」
レイ「何なの、騒々しい」
加奈子「それがね、レイさん・・・」
加奈子は立っている俺に気が付くと、顔を赤らめて俯いた。
俺は、加奈子に会釈をするとサロンを出た。
・・・加奈子は俺の趣味じゃない。箸にも棒にも掛からないとはこの事だ。

地下室に戻ると、すぐ後から類子が入ってきた。
類子は扉を閉めて言う。
「失敗したわ。あの頭の悪そうな加奈子の事だから、
はした金目当てで敬吾の誘惑に乗ると思ったら。
レイさんが計算づくで不破をボートハウスに連れて行ったのよ」
槐「それじゃ、加奈子を使って敬吾を追い出したのは、レイさんの策略だって言うのか？」
類子「私達が敬吾を使って加奈子を追い出すつもりが、まんまと逆手にとられたってわけ」
「くそっ！」拳を握って手を叩くと、傷が痛んで俺は思わず顔をしかめた。
類子「手、見せて。消毒だけでも」
槐「大丈夫だ。たいした傷じゃない」
類子「だめよ。化膿でもしたらかえって面倒だから」
俺は椅子に座らされ、いとも簡単に手のハンカチを類子に解かれてしまった。
手のひらには、生々しい切り傷の跡。
類子「・・・何で切ったの？！」
槐「酒を飲んでて、グラスでうっかり」
類子「・・・まさか、嫉妬に駆られてグラスでも握りつぶした？」
槐「何を言ってんだか」
類子は傷の消毒をしながら言う。
「悪いけど、心の傷までは消毒出来ないわよ。
貴方、澪さんを敬吾なんかに取られたくないんでしょ？だったら彼女に何もかも話せばいいのに。
敬吾が加奈子を誘惑したなんて聞いたら、澪さんは敬吾に愛想をつかすに違いないわ。
おまけに、彼女の実家ではこの結婚に乗り気じゃなさそうだし。
貴方にとっては好都合なんじゃない？」
槐「・・・本当なのか？」
類子「その為に、不破裏で何億って金を使うみたいよ。
要するに澪さんは金の力で敬吾の妻にされるようなもの。
それでもいいの？」
槐「いいも悪いも、関係ない」
俺は冷静に言い、席を立った。
類子「まだ包帯が・・」
槐「必要ない」
類子「言っておくけど、私はこの結婚には反対よ。
だって、その為に不破が何億って金を使われたら、私達の取り分が減るもの。でしょ？」
微笑む類子の顔を見て、俺も笑みを浮かべた。　
「・・・あんたも相当な悪だな」
類子は言う。「同じ事を不破にも言われたわ」
その言葉を聞いて、俺は今までに無く高い声で笑ってしまった。
類子も笑って言う。「そんなに笑うことないじゃない！」
顔を見合わせて俺たちは笑った。
そんなたわいも無いことが、俺には何故か楽しく思えた。

その時、ノックもせずに扉が開かれた。・・・加奈子。
「・・・なんだか楽しそうね」
類子は俺の傍から離れ、慌てて仕事道具を片付け始めた。
加奈子「やっぱり二人一緒だったのね。ちょうど良かった。
おじいちゃんが呼んでるわよ。二人ともすぐ部屋に来いって」
類子と顔を見合わせる。・・・俺達は何かヘマをしただろうか？
いや、大丈夫だ。何も疑われるような事はないはず。
俺たちはそう目で会話を交わすと、平然と部屋を出て不破の部屋へと向かった。

不破の部屋。入り口に立ったレイさんが、微笑んで俺と類子を呼び入れる。
「さあ、どうぞ。入って」
中に入ると、窓際に背中を見せて立ったまま不破が言った。
「お前らは一体、どういう関係だ。あらいざらい話してみろ！」
振り向いた不破は、俺達に向かって猟銃を構えた。その形相は、鬼。
類子も俺も、その銃口を驚きの目で見つめながら、
この場を上手く切り抜けようと頭の中で必死に策を巡らせた・・・。


（ひとこと）
槐に飲酒運転をさせたくなかったのですが、
やっぱりヤケ酒飲んでましたね＿|￣|○
いいエピソードが浮かんだらこっそり直しておきます(^-^;)