テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
厨房に向かいながら、類子の嬉しそうな顔を思い出す。
あの笑顔は、看護師として患者を救った喜びの笑顔だろう。 ゲームの駒の命を取り留めた、そんな嬉しさではないはずだ。 ・・・まあ、いい。これでゲームを再開できる。 不破が死に損なって嬉しくないのは敬吾くらいだろう。 悔しがって地団太を踏む様が目に見えるようだ。 階段を降りると、千津さんと行き会った。 槐「もうお目覚めですか」 千津「何だかよく眠れなくて。だんな様のご様子は?」 槐「はい、熱も下がって意識も戻られました。いつものスープが欲しいそうなので、 岩田さんに塩分を控えて作るよう言っていただけますか」 千津さんは嬉しそうに顔をほころばせる。 「良かった!じゃ沢木さんはスープが出来るまで寝てなさいよ、ね。 ちょっとでも寝ると体が休まるわよ」 槐「では、お言葉に甘えて」 サロンを見ると、中で小谷教授が一同に説明をしていた。 「手早い処置をしたのが良かったのでしょう。もう大丈夫です」 川嶋「先生、ありがとうございました」 レイ「まったく、悪運が強いったらありゃしない」 面白くなさそうにオレンジを手で遊ばせる敬吾。 そしてその敬吾の顔を心配そうに見る澪。 俺は部屋に戻り、少しの間眠りについた。 ・・・1時間は寝ただろうか。 目覚めると、もうすっかり朝日が山荘を照らしていた。 厨房に向かうと、廊下の外まで不破の好きな魚介のスープの香りが漂っていた。 中に入ると、岩田さんがスープをかき回しながら言う。 「またこのスープを作れて本当に良かった。恒さんは昔からこのスープが好きでなぁ。 マグロの網に引っかかった、小さな魚をより分けて炊いて・・・。 オキアミが入ると、恒さん好みの味になる。 煮込みながら航海しているうちに、味がどんどん深みを増していくのさ」 槐「では、普段私達が口にするリゾットは・・・」 岩田「昔からの恒さんの好物だよ。そら、出来た。 いつもならスープストックを温めるだけだが、 塩を入れずに作ったこれとストックを混ぜれば塩分は半分になる」 岩田さんが取り分けたスープを持って俺は不破の部屋に行った。 扉を開けると、疲れながらも晴れ晴れとした表情の類子が ベッドの横に座って不破と朗らかに話をしていた。 槐「おはようございます。ご回復、何よりです」 不破「・・・おお、いい匂いだ。なんだかとても懐かしい気がするな」 類子「沢木さん、だんな様にスープを飲ませてあげて。 もう、お腹が空いたって、うるさいくらい」 不破「腹が空いて何が悪い。俺はこの通り、まだまだピンピンしとるぞ!」 類子が笑う。窓から入る陽の光に、その笑顔が眩しく見えた。 不破のベッドの横に座り、スプーンで不破にスープを飲ませる。 不破は感慨深そうに言う。「美味いな。塩気のないスープでも美味く感じる」 類子「でしたら、明日からもっと塩分を減らしましょうか」 不破「槐、聞いたか。病人に容赦のない看護師だ」 槐「ですが、夕べ一睡もせずに看病したのは彼女ですし、 彼女がただの発作だと軽く考えていたらこうしてスープが飲めることも無かったかもしれません」 不破は不思議そうな顔で俺に言う。 「お前、この高慢ちきな看護師のことを嫌っておったんじゃないのか」 槐「仕事が出来ても、好きになれない相手はどこの世界にもいるものです」 不破は頷きながら類子に言う。 「確かに、槐の言うとおりだ。 よし、あんたにボーナスをやろう。いくらがいい。100万か、200万か」 類子は言う。「私は結構です」 不破「自分の務めを果たしただけだと言うんだろう。 だが、俺はあんたに借りを作りたくないだけだ」 類子「・・・では、お金ではなく、一つお願いがあります。聞いていただけますか?」 不破「約束しよう」 類子「では・・・」 俺が類子の企みを察して笑みを浮かべたその時、 サロンで待機していた敬吾達が部屋に入って来た。 加奈子が真っ先に飛び込んで来て言う。 「おじいちゃん!熱が下がってよかったわ!」 ベッドに座り、不破の頭を撫でる加奈子。「私ずっと寝ないで心配してたのよ」 敬吾「最悪の場合はヘリで病院に運ぶつもりでしたが。しかしこうなったら、 お父さんに安心してもらうためにも一日も早く澪と式を挙げることにします。 澪、その方がいいだろう?」 澪は少し驚くが、答えを待つ不破の顔を見て笑顔で答えた。「ええ」 川嶋「では早速、婚約披露をしなければ。忙しくなりますよ」 類子が腹を探るような顔で俺を見た。俺はそんな類子から目を反らす。 小谷「しかし、当分は安静が必要ですからね」 類子「この際、湖でのボート遊びもやめた方がいいですわね、先生」 加奈子「何ですって?」 レイ「あら、ボートに乗るくらい、むしろ気分転換になっていいんじゃない?」 類子は不破に言う。「先ほど約束したお願いとはこの事です。聞き入れて下さいますね」 レイ「・・・何の事よ」 類子「私へのボーナスの代わりです」 不破はいつになく素直な表情で類子に言った。「あんたの言う通りにするよ」 類子は笑顔で頭を下げる。「ありがとうございます」 ・・・類子はまた一つ壁を超えた。 しかし、レイさんの面白くなさそうな顔を見て俺は思う。 このレイさんがこのまま納まるとは思えない。 きっと今まで以上の罠を類子に仕掛けてくるだろう。 決して気を緩めてはいけない。俺も、類子も。 東京に帰る小谷教授を見送るため、俺と類子は玄関に向かった。 小谷教授「何かあれば、すぐに連絡するように。 できるだけカリウムやカルシウム、DHAの多い魚を取った方がいい。 サバやブリ、本マグロなどもおすすめです」 槐「マグロ?それは困ります」 小谷「どうして」 槐「だんな様はマグロを決して口にはなさらないのです。 だんな様は昔マグロ漁船に乗っていたことはご存知かと思いますが、 不破ファイナンスが今あるのは、その時額に汗して働いた金をまず人に貸したことが始まりです。 いわば、マグロが運を開いてくれたようなもの。 食べたらバチが当たると頑なに信じていらっしゃるんです。 その事は山荘の住人全員が知っています。そうですよね、飛田さん」 類子「ええ。そうなんです」 小谷教授は笑って言う。「マグロに恩を感じるとは、人間嫌いの社長らしいね」 そこに、草太が来て言った。「お車の用意が出来ました」 俺は草太に教授のかばんを持たせると、類子と二人で笑顔で教授を見送った。 扉を閉じて類子に言う。 槐「それにしても、あなたの働きは見事だった。期待以上です」 類子「当たり前よ。私はバカなお人形じゃないもの」 槐「そのうち、乾杯でもしましょう」 類子「・・・いいわね!最高のシャンパンをお願いしたいわ」 槐「お望み通りに」 類子「・・・でも、その前に少し、眠りたい・・・」 疲労の中にも満足感のあるような類子を見て、俺の心も少し和む。 槐「その方がいい。花嫁が疲れていた顔をしては花婿も興ざめだ」 「失礼ね!」 類子が笑って俺を叩こうとすると、そこに澪がやって来た。 澪「おじさまが、少しお休みになりたいとおっしゃって」 槐「では、私は仕事がありますので」 俺は二人を残して自分の部屋へと戻った。 地下室に入ると、敬吾と川嶋さんが深刻な顔で向き合っていた。 ・・・心の中でため息をつく。俺のプライバシーはこの山荘には存在しない、と。 俺の顔を見て敬吾が言う。 「おお、槐。ちょうど良かった。今川嶋さんとも話してたんだ。 親父にそろそろ、社長の座を譲ってもらおうかって。 もちろん、お前は俺の味方だよな?それとも親父を選ぶか?」 槐「・・・!?」 俺は頭の中で思案を巡らせた。 ・・・二人はどんな会話をしていた? 敬吾は不破に取って代わろうとしている。 しかし、この頭の悪い敬吾に川嶋さんがそう易々と身を任せるわけがない。 もし、敬吾につくといったら川嶋さんはどう動くだろうか? 不破に忠義を尽くすといったら敬吾はどう言うだろうか。 敬吾が俺に迫る。「答えろよ。親父か、俺か。お前はどっちにつくんだ?槐」 敬吾の背中の向こうで俺の答えを待つ川嶋さんの厳しい表情を見て、 この場を切り抜ける一つの答えを俺は思い付いた・・・。 (ひとこと) この頃は、不破が死ぬとしたら憤死かなと思っていました。 今思うと、それじゃいかにも安っぽい昼ドラ風味ですよね(苦笑) 不破じいの悲しい最期は、今でも私の心を捉えて離しません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[昼ドラ] カテゴリの最新記事
|
|