テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
地下室に戻るとすぐに上着とシャツを脱ぎ、
洗面器に氷水を張ってタオルを絞って打たれた肩の辺りを冷やした。 激痛が走り、思わず顔を顰める。 その時、携帯が鳴った。電話を取ると類子の声。 「私よ。どうなったか気になって・・・不破は何か言ってた?」 槐「いや。何も心配ない。大丈夫だ。言ったろ?あんたの事は、俺が守るって。 あんたは自分の好きにすればいい」 そこに、ノックの音。俺の名前を呼ぶのは澪の声。 槐「じゃあな」 類子の言葉も聞かずに強引に電話を切ると、俺は扉の向こうの澪に冷たく言い放った。 「来ないで下さい!」 澪は心配そうな声で言う。「でも、傷の手当をしなくちゃ・・・」 槐は声を荒げる。 「いいから!あんたに手当てしてもらうような傷じゃない!ほっといてくれ!」 澪に水を差され、先ほどとは逆に俺は冷静さを失った。 自分でも何だか分からないような叫び声をあげながら 洗面器や机上の本、本棚までも手当たり次第に巻き散らす。 そして再び、携帯が鳴った。俺は電話を取ると吐き捨てるように言った。 「心配するなって言っただろう!」 しかし、電話を掛けてきたのは類子ではなかった。 不破「車を出せ。俺が直接、看護師を連れに行く」 俺は耳を疑った。それまでの怒りが嘘のように、頭の中が晴れていく。 槐「承知しました」 電話を切ると、俺はすぐに車を回しに玄関を出た。 俺は車を運転しながら、後席に座った不破の話を聞いた。 不破はいつに無く柔らかい声で言う。 「あの女は、淡いオレンジが良く似合うな。俺の好きな色だ。 小生意気で嫌味な女だと思っていたが、いなくなると物足りなくてかなわん。 ・・・こんな思いをしたのは久しぶりだ。 なあ沢木、あの看護師はどんなドレスが他に似合うと思う? どんな宝石を与えれば喜ぶと思うか? ・・・分からんなあ。女に自分の好みを押し付けるのには慣れとるが あの看護師は一方的に与えられるのでは満足するまい・・・」 手にしたチェスの駒のクイーンをそっと握り締めて見つめながら、 まるで夢の中にいるような表情で言う不破の表情。 初めて見るそんな不破の姿をバックミラーで見ながら、 俺は類子のアパートへと車を飛ばした。 類子の住む古いアパートを見上げて不破は目を丸くした。 「あの看護師はこんな汚い所に住んでいたのか。ゴキブリでさえも餓死しそうだ」 狭く薄汚い廊下を歩いて類子の部屋の扉の前に立つと、 不破は携帯電話を取り出して類子に電話を掛けた。 俺は不破の後ろで事の成行を見守る。 ・・・扉の中から驚いた様子の類子の声がした。 「・・・不破さん?どうして?困ります。私、急いでるんです。 大事な仕事の面接があって。いえ、看護師はやめました。 もう二度とやる気はありません。お断りします。・・・えっ?」 類子は扉を開け、そこに携帯を耳に当てた不破を見出して驚く。 不破は電話を閉じて類子に言った。 「ここまで来たら、喉が渇いた。水の一杯でも恵んでくれるかな」 類子が不破を部屋に通すと、俺は一人、部屋の外で待った。 勿論、中の声を背中で聞きながら・・・ 二人の声が中から聞こえてくる。 不破「驚いたな。こんな部屋がまだあったとは」 類子「お宅のボートハウスの方がましでしょう」 不破「昔乗っとったマグロ漁船の寝床はこんなもんじゃないぞ。 床が揺れんだけでも、天国だ。・・・ん?」 類子「ミントです。水を冷やす時に入れておくと、 香りも爽やかで、リラックス効果もあるんです」 不破「あんたの手にかかると、一杯の水も薬になるんだな。 ・・・どうだろう。もう一度、戻ってきてくれんか。 例のマグロの件は、あんたのミスじゃないと判った。 だからと言うわけではないが、どうか、戻ってきて欲しい。 謝れと言うなら何度でも謝る。この通りだ」 類子「よして下さい。お気持ちは分かりましたから」 不破「では、戻ってくれるんだな」 類子「いいえ、それとこれとは別です」 不破「何故だ。あんたは、金でも動かん。謝っても動かん。これ以上何が望みだ」 類子「私は何も望んでません。ただもう・・・」 その時、向かいの部屋の扉が開いて中から寂れた中年男が出てきた。 俺の頭から足元までじろじろと舐めるように見てその男は、 怪訝そうな顔で廊下を歩いて出て行った。 続いて、穴だらけのジーンズを履いて目深にキャップを被った 若い男が無気力そうに通り過ぎてゆく。 中の音が外で鳴るクラクションにかき消され、類子の答えが聞けずに俺が少し焦ったその時、 扉が開いて不破が部屋から一人で出て来た。 俺は性急気味に不破に尋ねる。 「どうでした?彼女はなんと?また看護師として来ると?」 不破は黙っている。 槐「・・・断られたのですか?」 不破「それより、お前に頼みがある」 俺はまるで狐につままれたような、しかしどこか晴れやかな気分で帰りの車を運転した。 不破が類子にプロポーズしたこと。 そして類子の言葉を待たずに高級マンションとその家具類、 類子好みのドレスや宝石、化粧品までその部屋に揃えろという まるでシンデレラを迎えるような不破の要求を俺は素直に受け入れた。 俺は翌日から東京でマンション探しと買い物に時間を費やした。 眺めも日当たりもいい麻布の高層マンションの最上階を選び、家具はアイボリーで統一する。 ドレスは様々な色と形を選び、宝石も香水も類子の好みそうなものを選んだ。 銀座の街の高級な店ばかりを歩いて品を選びながら俺は、 類子のウェディングドレス姿を思い描いていた。 俺の選んだ部屋で、俺の選んだドレスに身を包んで微笑む類子。 ・・・しかし、その隣に立つのは俺じゃない・・・ 俺は今一瞬感じかけた思いを胸に封じ込めて自分に言い聞かせた。 俺と類子は愛し合っている。 しかしそれは、そこらの人間が甘んじているような生易しい恋愛とは違うのだと。 目的に向かって心を一つにする事、それが俺達なりの愛し方。 俺を愛する類子は最強のパートナーとしてその力を発揮し、 ゲームの完全なる勝利の道へと共に歩んで行ってくれるだろう。 不思議なほど俺はそう信じて疑わなかった。 それが身勝手な感情だとも思わなかった。 その浅はかさがすぐに二人の道を隔てる事になるとも勿論全く予感していなかった。 用意が整い、類子をマンションに案内する。 全面ガラス張りの窓から日が差す広い部屋を見て驚く類子に言う。 「・・・俺達は勝った。ついにやったんだ。 見ろよ!不破があんたのために用意した部屋だ」 類子がクローゼットを開くと、沢山の服が類子を待つように並んでいた。 槐「とりあえず、必要なものは一通り揃えてあるんだ」 類子「これ・・・全部私のために?」 槐「そう。未来の花嫁の為に、花婿からのプレゼントだ」 類子「でもまだ決まったわけじゃないわ」 類子はドレスを手にし、鏡の前で合わせてみた。 槐「しかし、あいつがプロポーズするとはな。 正に、逆転サヨナラ満塁ホームランってところだ。 ・・・それから、これも。 欲しいものがあれば、これで何でも好きに買えばいい」 不破から預かったブラックカードを類子に手渡して言う。 「それさえあれば、レストランでも、ホテルでも、たちまちVIP待遇だ」 類子は信じられないと言ったように目を細めて言う。 「・・・なんだか夢みたい」 俺はグラスにシャンパンを注ぎながら言う。 「夢じゃないさ。俺達は勝ったんだ。ついにあの怪物を釣り上げた。 それが出来たのもあんたのおかげだ、感謝してる。 俺たちの、輝かしい将来の為に」 類子と俺はグラスを合わせる。一気に飲み干す俺に対し、類子はグラスに口もつけずに尋ねた。 「・・・でも、貴方はそれでいいの?。 このまま私が、あの男と結婚して、貴方は平気なの?槐」 言葉に最後の望みを託すように、そしてすがるように切ない瞳で類子は俺を見つめている。 ・・・類子の唇が微かに動く。 一瞬、俺はその動きに目を眩ませた・・・ 自分で発したその言葉は、後で俺に容赦なく後悔の念を抱かせた。 すっと俺は否定し続けていたが、それはその選択が間違いであったという 紛れもない証拠であるときっと誰もが口を揃えて言うだろう。 (感想) この回の不破じいはとても素敵でした。 槐の目線で見ると、不破を素敵に書けないので少々残念です(笑) ちなみに、次回からは大誤解大会です。 類子の気持ちは「槐に裏切られたから、愛はもう信じない。 でもゲームを続ける限り、槐は私から離れられないはず。 槐は愛より金だと言っているけど本当にそうかしら? 澪を愛しているだろうから澪を使って確かめてやる」。 槐は槐で「類子は俺を愛してるから俺と共にゲームを上手く進める」 と信じて疑わない。 そのすれ違いが恐ろしい事件へ、そして類子の捨て身の事件へと繋がっていきます。 この頃の槐の感情は私もずっと誤解してましたので、 掘り下げていくのがなかなか楽しいです(^-^) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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