テーマ:東海テレビのお昼ドラマ(184)
カテゴリ:昼ドラ
翌日。
俺の運転する車の後ろで、不破と類子が絶えず何かを話している。 新婚のそれの、浮き立つような会話を俺は右の耳から左の耳へと聞き流した。 不破の両手は類子の手をそっと握っている。 俺は一度も類子と目を合わさずに山荘へと車を飛ばした。 玄関で出迎えた千津さんは驚きのあまり目を丸くした。 不破は照れ隠しか、何も言わずに口をへの字に曲げて山荘の中に入った。 類子は微笑んで言う。「またお世話になるわ。よろしく」 類子と不破が通り過ぎると、千津さんは慌てて俺に尋ねた。 「どういう事なのこれ?!また飛田さんを雇うにしても、 だんな様自らお迎えに?・・・それとも・・・いや、まさかねぇ」 槐「山荘の人達全員を階段の下に集めて下さい。 だんな様から、飛田類子さんと結婚したことについてのご報告がありますから」 千津さんは目を白黒させて厨房に飛んでいった。 山荘の住人達が階段の下に集まる。 不破は階段の途中に立ち、誰もが無言で類子を待っていた。 憮然とする川嶋さんの横で、千津さんが小声で岩田さんに言う。 「もしかしてこれから飛田さんを『奥様』って呼ばなきゃならないの?」 岩田さん「しっ。だんな様に聞こえたら大変だぞ」 加奈子が面白く無さそうに床を蹴っている。 草太は欠伸をしながらただその場に立っていた。 レイさんが扇を振りながら歩いて来て、俺に小声で囁いた。 「しばらく姿が見えないと思ったら、うまくやったものね。 流石に蠍は動きが早いわ。あなた、どこまで知ってたの?」 槐「・・・私は何も。彼女を迎えに行って式の手配をしただけです」 レイ「一度はプロポーズまでした女をあの醜い恒大さんに取られるってどんな気分?」 槐「ああ、そんなこともありましたね。 残念ながら私は女の事は忘れるのが早いんです」 レイ「そう言えば、加奈子はあなたの子を妊娠しなかったようね」 槐「・・・それも忘れました」 ふふ、とレイさんが笑う。 その時、敬吾が扉を勢いよく開けて山荘に飛び込んで来た。 敬吾「・・・おい!親父が結婚したって本当か!!」 山荘の住人達、そして階段の上に立つ不破が敬吾を見る。 敬吾は怒りに燃えて言う。 「・・・どういう事だよ、これは。みんなを集めて何の真似だ! まさか、結婚の報告でもしようって言うんじゃないだろうな」 レイさんが笑顔で言う。 「そのまさかよ。恒大さん、再婚なさったの。お相手は・・・」 その時、階段の上からドレスを着た見違えるほど美しい類子が降りてきた。 目も眩むような豪華な宝石、そして高級なベルベッド生地のカクテルドレス。 その品格のある美しさに、俺は酩酊を覚えた。 敬吾が憎らしそうに言う。「・・・あんた、看護師の」 類子が微笑んで言う。「お久しぶりです、敬吾さん」 不破「今日から、類子がここの女主人だ。 今後、この屋敷内のことは全て、彼女の指示を仰ぐように」 類子「今夜は内々で夕食会を開くつもりですの。 皆さんも是非、お席についてくださいね。楽しみにしています」 敬吾は類子を指差し、声を荒げて言う。 「・・・認めないぞ!俺は絶対認めないぞー!!」 川嶋が敬吾を止める。「敬吾さん。落ち着いて、落ち着いて」 川嶋「しかし社長、役員達に報告しなければなりません。 どういう事か、詳しいお話を」 不破は言う。 「上へ行こう。・・・以上だ、下がっていい」 ・・・類子の艶やかな笑顔を見て俺は決心した。 ゲームのプレイヤーとして、完全なるゾーンへと入ってみせる。 類子の声も、笑顔も。そして不破の妻としての時間も。 何もかもはゲームの駒であり、それによって俺が心を動かす必要は全く無い。 冷静に今置かれている状況を把握して俺は確実に勝利へと向かう。 類子と俺は共に同じ道を選んだ、この世にまたとない愛を選んだ。 その『愛』という言葉さえ忘れて、俺はゲームを終えてみせる。 山荘の住人達がその場を離れると、残った俺に敬吾が言った。 「・・・話がある」 敬吾は俺の手を引き、地下室へと向かった。俺は素直に敬吾に従う。 ・・・昔からそうだ。こういう時に少しでも足を止めようとすると、 敬吾は掴んだその腕に更に力をこめて絶対に離さない。 子供の頃はよく敬吾の爪の跡が手首に残っていた。 地下室に入ると、敬吾は俺を壁にと押し付け、首元を掴んで俺を責めた。 俺は思わず顔を顰める。敬吾の腕が俺の胸を圧迫し、息が出来ない。 「・・・お前!知ってたんだろう、この事。何故黙ってた! 親父が少しでも妙な真似をしたら、すぐ知らせろと言ったはずだ!裏切ったのかよ!」 敬吾が力任せに俺を振り切ると、俺は咳き込んで胸を押さえた。 敬吾「・・・分かってるよ。昔からお前が澪の事を好きだってことは。 だから、嫉妬して、親父に寝返った。そうだろう?この卑怯者! お前、どうなるか覚えてろよ!くっそー!!」 敬吾は捨て台詞を吐いて部屋を出て行った。 ・・・俺は思わず笑みを洩らす。 そうやって大口が叩けるのも今のうちだ。 ゲームのシナリオに、お前の運命はしっかりと刻まれている。 今からお前が何をしようが、俺にとっての脅威にはなり得ない。 俺は身支度を整えてワイン蔵へと行き、極上のシャンパンを選んだ。 ドン・ペリニヨンのヴィンテージを手にして厨房に向かおうとしたその時、 玄関の前で軽装で出かけようとする草太と加奈子に出くわした。 草太は笑顔で言う。「槐さん。今夜俺非番だから、ドライブして来るね」 類子と不破が結婚して用済みになった加奈子は、 やけにサバサバとした表情で堂々と草太の隣に立っていた。 槐「今夜は奥様の夕食会だろう。お前達も席に着かないと」 加奈子は長い髪を指先にクルクルと絡めながら言った。 「みんな出ないって言ってるもん。 ドンペリは楽しみだけど、類子さんより下座に座るなんて、私イヤ」 ・・・類子は歓迎されていない。それは分かりきっていたことだ。 だから俺は、この手で守る。全力を賭して、類子を守る。 俺と、類子の輝かしい未来の為に。 ダイニングルーム。 千津さんは食卓の用意を整えると、急に額を押さえて俺に言った。 「何だか頭が痛いのよ。沢木さん、後はよろしくね」 そそくさと出て行ってしまう千津さんに、俺は溜息をつくこともしなかった。 千津さんの姿が消えてしばらくすると、 廊下の向こうから腕を組んで歩いてくる類子と不破の姿が見えてきた。 淡い水色のドレス、淑女風にセットした髪。 類子は野心に燃える目を胸の奥底に沈め、 資産家の妻としての誇りを凛とかざして優雅に足を進めていた。 ダイニングルームに不破が足を踏み入れると、 そこに俺以外の誰もいない事に気付き、その顔に怒りを浮かべた。 類子は顔色一つ変えずに、不破に言う。 「こうなる事は私、分かってましたわ。 でも今日は記念すべき日ですから、お怒りはお鎮めになって。 せっかく美味しいシャンパンを飲むんだもの、笑顔でいただきましょう」 そして類子は笑顔で俺に言った。「沢木さん、シャンパンを注いで下さる?」 上座に座った類子にシャンパンを注ぐ。 類子「ありがとう」俺は類子に一礼をした。 長いテーブルに座っているのは、不破と類子の二人だけ。 用意された皿やグラスが、冷たくそこにただ佇んでいた。 不破が言う。「乾杯しよう」 類子は微笑んでグラスを手にした。 誰も来ない夕食会。・・・ゲームの新しいステージが、今始まる。 (ひとこと) 類子は不破に抱かれながら思います。 「どこにいようと、私が不破の妻である限り貴方は私から離れられないわ。 貴方が大金を手に入れられるのは、私の夫、不破恒三が死んだとき。 それまでは、たとえ澪さんを愛していようと、私からは決して離れられない。 ・・・愛か金か。貴方の魂の重さを見せてもらうわ、槐」 類子のゲームのターゲットが槐に変わった瞬間でした。 二人の気持ちは完全にすれ違っています。 ちなみに今回は、変な方向に暴走しかけました(^-^;) 慌てて自分にストップを掛けたのですが・・・(笑) ※本当に更新遅くてすみません_| ̄|○ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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