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ひよきちわーるど

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2005.08.03
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カテゴリ:I love family



今までのアルバムに目を通していたら、
夫と結婚してからのこの10年、実に様々なことが思い出された。

中でも1番印象に残っているのが 出産の時の励ましかな。

普段はクールで 自分の感情をほとんど出さない夫。
けれどその時だけは 彼の素顔に触れたような気がした。






1995年8月10日。

朝から 雷をともなう土砂降り。
すごい雨だ。

はっきり言って 私は雨女かもしれない。
結婚するときにも、新婚旅行の時にも、
そして引っ越し、その他諸々。

そのほとんど全て 雨にたたられている。
出産の時にもこの有様だ。






それにしてもこの降り様は凄まじい。

窓から外を眺めつつ 私はとんでも無いことを願っていた。




「このまま、洪水が起きて
 病院ごと流されないだろうか・・・・。」





こんな事を ふと考えてしまうひよきちを
どうかお許し頂きたい。

何たって 生まれて初めての出産を
あと何時間かあとに控えているのだ。

恐ろしいことこの上ない。






小さいときにも、あの恐ろしい歯医者に行くたびに

「ああ、この建物が一瞬にしてなくなってしまったら・・・・」と
あほなことを考えていたものだった。




要するに、どんなに年齢を重ねたとしても、
考えることはそう変わっちゃいないということである。

歯医者が産婦人科に、
治療が出産に変わったというだけのことである。







本当ならば予定日は8月7日。

その日を過ぎても いっこうに生まれる気配もないので、
陣痛促進剤を使っての出産というわけである。

しかも、ひよきちは骨盤が狭いので お産の経過を見つつ
場合によっては帝王切開も考えられるとのこと。

じ、実に「ファジィ」である。



ふと横を見たならば 
昨日の夜のうちに、兵庫から
私の実家のある宮崎に来てくれた夫が
同じように外を眺めている。

「いよいよ今日やなあ。」

心なしか彼は嬉しそうである。



そりゃそうであろう。
あと何時間かすれば可愛い我が子とご対面なのである。

しかも、なんの苦痛もなしにである。

いいよなあ(笑)。



おお、そうだ、今日1日私と身体を交換してみないかね。

そうもちかけたならば、夫は

「おぅ!今日1日交換したったっても ええでぇ」と
妙にご機嫌である。

馬鹿馬鹿! (*`◇´)





諸々の準備を終えて いざ病院へ。

私の荷物を全て持ってくれてる夫が 私の前を歩いて行く。
のっしのっしと 病院内の階段を歩いていく。






その後ろ姿を見ながら 

この人と出会った不思議、
そして今日、この人の子供を産む不思議さをふと思った。







□■□■□■□■□■□■







早速陣痛室に通され、準備。

看護婦さんたちは それこそ毎日同じ事をしているのだから
手順も何もかも分かってるのだろうけれど、
こちらは生まれて初めてのことばかりだ。

戸惑うばかりの私に 
看護婦さんたちはてきぱきと指示を与える。


点滴の針も、なかなか痛い。

思わず「痛い!」と言うと
「これからもっと痛い思いをする人が
 何を言っているんですか!」と看護婦さんに怒られる。

うう。
患者を怖がらせてどうする。
私があなたの立場だったら もっと言い方を変えるであろう。








午前8時半、陣痛促進剤開始。

最初の2,3時間は「楽勝、楽勝」などといって 
冗談などとばしていたが
時間の経過と共に ひよきちの顔から笑いが消えていった。






うー。  
出産って こんなに痛いものなのか?





おお。いかんいかん。
痛みに集中していてはいけない。

そうだ、こういう時にこそ写真を撮ろう、写真を。
母に頼み、陣痛開始後 4時間経った頃の様子を撮ってもらった。







・・・そうこうしているうちにも、
痛みはどんどん激しくなってくる。

何か しがみつけるものはないかと思い、
そばにいた妹の手を必死になって握っていた。





夫は「○○ちゃん、大丈夫か?」と泣きそうになりながら
私の左手をぎゅっと握りしめている。

・・・夫よ。  そ、その左手はだね、 
今 点滴の針が刺さっているのだよ。 

あまり そないに強く握らんでくれたまえ(笑)。
気持ちは嬉しいが。






点滴のせいで いつしかひよきちの左手は 
グローブのようにパンパンに腫れてしまっていた。

この痛みに いつまで耐えていればよいのだろう・・・。
もう、とうに時間の感覚などなくなっていた。







お昼過ぎ、私の様子を見に来てくれた看護婦さんが
おなかの赤ちゃんの心拍数を見るなり 
突然(!)血相を変えて
バタバタと廊下を駆けていく。

数分後、これまた血相変えた先生が陣痛室に駆け込んできて

「○○さん!赤ちゃんの心拍数が落ちています!
 今から緊急の帝王切開です!」






・・・・一瞬、頭の中が真っ白になった。







「えーと、ちょっと待って下さいよぉ」などと
頭の中を整理しようとしているひよきちを 
数人の看護婦さんたちが直ちに抱え込み、手術室へ。

手術室の中では 着々と準備がなされていた。
まわりの看護婦さんたちだけがバタバタと走り回っていて
そんな中 私だけが静かに手術台の上に寝かされていた。





・・・そんな私の頭の近くを
1人の看護婦さん(らしき人)が鼻歌を歌いながら 
通り過ぎていく。

なんと!
これから手術が行われようとしているときに鼻歌とは!





でもね、その時 ひよきちは思った。
私の出産なんて、まわりの人たちからしてみれば
所詮他人事なのだと。

まあ、当然といえば 当然のことであろう。

これは まぎれもなく私の出産なのだ。
その私が頑張らずして どうしてこの先、無事出産ができようか。
そう思ったら、不思議と肚がすわってきた。






どうやら おなかの赤ちゃんも落ちついてきたようで、
いったん陣痛室にもどされる。

もう 陣痛開始から6時間経過していた。
痛みは相変わらずだ。








その痛みの中で私は思った。
・・・・そ、そうだ、確か先輩方が言っていたよなぁ。

障子の桟が見えなくなった頃に生まれる」って。

これを格言その1.と名付けよう。






そこで私はおもむろに 
「ここって、障子あるかな?」と 妹に訊いてみた。

妹は 一瞬、 「は?」と きき返し、
なんでこんな時にまで冗談をかまそうとするのだろう、 
というような目で私を見つめていた。





・・・妹よ、これは冗談ちゃうねん。
障子のな、桟がみたいねん。

そう言おうと思ったが、
さすがにこんな所に障子があるわけもないと気付き、黙っていた。




やはり極度の痛みのせいで 判断力のようなものが
鈍ってきているのかもしれない。
ただでさえ鈍いひよきちが これ以上鈍くなってどうする。










そこで頭のすみっこから またもや取り出したるは第2の格言。

「壁をかきむしりたくなるくらいの痛さ」
これくらいの痛さが到来すると、生まれるのだという。

おお、壁か。  壁なら なんぼでもあるぞ。
この陣痛室にも。





私は何やら頼もしい思いで その部屋の壁を見上げた。
よおし、この壁をかきむしりたくなる位の痛みが来れば
この出産も終わりを告げるのじゃな。    ふっふっふ。







ふと時計を見ると もう夕方の6時半。
そういえば 先程この部屋にも夕飯が運ばれてきたけれど、
とても食べる気になれない。

痛みに長時間耐え続けるというのは 過酷なものだと思い知った。







・・・そうこうしてるうちに痛みの度合いも強くなり、
時間も2分間隔に。

痛みには波がある。
徐々に押し寄せてきて痛みも頂点に達すると、
また波のようにすーっとひいていく。
この繰り返し。







痛みにばかり集中していたら辛くなるので 
私はひたすら他のことを考えていた。

はて、なんで1分は60秒なのだろう。
これって地球の自転と関係してるのか?






私はまたもや妹に
「1分が60秒というのは 地球の自転と何か関係あるのかな?」と、訊いてみた。

妹は・・・・こんな時に 
そんなあほなことを訊いてくる自分の姉に対し 
「そうじゃないの?」と至極簡単に答えてくれた。







・・・・なんでカバはいつも水の中にいるんだろう。
なんでカーテンは「カーテン」という名前になったのだろう。






・・・そんなあほなことを考えている自分にほとほと嫌気がさし、
今度は百人一首のことを考えてみることにした。

「瀬をはやみ・・・」

うう、あかん。
その雅な世界と、今の私の状況とでは余りに違いがありすぎる。





おお、そうだ、歌を歌おう。
歌は気分を明るくしてくれる。
そう思い 自分の好きな歌を歌い始めたが、
痛みのため 息が続かなくなり これについても断念。









そんなこんなでついに夜の9時を過ぎてしまった。

痛みについては、相当痛いことにはかわりはないのだが、
壁をかきむしるほどではない。





看護婦さんからは
「いいですか?我慢できないほどの痛みが来たら
 すぐ呼んでください!」と
何回も言われてはいるのだが、まあ今のところ我慢はできるし、
第一壁をかきむしるほどの痛みはまだ到来していないのだ。


痛みの波が繰り返し襲い、その度に
「こ、これって壁をかきむしりたいほどの痛み?」と
自問自答しながら 時間は刻々と過ぎていく。











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Last updated  2016.02.01 10:33:14
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