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ひよきちわーるど

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2005.08.05
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カテゴリ:I love family

お産は難航していた。

骨盤が狭い上に、赤ちゃんの頭が大きいので
なかなか出てきてくれないのである。

難産になるとは聞いていたが、まさかこれほどとは・・・・。

酸素マスクをあてがわれ、
そばで看護婦さんが何やら叫んでいる。
だけどひよきちには聞こえないのだ。





そのうちに、夫の声が聞こえてきた。
不思議と彼の声だけは はっきりと聞こえるのである。

「○○ちゃん、頑張れ!」

こんなに必死になっている夫の声を聞いたのは 初めてだった。




彼はいつも穏やかな声で話し、
大きな声を出すということはほとんどない。
その彼が今は私の耳元で 大声で叫んでいるのである。

愛する人の声というのは実に不思議だ。
どんなところにいても、
どんな状況であったとしても ちゃんと自分の耳に届く。







・・・・大学3年生のころ、クラブ合宿があり
私は用事があって集合時間に大幅に遅れてしまった。

予定時間を3時間ほど過ぎて合宿所に到着したのだが、
あたりは もう真っ暗。

どこをどうあるいて 
建物の入り口にたどりつけばよいのか分からなかった。





その時、誰もいるはずのない暗闇の中から 
当時クラブの部長だった夫の声がしたのである。

「○○ちゃん、こっち、こっち」





その声を聞いたとき、とても安心し、
この人の声に付いていけば大丈夫だと思ったことを覚えている。

もちろんその時は その声の主が夫だったとは気付かなかった。






夫は いつまでたっても私が合宿所に来ないのを心配し、
ずっと外で待っていてくれたのだ。
このことも、夫から直接聞いたのではなく、
クラブの人から聞いたのである。





思えば 彼はとても不思議な人であった。

彼と初めて出会ったのは大学の入学式の時。

初めて会うはずの人なのに、何だかとても懐かしかった。
懐かしくなるのと同時に 私の心の中はまるで暴風雨。




人との初対面で 
こんなに心が荒れ狂うのは初めてのことだったので
私は何やらとても気分が悪くなり(笑)
そうだ、私はきっとこの人のことが嫌いなのだと思いこんだ。





何だかちょっと田村正和に似てキザに思えるし
(当時のひよは正和さまのことが大嫌いだった)、
笑うときだって「がはは」とは笑わずに 
「ふっ」と笑うだけだし。






それから半年、
彼に会うたびに情緒不安定になるというか、
心の平安が乱されるというか、
つ、つまり ひよきちは彼の前に出ると
非常にナーバスになったのである。

心の鎧というものがなくなって 
とても素直になってしまうというか、
心が透明になるというか
そういう感覚だったのである。

殊に彼の眼を見ていると 
何だかずいぶん前にも こうやって 
この人の目を見つめていたような気持ちがして
何だかとても懐かしくなってしまうのだ。



うう。
あかん。

何だか知らないけど 
この人のそばにこれ以上いたら だめだ。
そう思って 私は彼のそばに近づかなかった。



ひよの心の中では
彼はもはや ひよの心を乱す危険人物となっていたのである。



その時には、それが恋だとはまだ気付かなかった。






・・・・ふと時計を見れば 日付も変わって8月11日。

いつしか きれいに編み上げられた三つ編みもバラバラになり 
カチューシャも何処かにとんでしまっている。

お産はまだ続き、
分娩室の外にいるであろう両親のことが気になり始めた。
いつお産が終わるか分からないので 
ひとまず両親には家に帰ってもらうことにした。







後に残されたのは 
とうとう 私と夫2人だけである。

「○○ちゃん、頑張ろうな」


差し出された夫の手の温もりが 嬉しかった。






□■□■□■□■□■□■□■








午前1時過ぎ。

先生によると もう赤ちゃんの頭が見えてきているという。

夫が大声で
「○○ちゃん、聞こえるか?」
「頭見えてきたで!」
「もうすぐや!見えるか?」

何回も私の耳元で叫んでいる。








人の声というものは なんと力強いものだろう。

途中何度も力つきそうになったけれど
その度に 夫のこの声に励まされて頑張ってこれた。








午前1時6分。
ようやく みゆきち出産。

全身 汗びっしょり。







みゆきちも長時間大変だったらしく
産声に元気がない。
実に しおらしい声だ。

生まれたばかりのみゆきちを 両手に抱く。
まだへその緒も付いたままだ。

私の両手には血圧計のバンド、点滴の針があって
思うように抱っこできない。
それでも嬉しかった。







みゆきちは 
何かをさがすように しきりに手を動かしている。
何もかもちっちゃい。






これが我が子か・・・・・。

何やら形容しがたい感情がわき起こってきた。

嬉しさと感動、
責任感、安堵感。

そばでは夫が「ありがとう、ありがとう」と
泣いている。








みゆきちを産湯につからせるということで
看護婦さんに ひとまず預ける。

その間も 夫は泣きながら私の髪を撫でていた。







やがて 産湯につかったみゆきちと再び対面。

さっきは分からなかったが、なんて色の白い赤ちゃんなんだろう。
唇は真っ赤。



まるで お化粧してもらったのかしらと思うくらい
きれいな赤ちゃんだった。













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Last updated  2016.02.01 10:23:29
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