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ひよきちわーるど

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2008.09.04
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カテゴリ:万葉の花

萩に次いで 好ましく思う花は藤袴かも知れない。

目立たぬ花であり、名前を聞いたことはあっても
実際の花の姿を知る人は少ないのかも知れないと思う。




この花に顔を近づけると甘やかな香りのすること
控えめで慎ましやかな花であること

蕾のうちに摘み乾燥させて部屋の中につるすと
実によい香りを放ち 防虫香にもなること

・・・このようなことを知ったのは今から7年前のことである。




現在、私の家には庭らしきものはなく
辛うじて小さな花壇があるに過ぎないのだけれど
その、小さなスペースに藤袴を植えている。

広い庭があったなら、それこそ萩や薄、藤袴を植えて
武蔵野のような風情を楽しんだのだろうけれど。




・・・先日、藤袴の苗を見てみたらば ほんの小さな蕾を付けていた。
こんな小さなスペースで、隣の家との境の陽も射さぬような場所で
藤袴は蕾を付けてくれたのだった。

彼女に対し、思わず「頑張って」と声をかけたくなった。





・・・・藤袴には 思い出がある。

そう多くもない思い出ではあるのだけれど
この花は、失意の底にある私をいつも励まし続けて来てくれた。

この花は本当に佳い。
自己主張などせず、いつも傍らで微笑んでいる。

その優しい香りで包んでくれる。





ここに掲げるのは6年前の日記である。
丁度これから冬にはいるという時期のことだった。

とても悲しいことがあり
少し涙ぐみながら庭の花々に向かっていた日の日記である。





……………………………………………………………………………


           秋の名残に     2002.10.31



・・・心を空っぽにする必要があると思い、庭に向かった。
ここ半月ほど何も手を加えていないので、ちょっと荒れている。


もう 秋も終わりなのかなと思う。

苧環の葉も黄色くなって、レモンバームも勢いがなくなってきた。
この前植えたばかりのタイムも寒そうにしている。
木槿も、女郎花も もう終わった。

今は藤袴だけが元気に咲いている。



冷たい空気の中、マスクをして草を抜き始めた。

いつだってそうだ。
何か辛いことがあるたびに、こうやって土に向かう。
心で花々に話しかける。


藤袴は 実に生命力旺盛な花だ。
これからの季節、ただ寒くなるだけだというのに、
これからも花を咲かせようと 蕾を付けている。

根元を見ると、小さな芽が次々に出てきている。
大きな株になるだろうなと、何やら頼もしくさえ思った。





中学生の頃 新川さんの文章に触れ花々が好きになった。
どのような文章だったかはっきりとは覚えていないけれど、
花を心から愛する気持が伝わってきて
人というのは花に癒されることもあるのだなと思ったものだった。

高校生の頃、通学途中に黄色の菜の花畑があり、
そのあたたかな色に励まされたこともある。

社会に出てからは 何かある度に高原に行き、
風に揺れるコスモスをただ黙って見つめていたこともあった。





花は何も言わない。

けれど向かい合っていると、
花というひとつの生命体に勇気づけられている自分を はっきりと意識する。

花も生きているのだ。
心を持っているのだとさえ思う。
いつか読んだ「播磨灘物語」の中にもそういうくだりがあった。


花々に心を癒されながら
そして何より 楽天の方々に助けていただきながら
少しずつ自分を取り戻しつつある。






庭の中で1番好きな白萩も盛りをとうに過ぎてしまった。
黄色に色づき始めた葉を見ながら枝を剪定していく。

全ての枝を剪定し終えたとき、その根元に水仙の葉を見つけた。
ほんの少しだけ顔を覗かせている。

・・・ああ、今年も咲いてくれるんだね。
私は あなたの姿と香が大好きだよ。





植物は物言わぬかわりに 
その姿でもって季節の移り変わりを教えてくれる。
そして その変化に淀みがない。
淡々と移り変わっていく。

人も 花々も この世界も全て 
刻々と過ぎていく。

自分を取り巻くものも
そしてやがては この自分自身も変わっていくのだ。





夢中になって作業していたため、
夕暮れと共に 空気が一層冷たくなってきていることに気付かなかった。

部屋に戻ろうとして藤袴のそばを通りかかったとき、
その淡い香に気が付いた。
まるで蘭のような香だ。


・・・あなたはこの1年近く、私のことを見ていてくれたね。
この1年の間にいろいろなことがあったのだよ。




花に語りかけてる自分に何やら気恥ずかしさを感じ
そのうちの3本ほどを手折って部屋に戻った。





部屋の片隅にその花を吊す。

乾燥させるとその香は一段とつよくなり
いつまでも褪せることはない。






ただ、この1年半の出来事を 
この花の中にとどめておきたかった。

・・・もう二度と逢えない人が
思い出の中で 優しく手を振る。









独り その淡い香の花を見上げていた。


消えることのない思い出を
胸にとどめるために。





そして

音もなく過ぎていく
この 秋の名残に。











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Last updated  2015.03.23 13:20:25
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