映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。ノルディック複合、銀メダル獲得ですね。荻原さんは号泣だったとか。また沙羅選手のインタビューをしたNHKの工藤アナウンサーや原田さんの解説にも称賛するコメントがあがっていました。オリンピックが始まるとやはりその話題ばかりのぼりますね。

さて、こちらは宮部みゆきさんの新作です。

ペテロの葬列
funeral parade of St.Peter
宮部みゆき

　イエスの使徒ペテロは師から「あなたは鶏が三度泣く前に私の事を知らないと言う」と告げられ否定する。しかし実際に尋ねられた時彼は「師を知らない」と言い、直後に鶏が泣く。この後ペテロが辿った経過を子供向けの聖書では詳しく語られないが、彼は逆十字架にかかり自ら命を絶つ。

　主人公・杉村三郎は、巻き込まれたバスジャック事件で、悪を為したが悔い改めた人物と知り合い、同じような道を辿ったペテロを思う。その人物が悔い改めたことを三郎は非難しない。三郎は、人が再生に向かうことを否定してはいないのだ。三郎が非難するのは、彼の悔い改め方である。結局彼は償うための手段を行使する中で、彼が最も忌み嫌ってきたテクニックを使ってしまった。それは意識するとしないとに関わらず彼の身にしみついていたテクニックであり、他に償う方法があったのではないか、と思えたからだ。

このように、どこまでも常識人である杉村三郎は、信頼できる語り手だ。大企業トップの女婿の地位にありながら、権力も財産も欲せず、妻と娘との暮らしに満足している。様々な事件に巻き込まれ、時には厳しい判断を迫られるが、常に人として正しい選択をしてきた。だから読者は、そんな彼の視点で語られるシリーズを、常に安心して見ていられた。例えどんなことがあろうとも、彼だけは嘘をつかないであろう、間違った決断をしないであろう、と思っていたからだ。だが、そんな彼にも嘘はあった。そしてその嘘は、彼自身が自覚しない形で周囲に悪を伝播させ、思いがけない結果を彼にもたらす。彼自身の身に降りかかる不幸は、その嘘故に彼が裁かれたかのようにも感じられて、好人物である彼をそこまで追い込むのか、と作者に対して非難めいた驚きを感じる読者もいよう。しかし作中に登場する『指輪物語』の主人公のように、愛すべき人物だからこそ、作者は三郎に試練を与えたのだ。滅びの山に指輪を捨てに行ったフロドのように、三郎は幾多の試練を乗り越え、おそらくは示唆されたように探偵としての人生を歩むのだろう、それが彼の為すべきことであるならば。
　

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