映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさん、こんばんは。
誰でも知っている作家に意外な面があったとしたらどうでしょう？

本書はそんな発想から書かれた作品です。

誰でもない彼の秘密
Nobody’s Secret
マイケラ・マッコール

　原題は「Nobody’s Secret＝誰でもない者の秘密」である。だが邦題は「誰でもない」に「彼の」の一語を加えているため、本来とは少し異なる意味になっている。「Nobody」は、「彼」ともう一人、「Nobodyになりたかったある少女」の二人を指す。その少女とは、誰もが知る詩人エミリー・ディキンソンだ。

　結婚もせずほとんど生家を出る事なく隠遁生活をした彼女は今で言うヒッキーだ。身体は狭い家の中にありながら情熱的な詩を書き、ダッシュの多用や型にはまらない大文字の使用、独特の比喩表現でオリジナリティ溢れる世界を築き上げた。そのアンバランスな部分はどこから生まれたのか？確かに興味深いテーマだ。歴史上の有名人（特に女性）が「そうなる前の姿」を書くことを好んだ筆者が彼女に惹かれるのもむべなるかな。15歳のエミリーは、よく知られているイメージを突き破るような、強烈な個性を持って登場した。

　二度しか出会ったことのない若者が自分の家の池で亡くなるという事件に遭遇したエミリーは、病気がちな母親からの束縛や、名家の娘として自分をたしなめる周囲の声を物ともせず、捜査活動を開始。病弱傾向があるにもかかわらず深夜の事務所に忍び込んだり、危ない大人の遊び場に飛び込んだりと実に大胆だ。彼女をこんなに大胆にした動機は、古今東西ティーンの女性を行動的にするあの最強の動機、恋だ。ミステリ部分はやや甘めで「いくら名家の娘とはいえそんなに簡単に彼女にぺらぺらと話すか？」という位、関係者がすらすらと彼女の前に道を開いてくれる。このまま事件が無事解決していれば、成長した姿は「神秘の人」「白衣の女性」にはとうていなっていないはずだが、現実は皆が知る通り。そこで、というわけで、現実とのつじつまを合わせるために、彼女の人生の分岐点に架空の事件を盛り込んだアイディアが秀逸だ。全くディキンソンの詩のスタイルを知らない読者であってもYA小説として楽しめる内容である。幅広い読者を獲得できるのではないだろうか。
　



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