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May 28, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日は子供の運動会だったという方も多いのでは?
午前中曇りで午後は晴れましたね。

本日紹介するのはディストピア小説です。


The Well
キャサリン・チャンター

「〈泉〉はふたたび、わたしを手にいれていた」

 まるで、デュ・モーリアの『レベッカ』のような一文で始まる小説の語り手は、自宅監禁されることになった“わたし”=ルースだ。干魃有事規制法で行動が制限され、〈無個性〉〈3〉〈ボーイ〉と名付けた男たちに監視される。イギリス全土で異常な干魃が続いているにもかかわらず、“わたし”がいるこの農場にだけ雨が降るからだ。

 作品自体は旧約聖書のアダムとイブの『楽園追放』に準えられている。ルースと夫マークはロンドンでいわれなき罪に苦しみ、再出発の地を求めてきたアダムとイヴ。彼女と夫が偶然買った農場が、英国中が旱魃に苦しんでいた中、汲めども尽きぬ泉がある、現代のエデン。泉とルースを聖母のように崇める修道女達の一団が蛇。さて、禁断のリンゴは?という話になるが、本作は「イヴ(ルース)がアダム(マーク)に何事かを勧めて楽園追放の引き金となる」というより、蛇そのものの存在が一家を引き裂いてしまったと言える。
 
 ちなみに本作も『レベッカ』同様、“わたし”による一人称語りだ。だが、この“わたし”が少々厄介だ。なぜならば、ルース自体も所謂信頼できない語り手にあたるからだ。〈泉〉にいた頃から、無意識のうちに錯乱して気を失ったこともあり、殺人事件の際の記憶も曖昧だ。おまけに外界との接触は禁じられており、家族とは事件以来絶縁状態。頼れない主人公による、たどたどしい記憶を辿る旅の果てに、事件の全貌が明らかになるため、イライラしてくる読者もいるはずだ。

 事件の真相を暴く事も作品の主眼であるが、裏テーマは「現実に楽園が現れたら人はどう反応するのか?」ではなかろうか。聖書では、エデン以外の場所も、アダムとイヴ以外の人も存在しなかった。しかし現代の楽園は、二人もただ無自覚に恵みを受けてはいられない。上空をヘリが飛んできたり、政府からの無数の調査依頼が届いたり、外界が楽園に干渉してくる。それも、報道機関や警察、政府関係者、宗教者など、世間では善と看做される者ばかりだ。誰もが楽園を求めているというのに、いざ現れればそれを疑い、何らかの理由をつけずにはいられない。そして楽園の果実を享受する者達を排除する事によって、自らの不平や不満を解消しようとする。そんな人間に、果たして神は楽園を手放しで与えようか。


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最終更新日  May 28, 2017 02:41:56 AM
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