映画・海外ドラマ・本　ひとこと言いた～い

みなさんこんばんは。バスケットW杯で日本が勝ちましたね。今日も河出書房新社から出ている世界探検全集から紹介します。

恐竜探検記 (世界探検全集 11)
On the Trail of Ancient Man
ロイ・チャップマン・アンドリュース
河出書房新社

　2021年に最大級のトリケラトプスの骨格標本が、8億8000万円で落札され、話題を呼んだ。もちろん、あんな大きなもの、フツーの家には置けない。落札者の名前は公表されていないが、購入したのは、博物館ではない。これまでにも恐竜の化石を入手した富豪は、庭に化石用の特別の建物を作ったり、らせん階段の下に組み立てた化石を置いている。購入者も、おそらくその類だ。

　組み立てや修復の課程を経て高値で取引され、貴重で見栄えのよい化石が愛好家の手に渡るケースが増加し、博物館関係者ら研究者には手が届かない。しかし、発掘者が得る報酬は、最終的な価格のごくわずかでしかない。それなのに、そう、発掘作業は金が要る。

　カネに困る事情は昔も同じで、ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館が組織した中央アジア探検隊のリーダー、ロイ・チャップマン・アンドリュースも、資金集めに奔走した。当時は第一次大戦後、J・P・モルガンやロックフェラーが寄付に応じてくれたが、NY市民も協力した。

　当初の目的は原題通りOn the Trail of Ancient Man＝古代人類の遺跡を見つけることだったが、彼らが見つけたのは「燃える崖」と呼ばれる一大化石産地に広がる恐竜の化石だった。映画『ジュラシック・パーク』ファンなら泣いて喜びそうな恐竜や卵の化石が見つかり、恐竜は卵から孵化する-つまり巨大な爬虫類の集大成であることがわかった。また、化石の発掘だけでなく、地質学や考古学もカバーする学者たちを動員していたため、充実したフィールドワークが行えたことも大きい。

　それにしても砂漠というのは発掘者泣かせだ。クリスティのミステリ小説にも、砂漠での発掘作業が登場するが、砂嵐は起こるし、一瞬で地形は変わる。すぐ砂まみれになり現場保存が難しい。荷運びに使えるラクダはいくらでも欲しい。ちょうど同時期に同地区を探検していたスウェン・ヘディンの『ゴビ砂漠探検記』では、探検を終えて戻るアンドリュースが63頭のラクダを譲ってくれたという記述がある。サバトモ尊し。

　『ゴビ砂漠探検記』も本書の探検も、舞台となる中国がきな臭くなり始めた頃に探検を終了する。まあ、これまでに中国は散々西欧にかっさらわれてるので警戒されるのも無理はない。第一次大戦後の好況から第二次大戦の戦乱まで、ほんのわずかな期間を狙って行われた、奇跡的な砂漠探検記。

​
恐竜探検記 （世界探検全集） [ ロイ・チャップマン・アンドリュース ]​​楽天ブックス​