カテゴリ:弁護士としての経験から
現在、消費者庁で霊感商法等の悪質商法への対策検討会が立ち上げられて議論が進められており、私の方でも検討会の議事録に目を通してみました。
霊感商法については、消費者契約法4条3項6号で定められ、契約の取消しの理由になると定められています。 第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。 しかし、第2回議事録の5頁にあるとおり、霊感商法に関するこの規定がうまい具合に救済に役立った事例は見当たらない、と言うことでした。 残念ですが、私個人としても「でしょうね」といったところです。 私の頭でも、「霊感商法の取消権をくぐり抜ける手法」というのはいくつも浮かんでしまいます。 この点について、そもそも法律がマインド・コントロールで支配関係に組み込まれて具体的に不利益がどうだの利益がどうだのと言う理屈で勧誘する必要すらない状態の被害者を想定していない、と言う指摘もありました。(第2回議事録7頁、菅野志桜里委員) まことその通りであると強く賛成するところです。 ただ、おそらく委員の皆さんが意識していつつも強く触れていない原因として、「霊感その他による知見として不安を煽って、不利益を回避することができる旨を告げる」ということを事業者が行ったことは、消費者側が立証せよということになっているし、そこについて消費者側に好意的な裁判官ばかりではないと言うのが大きいのではないでしょうか。 現実の裁判を想定したとき、霊感その他で不安を煽られたんだ!!と言っても、「そんなこと言ってませんよ」としらばっくれられれば、水掛け論になって終わりです。 「録音すれば」と言う意見もあるかも知れませんが、録音してくるような警戒心の強い人達を霊感商法は狙ってきません。 例え最初は怪しくないか?程度に思っても、むしろ、録音なんかしないほどに信頼してくれる人を狙ってきます。 さらに、マインド・コントロールがなされてその影響があったようなケースの場合、マインド・コントロール下にあったことまで証明しなければならず、勧誘の瞬間だけ録音していても「むしろ霊感商法していないことの証拠だろう」と逆用されてしまうのです。 そんな状況では、依頼を受けた弁護士だって、「霊感で不安を煽られた」と被害者がいくら言っても、「私はあなたを信じるが、裁判官を説得しなければならない。証拠があなた自身の証言だけである以上、否認されたら勝つのは非常に大変だ」と言うことは伝えざるを得ません。 成果を非常に見込みがたい裁判を煽って、費用を取るだけ取って、全く成果なし、と言うのではそれこそ弁護士による消費者被害の上塗りです。 私自身、霊感商法でこそないものの、悪徳業者の「絶対得するよ」勧誘に対して、消費者契約法で一応勝てた(厳密には勝訴的和解)と言うケースはあります。 守秘義務にも関わるので具体的に何をやっていた業者かは秘匿しますが、業者サイドは依頼者に、「絶対得するよ」で依頼をさせ、更には「もっとお金出さないと成果でないよ」と私の依頼者を煽って全く得する見込みのない依頼にお金を吸い上げようとしていました。 そして、いざ裁判になると「得をしない場合もあることはきちんと説明した」「重要事項説明書も渡して書いてもらった」としらばっくれ、端金で和解しないかと電話をかけてくる始末でした。 もちろん、そんな提案は蹴飛ばしましたが、私自身も「実際勝てるかどうか分からない、端金でも取った方が依頼者の利益なのでは…」という心の中に湧き上がる私自身の声とも戦わなければいけませんでした。(依頼者は、失礼ながらあまり自分の意思がなく、私に二つ返事で従ってしまうような方でした) 非常に幸いなことでしたが、この業者は、全国から被害体験談が集められ、同様の勧誘をしていたのが幅広く把握されていたことが判明しました。(具体的な内容は明かしませんが、消費者被害の被害体験談は集積されている場合があるのです。) 把握されていた被害相談の大多数がモロに依頼者への勧誘形態と一致していた上、依頼者からの聞き取りの後に手に入れた情報だったためにこちらで情報のすり合わせ疑惑を潰せたこと、成果が出る見込みがなかったのが単なる不運ではなく理の当然であることが裁判官にも一目瞭然であったことという僥倖にも恵まれ、裁判所も流石に腰を上げてくれました。 消費者庁も、被害報告の多さからこの業者には後に注意喚起を出すに至り、最終的に業者は潰れました(地下に潜っただけかも知れませんが…)。 逆に言えば、霊感商法に限らず、消費者契約法を頼った消費者被害案件というのは、これだけの僥倖が集まってようやく勝てるような件です。 しかも、勝訴的和解にもちこむに際しても、ある程度の減額前提であり、被告からの勧誘に応じてしまった件であるにもかかわらず、裁判官からは「原告も欲張ったんでしょ?」等と心ない一言が飛んでくる始末でした。(流石に原告に直接言ったわけではありませんでしたが) 実際、消費者にも落ち度があったとして過失相殺をかけてくるような事案もあります。 消費者保護の必要性が訴えられ、中学高校の家庭科の類でだって消費者保護の仕組みが教えられている状況下であっても消費者サイドの欲張りにも原因があって、その結果としてある程度金額が減っても我慢せいやというホンネを持っている裁判官もいるのです。 霊感商法の場合、成果が出ないのが元々当たり前なので、私が扱って勝てた事案のように「成果がないのが一目瞭然であること」は全くプラス材料になりません。 そうすると、被害体験談が日本中から集まっていても、勝てるとは限らないと言わざるを得ないのです。 零細な霊感商法でそもそも被害体験談自体が少数の場合や、一個人が運営している霊感商法のため消費者契約法が適用になるかも疑わしいケース、教団がスケープゴートに一信者を立てたので、同種被害なのに体験談と事件との関連性が分からずただの別事件になってしまうことだって起こりえます。 そうすると、霊感商法に引っかかった!!と言ったとして、どんな勧誘をされていたかの段階でつまずいている事件が実際には多いと思われるのです。 紀藤正樹弁護士は検討委員会の資料で実例を多数出していましたが、残念ながらそれらも奇跡的につまずかなかった事件ばかりが検討の対象となっていることは否定できないでしょう。 (そんな中で成果を出している紀藤弁護士には頭が下がるばかりです) もちろん、不存在証明を求めるわけにも行かないでしょうから、消費者側がある程度の立証をするところからスタートすること自体はある程度やむを得ません。しかし、 「全て挙証責任は消費者側なので、消費者側で立証せよ。宗教団体側には何も聞かない」 と言うような裁判官の意識があるならば、それは結局霊感商法の後押しとなる結果を招きかねないのです。 法制度の立て付けはもちろん重要なことではあるのですが、本当に霊感商法を問題視するのであれば、裁判における挙証や事実認定のあり方について裁判官の意識を変えていくというのも必要なことになるだろうと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022年09月16日 16時39分52秒
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