#0066 ねぇ、コトリス。(中編)■1964~2008年■16~59歳
#0066ねぇ、コトリス。 (中編)■1964(S39)~2008(H20)年■16~59歳前回の日記~病院の出口の、すごいすごい、から ほんの30秒ほど後の話です。 なのに、もう2週間くらい過ぎた気がするのは コトリスを探すのにちょっと手間取ったから。 帰り道は 赤さびの陸橋を半分まで登り切ったら 後は天国の下り坂です。 自転車は加速を付けて、5秒、10秒、一光年、 弱虫ハンドルが でこぼこの敷石でがたがた震え出すから 1.5m横をうなる4tトラックに 心臓が転校生みたいにおじけづいて。 すると、ダウンジャケットの肩に ねぇ、元気、元気! って…コトリスが。 43年前の高校2年生の僕の夏の上に 突然舞い落ちてきた 背中に羽の生えたフツーのリス。 そいつが 59歳の夏の入り口の陸橋の上にふわり、 また降ってきて。 40年ちょっとの僕の時間が メビウスの輪みたいに きれいにねじれて繋がりそう。 だから、もうヒコーキみたいに 風を突き抜けるまで ぶるぶるブレーキをがまんします。 僕がどんどん 世界に こぼれ出していきます。 言葉をあれこれ結んだり破いたり 色やカタチを画用紙の上にばらまいたり、 遠い空の青い天井を口を開けて ぼ~っと覗きこみながら 僕は空想の王になる。 だけど 本当に、この体のまま飛べたら・・ 空に浮かぶことができたら・・ もっともっと自分が解き放たれるに 決まっている。 夏がすう~っと自分の脇の下をすり抜ける 冬の終わりの午後や プールの底から水面にビュン!と浮かび上がった 中学校の夏休みの匂いとか、のスキマに 宇宙が 本当はずっと前から隠れているにちがいない。 一切がぎゅうって一瞬にひしめき合って そのまま彼方まで吹き飛ばされる場所。 たとえば、砂時計のくびれ。 きっと、そこで 浮き上がるのだと思います。 ほんの少しだけど。 世界とか自我という かんちがいの重力から。 永遠の正体っていうのは、 そんな浮力のことじゃないかな って最近、感じています。