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舞台『エンロン』 2012年4月上演
ルーシー・プレブル作 演出デヴィット・グリンドレー 翻訳常田景子 主な出演 市村正親 豊原功補 戯曲『エンロン』は、全米7位のガス・パイプライン会社エンロンを破綻させたジェフ・スキリング社長の悪の魅力を描いた作品です。 ダンスシーンやビデオ映像が挿入されるなど、魅力的な内容です。 スキリングを演じる市村氏が素晴らしいです。 英国人のプレブル氏はまず英国の上演で成功し、ブロードウェイに進出したそうです。 私はドキュメンタリー映画『エンロン』は見た事があります。 個人的には、エンロンがカリフォルニア州の大停電事故に出した「電力価格の上昇で利益も上昇」の理屈が全く理解出来ませんでした。 私は単純な女なので、大停電で売り損なった利益を、価格の上昇で補填出来るというお話を理解する能力がありませんでした。 舞台の冒頭のパーティーシーンは、『ファウスト』の第2幕の、王宮にファウストが現れるくだりにとても良く似ています。 ファウストは話術でまず王を虜にし、次に彼の言葉に疑問を感じる王妃の口を色仕掛けで封じます。 お芝居では王は後にスキリングを社長に指名するケネス・レイ社長、王妃はスキリングと性的関係を持つ女性幹部に見立てているようです。 悪魔はSPE(特別事業目的会社)で損失隠しの粉飾決算を勧める財務担当者なのかもしれません。 演じる豊原氏があたかも動いているランニングマシーンで走るように駆け足をする演技は素晴らしいものです。 戯曲には私がドキュメンタリー映画でスキリングの言葉として聞いた言葉が引用されています。 スキリングが娘に「現金の10億ドルを数えるには、不眠不休でやっても17年かかる」という台詞がそれです。 サイレント映画『グリード』で富くじで大金を当てたザス・ピッツが、夜寝る時に必ずお金を敷き詰めて寝るシーンを連想して気分が悪くなりました。 第2幕の見事なダンスシーンは、カリフォルニア州の電力自由化で停電が起こる度にそれを利用して利ざやを稼ぐトレーダー達の興奮を描くものです。 エンロン破綻前後のスキリングは自己矛盾の塊として描かれているようです。 娘に電話で「ママに株を全部売れと伝えて」と言いながら公の場では決して負けを認めようとはしません。 最後のスキリングの長い台詞には「私を閉め出す事は夢の種を殺すことだ」や「経済には必ずバブルが付き物だ」という言葉が含まれています。 彼は24年の禁固刑に服役していますが、米国の最高裁判所に上告中だそうです。 本の「エンロン」を斜めにいい加減に立ち読み誤読しちゃうケチンボなオバチャンは、「夢の種」はとても大切だと考えますが、「急いては事をし損じる」とも考えます。 夫と愚息によれば、え〜加減な第一印象で物事を決めつけるのが私の欠点だそうです。 私にはゲーテのファウストもあまり自分のやった事が悪い事だとは考えていないように見えます。 死んで悪魔が魂を取ろうとするとマルガレーテの魂が天国に導いてハッピーエンドです。 しかしお芝居には会社の破綻でスキリングを恨む従業員達が登場しますし、小ブッシュ大統領が多額の政治資金を受け取った事も示唆しています。 個人的には登場人物がかなり私の心の弱いところを反映しているようで、見終わってから妙に自省的な気分になりました。 もうすぐお盆だし、悪くないです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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