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一 夢 庵 風 流 日 記

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2006年12月24日
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カテゴリ:書籍
クリスマスですから


みなさま、年の瀬も迫ってきましてなにかと忙しい慶次です。 本日はクリスマス、

だからどうしたということで、まったく関係ない話を載せてしまうのが一夢庵風流日記。



「坊やお手々を片方お出し」とお母さん狐がいいました。その手を、母さん狐はしばらく握っている間に、可愛いい人間の子供の手にしてしまいました。


この一部分を読んで題名がわかった人、手を上げて。 そう新美南吉の「手袋を買いに」

雪との初接見のエピソードから、子ギツネのお手手が冷たくなってしもやけができたらかわ

いそうなので、手袋を買いに街まで行かせるというストーリーだ。 帽子の看板を見つけた

子ギツネは母ギツネの言われたとおり”トントン”と扉をたたく、ギッと戸が開き、店内か

らこぼれる照明のまぶしさに思わず間違えて人間の手ではなくキツネの手を出してしまう!


物語全編を通して柔和な表現がみられ、なぜだかあったかい気持ちになる作品だ。

子供が読めば子ギツネの視点で、母親が読めば母ギツネの視点で感情移入でき、親子で読む

題材としても秀逸であろう。 

では、この物語の核心はなんなのだろうか? 慶次はラストの「ほんとうに人間はいいもの

かしら。ほんとうに人間はいいものかしら」
という母ギツネのつぶやきであると思う。

子ギツネは本当のお金を渡したから手袋を買えたが、果たして帽子屋の主人の思ったとおり

木の葉で化かしたお金だったら子ギツネは手袋は買えたのだろうか?? 主人はこの寒さで

はキツネも寒かろうと思い、手袋を売ったわけではないのだ。ただ単に商取引が成立しただ

け。 そこには様々な経験をしてきた母と、まだイケイケドンドンの子との物事への反応の

違いがはっきりと描き出されている。 友人が鶏どろぼうをしたことにより人間に追いまく

られた恐怖をいまだにひきずる母、キツネの手を出しても親切に手袋を売ってくれたと感じ

る子、では泥棒をせず、お金で鶏を買っていたら人間はなにも言わず売ってくれたのか?

お金だけがコミュニケーションをとる媒介要因なのか? 同じく新美南吉の「ごんぎつね」

のラストでも、このコミュニケーションの重要性がカギとなっていると感ずる。


ほんとうに人間はいいものかしら・・・これに対する答えは読者自身が出すことになろう。

まあ、なにはともあれ無事に手袋が買えてよかったよかった。



余談だが「手袋を買いに」の後半には南吉の複雑な生い立ちが含まれているのだろう、人

間の母のやさしさが子守唄やこどもに投げかける言葉からにじみ出ている。 その言葉を聞

き母ギツネのもとに急いで帰る子ギツネ、いっぱいいっぱい抱きしめる母ギツネの描写は彼

がそうして欲しかった子供時代を彷彿させる。 継母に育てられた南吉が描くやさしく暖か

かったであろう実母への思いがこの作品を書かせたのかもしれない・・・。


P.S 逆説的に、前半のそんな恐ろしい人間の里に子ギツネをひとりで行かせた母ギツネの
    矛盾した行動は継母を表し、彼のこころの複雑な部分があらわれたと考えること
    もできますね。


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最終更新日  2006年12月25日 05時05分14秒
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