WEATHER REPORT 8:30
こちらの商品は輸入盤です。WEATHER REPORT/8:30 (2CD) : ウェザー・リポート/8:30それまでにも何度か聴いていたのだけれど、記憶に残っているのは制服を着た高校生たちがジンライムをすすりながら、京都の「しあんくれーる」で聴いたときのこのレコード。当時はたしかにまだアナログレコードであったに違いなく、リクエストして'NOW PLAYING'のアクリルスタンドに置かれたジャケットも31.5センチ四方のダブルジャケットだったはずです。アメリカではコンサートの始まる時間が8時半と相場が決まっていたために『8:30』と名づけられたWeather Report黄金期のライブアルバムは、夜空を背景にこれから始まるコンサートに胸をときめかせる男女が、開演前のホールの周りを取り巻いて待っているイラストがジャケットに描かれていていました。なんとなく大人っぽい、すこし背伸びしたくなるジャケットにやはりときめいたりしたわけで・・・。で、われら横浜から来た修学旅行の高校生たちは、さまざまに胸をときめかす諸般の事情をうっちゃってまでして、暮れなずむ京都の町を、買い物と称して新京極を通りすぎ、河原町にあるジャズ喫茶を目指したのでありました。その晩、高野悦子も聴いたはずのオーディオシステムから聞こえてきたのは、鳥がジャングルの木々の間をすり抜けながら飛ぶように、16分音符の間を舞い踊るBlack Market。ベースはウーファーからツイータまでも鳴らしてしまうジャコ・パストリアス・・・・しあんくれーるの夜からわずか7年後にライブハウスのガードマンにどつかれて不幸な死を遂げることになるこの希有な才能は、Teen Town ではドリブルで敵のプレイヤのウラをかいてボールを運ぶサッカー選手のよう。ウラをかかれたほうはあっと声を上げるまもなく、人間がほんらい持ち合わせているはずのリズムに抱かれ、それを彼のものとも自分のものとも判然としないままにウラをかかれた喜びに身を浸す。そんな感想を持ったかどうだか、旅の恥かもしれないけれど、すばらしいよ、ジントニックはサイダーみたいだし。Joe Zawinul:kb, Wayne Shorter:ts & ss, Jaco Pastorius:el-bそしてPeter Erskine:dr。たった四人なんだね。そのメンバーの誰もが`ふつうの弾き方’をしない、天才で奇人ばかりのユニット。それでもA Remark You Made では広い音楽的風景に、それぞれの音が息づいている。変態サックスとも揶揄されるショーターもここでは美しく朗々と、ノスタルジックに、やがて朝日の兆しに消えてゆく明けの明星のようにきらめくソロを聴かせる。電子楽器を変幻自在に操るザヴィヌル博士のピアノは3分8秒から、そしてショーターの牧歌をはさんで4分25秒あたりからドビュッシーが弾いているかのような色彩感が、ほかのメンバーの紡ぐ織物の上に輝く。ジャコはそこからエンディングへ至るまで、上行下行を繰り返す長いスラーにフレットレスベース独特の響きを湛え、深々とした二声のバッキングが静かに轟きながら暖かく音の風景の大地を形作る・・・ジャコはややもするとテクニックがとりざたされることが多いけれど、ほんとうにすごいのはここで聴かれるようなベースワークなんです。その場を照らす光が、青みがかっていたと思ったら、金色にきらめいたり、木の葉を透かしてうつろう影を、ほんの一音で呼び醒ましてしまう瞬間、沈む夕陽の匂いまでも。★付箋文★雑誌Jazz Lifeの四コママンガでそれぞれの変人ぷりが笑いのめされてしまうほどの`大人のパラダイス’は、今年その歴史を閉じる厚生年金会館での来日公演(たしか1980年だった)も、Weather Reportという、不思議な名前のユニットが年代ものの古いホールをも楽園と化してしまったのでした。 いまはあまり聴かれなくなったPat Methenyの『Off Ramp』に収録されている優しい`Jaco’。コーラばかり飲むPMとアルコールに溺れたJacoがどんな風にお互いの音楽性を理解し合えていたかはJoni MitchelのShadows and Lightsに残されている。これもまたすばらしいメンバーが参加していて、よく撮っていてくれたと、それだけでも感動を覚えてしまう。そう、あれはまだBirdland がまだManhattan Transferにカバーされていなかった頃だった。