ペンデレツキ(Penderecki)/怒りの日(アウシュビッツで殺害された人びとの思い出に捧げるオラトリオ)
後期ロマン派までのクラシック曲に使われるのなら、Dies Iraeというタイトルは、磔刑にかけられたキリストの受難を悲嘆し、人間に救いを齎(もたら)すはずであった‘神の子’イエスが、ピラトのわずかに兆した慈悲をも無に帰する民衆の声によって、またたくまに残虐の限りを尽くされて犠牲になるその日を悼み、心ある人はユダのように何も救いの言葉をかけられなかったみずからの裏切りを後悔し、以降、信者たちはその一点に、その神の子の虐殺の日を起点として刻みつけられた現在にいたるまでの呪詛に対し、同じくほとんど呪詛に近い感情をほとばしらせる、厳粛な曲となるべき主題である。ペンデレツキ:怒りの日、ポリモルフィア、他価格:1,800円(税込、送料別)ライナーノーツに沼野雄司氏が書いているように、ペンデレツキの経歴は「ある意味で20世紀後半の音楽史を象徴するものといえる。」しかし、その直後にカッコ付きで「ポーランドの「雪融け」以降、新しい音楽の旗手として華々しいデビューを飾った後、70年代にはいち早く前衛から「転向」。」と、沼野氏はそこにペンデレツキ自身の闇をも照らそうとしているようでもある。転向とは、ある時代には裏切りと同義語であった。何か、禍々しさと、気高さと、言いようのない神聖な暴力性-それはクロソウスキーの描く、アンビバレントな二つの価値の両極に振れる、大きな振幅-救罪と奈落の底を見せつけられる拷問にも似た感覚を、音楽という体験によって身をもって知らされるものなのだ。しかし。なんという秘匿された、抗いがたい禁断の快楽であろうか。それを紐解くことは、まずもって不可能に違いない。