のどかな時間
昔、昔、その昔。町に、おじいさんとおばあさんが,小さな店をやっていました。おじいさんは、毎日川へ魚釣り、大きな町から問屋の営業マンが来たときだけが彼の出番。おばあちゃんは,お店の奥の居間まで、近所の友人、おヨネさんと馬鹿話しているか、孫の相手の片手間にお店番。それでも息子や娘を一人前に育てることができました。そして二人は,今、この孫3人を大学まで出してやろうと夢を見ているのでした。だからといってそれでチラシを蒔こうとか、店舗改装をやろうとか、そんな頑張る気持ちはありませんでした。そんなことを考えずとも,客は来てくれたからです。なぜなら、この町にはこのお店の他に2つあるだけ。このお店、A店は煙草と酒、塩といった専売品を中心に、ちょっとした食品、駄菓子など。もう一つのお店B店は、下駄と靴など履き物と呉服小物。それに火薬。もう一つC店は、文具、本など、皆、小さなお店でしたが、それぞれ棲み分けと強みがあって共栄共存。それなりに潤っていました。ちなみにC店なぞ、3階建てのビルをつくっていました。1階は、店舗兼居間。?階は、在庫置き場の倉庫。3階は住宅。Aは,専売品の強み。Bは、シューズや制服を学校などへ納めている強みCは、官公庁への納めと,学校への教科書独占です。この小さな町にも、物を売る側にとっては平和で、おだやかで、良い時代がありました。売らなくても、商品を並べておけば売れた時代。その時代のなごりか,今でも,鹿児島の田舎では客が,店に来て挨拶。「ごめんなっせ、すんませんが、パンば,ちっとわけったもんせ」共通語に翻訳すると。ごめん下さいませ。もうしわけありませんが、パンを少々でも分けて下さいませんか。補足。分けて下さいませとは、只で,と言う意味ではない。売っていただけませんか、の一種の謙譲語である。分けていただいて,帰るときの客の挨拶。その商品を,自分の額の上に惜しい抱き、客;「あいがとうごわいもした。またたのんみゃげもんで」店:受け取ったお金を,手提げ金庫に,投げ入れながら、「また、きゃんせ」これも通訳。客;「ありがとうございました。またぜひお願いをいたします」店:「また、おいでなさい」昭和30年前半ののどかな,商店の風景です。