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テーマ:私の読書(24)
カテゴリ:本
黒澤明 樹海の迷宮 野上照代、ウラジミール・ヴァシーリエフ、笹井隆男 2015年
映画「デルス・ウザーラ」全記録1971~1975 64歳でシベリアでの8か月に及ぶ撮影をこなし、1975年に公開されたソビエト映画。その企画、制作、公開、受賞までの一部始終が明らかにされていた。黒澤明のほとばしる意欲と激しい仕事振りを聞いてはいたが、こういうことなのかとよくわかった。 制作に至るまでの経緯や、いろいろな人々の思い入れ、ソビエトの国策の事情、脚本の厳しい推敲、役者・演技・背景・小道具・衣装・動物などのリアリティー、アングル、季節などのあらゆることへの細部にわたる準備と実現への努力、スタッフとの妥協を許さない関係、憤り・不満・罵倒・怒り、痛飲など、あまさず披露されている。とても長い撮影日誌は悪戦苦闘しながら仕上げきる生き生きとした姿がわかるものだった。64歳の枯淡の境地とは異次元の熱血の撮影記録だ。 また、今回初公開として収録されている脚本の決定稿は、映画を短縮化するためになくなったシーンや、フィルム事故などで使えなくなったために変更してしまったシーンが、削られずにもとのまま読めるものだった。とても感動的で面白い「小説」だ。 自然と共存する人間、収奪する人間、互いに争い合う人間と、様々な人間の有様をみせつけて、ともに生きていくことを頑なに守る境地にある人間の気高さを讃美している。やがて、老い、孤独と恐怖にさらされる現実、最期には畏れていた自然ではなく、同じ人間に命を奪われてしまう人間の無残な宿命も描き出していた。 境地に達した人が、人間と自然の厳然たる老いの法則を突きつけられ、静かな気持ちに満たされていくといったような心境になる。 七転八倒するような映画製作現場にしてしまう天才監督は、64歳にしていかがな心境であったのだろう。案外、主人公と似たような境地であったのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 1, 2015 02:27:13 PM
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