私は、全国各地のお祭りによく出没するいわゆる「テキ屋」さん。
(・・という噂がある)
冗談はさておき、テキ屋は「的屋」である。
Web百科事典「Wikipedia」で調べてみると、詳しく書かれている。
引用:
「的屋(てきや、テキ屋)とは、祭や縁日などで屋台を出し、其れを生業にしている職業を指す。香具師(やし)とも呼ばれる。
主に、綿菓子、リンゴ飴、甘栗などを販売している。一般的には数件の店が一つのグループを作り、地方の縁日などを回っている。 過去に於いて一部の他屋台店も「所場代(ショバ代)」と呼ばれるものを暴力団に上納している事があったが、現在はこの様な行為はなりを潜めている。 また、以前は区割りを的屋の主だった者が行っていたが、現在は自治体、主催団体が行う事が多くなった。 これにより、地元の商店が的屋に混じって屋台を出す機会が増えた。」・・・(後略)
結構、日本の伝統的な商売であるのだ。
これからは、お祭りシーズンで、的屋の稼ぎ時である。
しかし、子供心に、わくわくした博打風出店にも、裏のカラクリがあったことは、しばらく経ってから知ることになる。
ふと、神田祭りに行って、そんなことを思いついたのであるが、
今回から、そのいくつかの出し物を、摘発してみたい(オーバーだよ!!)。
題して、「破戒の祭り」。
第1回。
まず、真っ先に思い出されるのは、私は「ルーレット」である。
ルーレットと言っても、やじろべえみたいなバランスを取ってある回転する棒のことだ。
さきっちょに、針がぶら下がっていて、くるくる回して、盤面上の止まった景品が当たる。
しかし、ほとんどが「スカ」なので、何ももらえないのだが、あたれば、大型ラジオとか、高級双眼鏡、天体望遠鏡など、その時代の子供のあこがれの逸品たちであった。
そして、憎いのが、
「いいよ、坊や、タダで練習してみなよ」
という、お店のおじさんの心優しいお言葉なのであった。
「え?いいの?」
と言って、早速、ルーレット棒をはじかせてもらう。
軸はくるりとゆっくり回って、高級双眼鏡に止まるのだ。
「お、上手だねえ!こりゃ、やってみれば、あたるよ」
自信がついた私は、一回10円の賭けに挑むのである。
えい!と、先ほどより少し力が入ったのか、軸はくるくると回って、そのうちゆっくりと景品に向かって止まる・・・と思いきや、すんでのところで、高級双眼鏡を通り越して、「スカ」で止まってしまうのだった。
「お!おしい!力が入り過ぎだよ。ほら、手を貸してごらん」
と言って、おじさんは、再度私に練習をさせてくれる。
「力を入れないように、軽くはじくんだよ」
軸はスーと動いて、一周しないうちに、天体望遠鏡にとまった。
「お!すごいよ、今度は天体望遠鏡だよ!」
練習のときはやたら大当たりする。
ここで怪しまなくてはいけないのだが、やはり、昔の子供は純真無垢である。
人を疑うということをしない。
もう一回、親に10円くれー!!とねだるんだが、ほらほらあっちに行こう!といって、綿菓子を買わされるのが落ちだった。
このルーレットには、もちろん「しかけ」があった。
軸の回転台には、テーブルの下まで、糸がのびていて、おじさんの足の指にその糸は結ばれている。
おじさんが、足の指で糸を引っ張ると、ルーレットにブレーキがかかって、おじさんの思った場所に止まるのだ。
練習のときは大当たりさせて、いざ本番では「スカ」にしか当てない。
時々当てても、チョコレートとか、ガムである。
まあ、親も、このカラクリを知っていたのか・・もっとやりたいと言ってせがむ子供をその場からやっとのことで引き離していたのだろう。
親が偉いのは、その場で、「インチキ」をバラさなかったことか。
もし、その時にインチキカラクリを教えられたら、なんか、子供の夢・・お祭りのあこがれが壊されてしまったに違いない。
といっても、私が真相を知るのは、その2年後で、友人が学校で、バラしてくれたのである。
何でも、彼は、インチキじゃないかと思って、出店が閉店して、おじさんが後片付けするまで、ずっと張っていたらしい。
「ああー!やっぱり、インチキじゃないか!」
と、友人は騒いだらしい。
「何言ってんだよ!あんまりハズレばかり出ないように、してやってんだから!・・ほれ、坊主!これやるから、帰んな!」
おじさんは、景品のチョコレートをくれたそうだ。
学校で、みんなで「いいないいなアー」と、彼は憧れの的であった。
ま、考えてみれば、だまされた我々以上に、お人好しなやつだったわけであるが・・・