ルナ
僕とルナの長い夜が始まった。ルナが横たわる箱の横に背中くらいしかカバーできないホットカーペットと薄掛け布団で僕も横になる。でも、箱の壁で僕の顔が見えなくなるとルナは力の入らない脚で必死に起きあがろうとするので僕もそのたびに起きあがっては「ここにいるからね」と言葉をかける。そんなかんじで時々切ない鳴き声を上げたり、起きあがろうとしたりで時間は過ぎてゆく。でも、その鳴き声はとても辛いものがあり、あまり長くなるようなら安楽死を考えるほどのもの。時間は3時を過ぎた頃だろうか・・準夜から帰宅してそのままだったため少し眠気に襲われ横になった拍子に15分ほど意識がなかったようだ。ふと箱の中を見るとルナは完全に起きあがるような状態ではなく、下痢というには水分だけの便と少量の水を吐いていた。ところがペットシーツで拭いてあげようにもあまりにも苦しそうでなかなかルナの体を動かせない。可能な限り拭いてはみたけれど、すでに呼吸は浅くて断続的になっている。もう頭も起こせない状態。これは最期が本当に近いと思って隣の和室で寝ているまやを起こした。ルナの顔を撫でながらずっと声をかけていた。「今までありがとうな」「楽しかったね」「ずっと一緒におるからな」そして4時ちょうど。呼吸による胸郭の動きが止まった。「いややー!!」「ずっと一緒におってよ!!」安心させて逝かせてあげるつもりが、やはり本音が出てしまった。目を開いたまま口だけの呼吸しようとする動きが3回ほどあった後、ルナは動かなくなってしまった・・・。僕とまやに見守られながら最期の時を迎えさせてやることができた。確かにそれはせめてもの救いであったかもしれない。だけど、この11年の思い出は僕にとってとても大切な人生の流れであり、その時間を共に過ごしてきた唯一の家族を失ってしまった悲しみは大きすぎるものがあった。それからまやは再び眠りにつき、僕はただ泣き叫びながらルナの横に座っていた。朝が来るまで少しでも寝ようと布団に入ったりもしたけど、隣のダイニングでルナに寂しい思いをさせてはいけないと、やはり眠れはしなかった。もう、どうしていいかわからないまま夜が明けてそのうちみっちぃも目を覚ました。動かなくなってしまったルナを見てみっちぃはまだ寝ぼけてたのもあって反応は非常に少なかった。当然まだ死への理解なんてできてはいないんだろうけどそれでも昨日までのルナとは違うことを感じていたようで近づこうとはしなかった。でも、「最後にお別れしてあげて」と言うとルナの頭をそっと撫でていた。ペットの葬儀業者を呼んで10時前、ルナはそんな業者の車とは思えない派手な黄色い軽をVWバス風にカスタムした車に乗せられ6年間過ごした家を出ていった。最後にルナの顔に額を押しつけて声が届くように願いながら「ありがとう」と呟いた。業者の人からも言われたけど、もしももっと長生きしても病気で苦しむたびにさらに苦痛な点滴や投薬をさせたりして生き長らえさせることが本当にルナにとって幸せなのか?と言うと最低限の苦しみで大好きだった家族に看取られて旅立てたほうがずっと幸せだったのかもしれない。僕ら家族も獣医さんもルナもみんな頑張った。獣医さんへ電話して報告とお礼を言おうとしたけれど涙が止まらなくて声が詰まってなかなかうまく言えなかった。いろいろと苦労したこともあったけど、ルナと出逢えて一緒に暮らしてきて本当に良かったと思う。悲しんでばかりもいられないことはわかってる。でも、今は大きな穴がポッカリと空いてしまっている状態の僕だけが残っている。